地方公共団体における標準準拠システムへの移行

第2回の本稿では、ガバメントクラウドの取組みとともに進められている、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」に基づく標準準拠システムの構築に関して、地方公共団体におけるこれまでのシステム標準化の取組みや、これらとの違いをご紹介します。

「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」に基づく標準準拠システムの構築に関して、地方公共団体におけるこれまでのシステム標準化の取組みや、これらとの違いをご紹介します。

1.地方公共団体情報システム標準化の取組み

令和3年(2021年)5月、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(令和3年法律第40号、以下「標準化法」)が公布され、同年9月より施行されました。標準化法第6条第1項に基づき、20業務を対象として標準仕様書の作成が進められ、令和4年(2022年)8月末までに全業務の標準仕様書が出揃った状況です。地方公共団体およびシステムベンダ等の事業者は、この標準仕様書等に基づいた「標準準拠システム」をガバメントクラウド上に構築します。

地方公共団体の業務システムに関する標準化の取組みは、標準化法以前より行われてきました。平成19年(2007年)に地域情報プラットフォーム標準仕様(一般財団法人 全国地域情報化推進協会(APPLIC))、平成24年(2012年)に中間標準レイアウト仕様(総務省にて公開、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)にて維持管理を実施)の初版がリリースされ、以後現在に至るまで法制度改正の反映等、継続的に改定が行われています。特に市区町村では、地域情報プラットフォーム標準仕様に準拠したシステムの導入率は非常に高く、基幹業務の多くは85%以上に達しています1

地域情報プラットフォーム標準仕様は、主に業務システム間の連携におけるデータ項目および技術仕様を規定しており、複数の異なる事業者(マルチベンダ)が提供する業務システム間の情報連携実現を目的の1つとしています。また、中間標準レイアウト仕様は、システム更改時に必要となる移行データのレイアウトを標準化することで、異なる事業者のシステム間における円滑なデータ移行と移行コスト削減の実現を可能とするために定められました。

このようにシステム間のインタフェースやデータレイアウトに関しては標準化が進められてきましたが、基幹業務システムが実装する機能に関しては、地方公共団体や事業者間で差異があるというのが実態です。基幹業務システムは対象事務の根拠法令に基づいて設計されますが、ソフトウェアの機能や実装方法は事業者の競争領域であることや、地方公共団体個々の利便性観点等からカスタマイズが行われることよって、同一の業務を対象とするシステムでも差異が生じており、維持管理や法制度改正対応における地方公共団体の負担低減、システムの共同利用化・クラウド移行促進、住民サービスを向上させる取組みの全国的かつ迅速な普及における課題とされています。

「デジタル・ガバメント実行計画」(令和2年(2020年)12月25日 閣議決定)では、地方公共団体のデジタル・ガバメント構築に向けて業務プロセス・情報システムの標準化を推進するため、業務改革(BPR)を前提として、地域情報プラットフォーム標準仕様または中間標準レイアウト仕様に示されている17業務を処理する基幹業務システムの標準仕様を、デジタル庁が策定する基本方針の下で関係府省が作成することが示されました。その後、標準化法が公布・施行され、標準化対象事務は戸籍や印鑑登録等を加えた20業務になりました。

デジタル庁は、標準化法第5条第1項に定められる「基本的な方針」として「地方公共団体情報システム標準化基本方針」(以下「基本方針」)を策定し、令和4年(2022年)10月7日に閣議決定されました。これにより、地方公共団体および基幹業務システムを開発・提供する事業者は、標準化法第6条第1項および第7条第1項に規定される標準化のために必要な基準、すなわち標準化対象事務に係る機能およびシステムに共通する機能や、データ要件・連携要件についての標準仕様書をはじめとする「標準化基準」に適合した「標準準拠システム」を構築し、令和7年度を目標として移行に取り組むことが決定しました。

