本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
スマートシティの実現とデジタルツイン
デジタルツインとは、物理空間の物体を仮想空間上に再現し、収集した人流や環境などの情報を反映することで、「ツイン(双子)」を構築するというものです。日本でも製造業を中心に導入が進んでおり、仮想空間上に再現した工場や生産ラインでシミュレーションすることで、試作期間の短縮やコスト削減、設備の予知保全などに効果を上げています。
デジタルツインは都市計画でも活用が期待できます。サイバー空間と物理空間を高度に融合させて経済発展と社会課題の解決を両立させる「ソサエティ5.0」の実現に向けて、国土交通省は2020年度から「Project PLATEAU(プラトー)」と銘打った3D都市モデルを基盤とした「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション(DX)」を進めています。
「プラトー」は、都市空間にある建物や街路、橋梁などの名称や用途、建設年などの都市活動情報を定義・付与することで、都市空間の意味を再現するセマンティック(意味論)データモデルです。たとえば、「屋根」の角度や傾き、日陰などのデータを入力することで太陽光発電のシミュレーションができるなど、都市計画の立案への活用が見込まれています。
自治体でもデジタルツインの活用が始まりつつあります。東京都は2022年3月に「デジタルツインの社会実装に向けたロードマップ」を公表し、防災・まちづくり・モビリティといった複数の領域で、2040年までにデジタルツイン上で高度なシミュレーションを実現するとしています。
静岡県は県土を仮想空間に再現する「バーチャル静岡」構想の実現を進めています。これは、街や森、河川など県全域の3次元点群データを取得してオープンデータ化する取組みです。2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害では、3Dモデルを駆使して発災当日に土石流の主因となった盛り土の存在を特定し、大きな注目を集めました。
また、小田急線海老名駅(神奈川県海老名市)周辺では、複数の民間企業と大学が連携して、デジタルツインを使って利用者の行動変容を促す試みに取り組んでいます。仮想空間上に駅と周辺エリアを再現し、人流・交通・購買・来訪者の属性などのデータを使って人の流れや行動を可視化・予測、来訪者のスマートフォンアプリヘの各種情報の通知やクーボンの発行、デジタルサイネージで情報表示などをするものです。
人口減少局面で都市サービスを維持・継続していくには、都市の「DX=スマートシティ化」は必須です。一方、街づくりの現場では市民との合意形成が欠かせません。街の実情を可視化し、その未来の在り方についてさまざまな切りロからシミュレーション結果を示せるデジタルツインは、納得感のある街づくりを進めるためのプラットフォームになる可能性があります。
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日経産業新聞 2022年9月14日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 平田 篤郎