本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
オープンイノベーションプラットフォームを活用したスマートシティへの取組み
岸田内閣が2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けるなか、スマートシティの取組みの1つとしてスタートアップとの連携が進んでいます。加えて、社外の技術や知を取り入れて既存事業の高度化や新規事業を創出する「オープンイノベーション」の有用性が知られるようになり、協業相手探しを支援するオープンイノベーションプラットフォームの活用も進んでいます。
オープンイノベーションの1つに「アクセラレーションプログラム」があります。大企業側が事業創出に向けて特定のテーマを設定し、スタートアップに実証実験の場やリソースを提供する形で実施されるものです。たとえば、新規事業開発のRelicは、渋谷区の官民連携オープンイノベーションでさまざまな行政テーマに対してスタートアップの参加を募っています。
しかし、このようなプログラムを実施する際には注意も必要であり、「事業プランのブラッシュアップ」や「実証実験」を求める企業に効果的にアプローチすることが重要になります。また、同様のオープンイノベーションプログラムが各地で実施されており、応募するスタートアップがどれだけあるのかという点にも気を付ける必要があります。
海外では、アクセラレーションプログラムに参加した企業とそうでない企業の相違点を分析した論文が公開されています。この論文の重要なポイントは、プログラム参加企業はブラッシュアップによる仮説検証により早めに事業の成否がわかってしまうという点にあります。論文では「参加企業」のほうが「不参加企業」よりも事業クローズが早いというデータが示されています。一度ブラッシュアップを経験した企業はニーズが満たされ、同様のプログラムに再度応募する必要はなくなるのです。
協業を積極的に推進するには、スタートアップも製品・サービスがある状態が望ましいため、事業が軌道に乗ったミドルステージなど一定の規模に成長していることが望まれます。ただし、そうしたスタートアップは限られることから、オープンイノベーションプログラムの需給構造は、常に「応募しようとするスタートアップ」のプールは消費され続けるという構造になっており、スタートアップのさらなる創出が期待されます。このため、この種のプログラムを差異化するには「直接」スタートアップに声掛けし、本気度を示すことが必要となります。
Relicによると、スタートアップの募集に成功しているオープンイノベーションプログラムには、「泥臭さ」があると言います。オープンイノベーションプログラムのプラットフォームは、単に開けておくだけではなく、協業の事業仮説を作成し、積極的にスタートアップにアプローチすることが求められます。
スタートアップとの「共創」では、スタートアップ側よりも協業を求める自治体・企業側の努力がより強く求められることになります。
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日経産業新聞 2022年9月15日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 渡邊 崇之