2.これまでの標準化との違い

基本方針および標準化基準には、地域情報プラットフォーム標準仕様や中間標準レイアウト仕様による標準化との大きな違いがあります。

  • 法令に基づく取組みであること
    地域情報プラットフォーム標準仕様や中間標準レイアウト仕様は、省庁の施策等に基づいた官民協働の取組みであって法令に依るものではなく、仕様への準拠は任意です。これに対して、基本方針や標準化基準の策定は標準化法に基づくものであり、標準準拠システムへの移行は必須であるなど、一種の強制力が働いています。
  • 基幹業務システムの機能要件、非機能要件等を定めていること
    標準化基準では、システム間のインタフェースやデータ項目だけでなく、機能要件や非機能要件、業務フロー、帳票レイアウトなど、これまで地方公共団体やシステムベンダの領域であった部分についても踏み込んで標準化を行っています。

表1 各標準仕様の比較

地方公共団体における標準準拠システムへの移行-1
  • 機能標準化基準にない機能は標準準拠システムに実装ができないこと
    地域情報プラットフォーム標準仕様や中間標準レイアウト仕様は、システムがこれらの仕様に準拠していればよく、他のインタフェースやデータ項目等の実装を制限するものではありません。

標準化基準には、共通機能やデータ要件・連携要件を対象とした「共通標準化基準」と、標準化対象事務を実現するためのシステム(基幹業務システム)を対象とした「機能標準化基準」の2つがありますが、基本方針では、機能標準化基準(基幹業務システムの標準仕様書が該当)に規定する機能要件を「実装必須機能」「標準オプション機能」「実装不可機能」に分類しています。このうち、「実装不可機能」はその名の通り、標準準拠システムへの実装だけでなく、標準準拠システムと疎結合で構築することも認められません。

また、標準仕様書で明示的に標準化対象外とする施策に係る機能(標準化対象外機能)や、標準化対象外の事務を実現するためのシステム(外部システムを除く独自施策システム)との連携も、疎結合で構築しなければなりません。つまり、「標準仕様書に規定される機能以外は標準準拠システムには実装してはならない」ということであり、従来の標準仕様への準拠とは大きく異なる点と言えます。

なお、共通機能はその内部の機能について、最低限の実装必須機能に関する標準を作成するものとしており、各事業者が共通機能内部の機能追加や疎結合による新規機能作成を許容しています。

図1 標準準拠システムの範囲(イメージ)

地方公共団体における標準準拠システムへの移行-2

3.標準準拠システムへの移行に関する取組み

デジタル庁において、ガバメントクラウド先行事業(令和3年度~4年度)を実施しています。本先行事業では8団体が参加して、主に4つの事項について検証を行います。その1つとして標準準拠システムへの移行方法の検証を行い、リフト(ガバメントクラウドへの移行)したシステムとリフトしないシステムとの連携、「リフト後にシフト(標準準拠システムへの移行)を実施」と「リフト・シフトを同時に実施」の2つの移行方法を比較検証します。令和4年(2022年)9月にはデジタル庁からガバメントクラウド先行事業の中間報告が公表されていますが、標準準拠システムへの移行方法の検証結果は令和5年(2023年)3月の公表を予定しており、地方公共団体にとってより有益な情報が得られるものと考えます。

表2 ガバメントクラウド先行事業での検証事項

地方公共団体における標準準拠システムへの移行-3

デジタル庁「ガバメントクラウド先行事業 (基幹業務システム) 中間公表について」(2022年9月)より引用

地方公共団体は標準化基準への適合、標準準拠システムへの移行、ガバメントクラウドへの移行を実現するために、関係事業者とともに具体的な検討を進めている状況です。今後、検討の過程においてさまざまな課題等が出るものと想定されますが、先行事業成果の活用や、基本方針に示される通りデジタル庁および制度所管省庁と連携し、対応を進めていくことになります。

地方公共団体における基幹業務システムの標準化は長年に渡って検討されてきたテーマですが、今回の取組みからは、行政のデジタル化に向けた国の強い意志が窺えます。また、地方公共団体や事業者は、これまでの国の施策や基幹業務システム構築の中でも、最もドラスティックな変化と対応を要求されていると言えます。

標準準拠システムへの移行に向けて、国と地方公共団体の連携だけでなく、関係事業者との協働もより一層必要となるでしょう。

執筆者

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
シニアマネジャー 江川 充

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