政府が進めるガバメントクラウドの取組み概要と現状

国および地方公共団体におけるガバメントクラウドの取組みに着目して、その概要やガバメントクラウドを利用する際に求められるアーキテクチャー、地方公共団体における検討状況についての取組みを3回にわたり紹介します。

政府が進めるガバメントクラウドの取組み概要やガバメントクラウドを利用する際に求められるアーキテクチャー、地方公共団体における検討状況について、3回にわたり紹介します。

1.政府におけるデジタル施策

政府では、令和2年(2020年)「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が策定され、令和3年(2021年)9月1日にデジタル庁が発足しました。デジタル庁はこの国の人々の幸福を何よりも優先し、国や地方公共団体、民間事業者などの関係者と連携して社会全体のデジタル化を推進する取組みを牽引しています。

デジタル技術の進展によりデータの重要性が飛躍的に高まるなか、日本で世界水準のデジタル社会を実現するには、目指すべき将来像を描き、構造改革、地方の課題解決、セキュリティ対策といった多くの取組みを関係者が一丸となって推進する必要があります。こうした状況を踏まえ、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和4年6月改定)が策定されました。本計画は、目指すべきデジタル社会の実現に向けて、政府が迅速かつ重点的に実施すべき施策が明記され、また、本計画をもとにデジタル庁が中心となって、各府省庁と連携した構造改革や個別の施策が推進されています。

2.デジタル社会の実現に向けた重点計画

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では政府におけるさまざまなデジタル施策が定義されていますが、「第6 デジタル社会の実現に向けた施策」のなかの「国の情報システムの刷新」として、新府省間ネットワーク構築等のネットワークの整備、府省LANと認証基盤の統合等とともに、ガバメントクラウドの整備について明記されています。ガバメントクラウドは、クラウドサービスの利点を最大限に活用することで迅速、柔軟、セキュアかつコスト効率の高いシステムを構築し、利用者への利便性の高いサービスの提供を目指したものです。

また、「地方の情報システムの刷新」は、地方公共団体の職員が真に住民サービスを必要とする住民に手を差し伸べることができるように、住民サービスの向上を目指し、業務全体のコストを抑え、他ベンダーへの移行をしやすくする競争環境の確保を目指すものです。地方公共団体では、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律第6条第1項および第7条第1項に規定する標準化基準への適合とガバメントクラウドの活用を図り、令和7年度を目標として地方公共団体の基幹業務等システムの統一・標準化を進めています。

地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化は、ガバメントクラウドの活用を前提に進んでおり、また、新府省間ネットワーク構築や府省LANと認証基盤の統合も平行して進んでいます。これらの政策は相互に連携し、「国のデジタル基盤整備」という形で進められています。以下、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を踏まえ、KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクターがまとめた関連する取組みスケジュールを示します。

図1 取組みスケジュール(デジタル社会の実現に向けた重点計画を元に弊社作成)

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3.地方の情報システムの刷新に向けた取組み状況

地方公共団体基幹業務システムに関する標準仕様の検討は所管府省庁を中心に進められており、現時点までに全業務の標準仕様が出揃った状況となっています。(以下、「表1 標準仕様の作成・改定状況」を参照)

表1 標準仕様の作成・改定状況(記事執筆時点)

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また、上記と合わせてデジタル庁、総務省等を中心に以下の取組みも平行して進められており、これらの情報をもとに、目標である令和7年度に向けて、地方公共団体の基幹業務等システムの統一・標準化に関する具体的な検討を地方公共団体や関連する事業者が進めている状況です。

表2 各所管府省庁による取組み(記事執筆時点)

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4.ガバメントクラウド整備の取組み

上記と同期を取って進められているのが「国の情報システムの刷新」に定義されている「ガバメントクラウド」の整備です。ガバメントクラウドは地方公共団体だけでなく、府省の情報システムも利用する政府の基盤機能です。本格的な利用開始は令和5年度以降になると予想されます。これまでの取組み経緯を簡単にご紹介すると、まず、2018年6月各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議にて「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」が決定されました。これは、クラウドバイデフォルト原則を具体化し、各府省が効果的なクラウドサービスを採用し、かつクラウドサービスを効果的に利用するにあたってのクラウドサービス利用検討フェーズにおける基本的な考え方を示すものとして発表されたものです。本方針は2022年5月に改定され、「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」としてタイトルも改変されています。旧方針では「クラウドファースト」(先ずはクラウド利用を検討する)が目的とされていたところ、本方針では「クラウドスマート」(クラウドを賢く適切に利用する)に改定されており、クラウドの「マネージドサービス」と「IaC(Infrastructure as Code)」の採用やアプリケーションのモダン化等が具体的に示されています。政府の基盤となるガバメントクラウドの検討は、上記の取組みを踏まえて進んでいる状況です。

ガバメントクラウドは、政府の情報システムについて共通的な基盤・機能を提供する複数のクラウドサービス(IaaS、PaaS、SaaS)を利用可能な環境となっています。令和3年10月にawsおよびGCPが採択され令和4年10月にはMicrosoft Azure、Oracle Cloudが追加されてCSP(Cloud Service Provider)事業者は計4社となり、利用者が最適なクラウドサービスを選択できるようになっています。

令和7年度の地方公共団体の基幹業務等システムの統一・標準化に向けて基幹業務等の各標準仕様や共通仕様が出揃い、また、利用するガバメントクラウドが追加で採択されるなど、地方公共団体が検討を本格的に進めるために必要な条件が整ってきました。これらの条件を踏まえて、今後、地方公共団体では基幹業務システムの標準仕様化と合わせて、ガバメントクラウドの活用可否を今後検討することとなるでしょう。

執筆者

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
パートナー 吉田 昌幸

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