ブラジル:移転価格の新たな展望

2022年12月29日、ブラジル政府は、移転価格制度をOECDガイドラインと整合することを目的とした暫定令1.152号/2022(Medida Provisória nº 1.152/2022)を公布しました。

2022年12月29日、ブラジル政府は、移転価格制度をOECDガイドラインと整合することを目的とした暫定令を公布しました。

2022年12月29日、ブラジル政府は、移転価格制度をOECDガイドラインと整合することを目的とした暫定令1.152号/2022(Medida Provisória nº 1.152/2022)を公布しました。

この度、KPMGブラジルでは、暫定令で発表された移転価格制度に係る「暫定令の成立までのプロセス」「改正ポイント」「OECDガイドラインとの相違点」「今後の対応について」について記載したニューズレター(ポルトガル語)を発行いたしましたので、当メールにてご案内させていただきます。

(ポルトガル語)
Um novo cenário de preços de transferência no Brasil - KPMG Brasil (home.kpmg)


なお、日本語訳は以下になります。

2022年12月29日、ブラジル政府は、移転価格制度をOECDガイドラインと整合することを目的とした暫定令1.152号/2022(Medida Provisória nº 1.152/2022)を公布しました。この変更は、世界で8番目の経済大国であるブラジルで活動する多国籍企業に劇的な影響を及ぼすことが想定されます。その最も大きな変化は、現行制度で欠如していた「独立企業間原則」の導入です。これにより、移転価格の新たな算定方法や書類要件、さらに無形資産、金融取引、事業再編の取り扱いについて大きな変革が起こるでしょう。

1.暫定令の成立までのプロセス

公布された暫定令は一般法として成立するために120日以内に合同委員会、下院および上院の可決を得る必要があります。こうしたプロセスの存在は、当該法令の成立に対して不確実性をもたらしますが、KPMGは新政権と新たに選出された議会が、当該法令を支持する可能性が高いと観測しています。2023年度において、ブラジルの納税者は暫定令に基づいた方式を任意で選択することが可能ですが、2024年1月1日以降は、暫定令に基づいた方式の選択が義務付けられます。

2.改正のポイント

ブラジルの観点から考えると、全てにおいて変化が生じると言えます。法律の複雑さや主観性を補完すべく、ブラジル国税庁から規則が、今後発表されることが期待されます。全体を通してみると、この新しい移転価格ルールは、最新のOECD移転価格ガイドラインを反映していると言えるでしょう。

  • 有形財、役務提供、権利に焦点を当てた従来のルールと異なり、あらゆる種類の商取引および金融取引が新ルールの適用範囲に含まれます。
  • 現行の移転価格算定方法に代わり、OECDの基本三法が導入されます。従って、ブラジルの多国籍企業が関わる取引に対して取引単位営業利益法(TNMM)および利益分割法(Profit Split)(ブラジルではそれぞれMLT、MDLと呼称)が既に利用可能となっています。
  • 固定マージンに代わり、比較可能性分析、機能分析、ベンチマーキングが移転価格分析を担うようになります。
  • 現在、ECFを通じて提出している計算書に代わり、移転価格文書が導入されます。
  • 従来、税額控除の観点からのみ扱われていた金融取引および無形財に関わる取引が移転価格のトピックとなります。
  • DEMPE機能および評価困難な無形財(HTV)の概念がブラジルの移転価格制度に導入されます。
  • 役務提供の定義が拡大されます。一方、OECDとの共同記者会見でブラジル国税庁が言及した低付加価値な役務提供は今回の暫定令に含まれておらず、当該暫定令の第38条に記載があるように今後制定される規則の対象となることが想定されます。
  • 現状、ブラジルの税務当局から目を向けられていない企業再編について、移転価格ルールの適用を受けるようになります。
  • 現行制度化ではブラジルの納税者は、移転に関する税務調整を所得税申告書で直接行い、報告しています。このオプションは存続するものの、より多くの種類の調整が可能になります。他国では「year-end adjustments」と呼ばれる、取引単位営業利益法を適用する際によく行われる相殺的な調整が暫定令で想定されています。一方、税務当局によって移転価格調整が行われた場合、推定貸付という形での二次調整の実施が導入されます。
  • 移転価格における事前確認制度(APA)と相互協議(MAP)の可能性。
  • 書類の未提出または不完全な書類の提出による罰金の規定。

3.OECDガイドラインとの相違点

これまでのブラジルの税法に関する改正では、グローバルスタンダードと異なる規則の導入が往々にして行われており、今回の暫定令も数は少ないながらも、OECDガイドラインと相違する点がいくつか存在します。

  • コモディティはブラジル経済で重要な役割を担うことから、特別な扱いを受けています。全体的にコモディティの定義が拡大されている一方、特定の算定方法の強制適用が放棄されています。しかし、独立価格比準法(PIC)への明確な優先順位、取引期限に関するルール、コモディティの輸出入業者が税務当局に対して移転価格に関する情報の提出義務を負うといった項目は、制度の複雑さが増す要因となることが懸念されます。
  • 補完的な調整は、ブラジルの企業が赤字でない場合にのみ認められます。そのため、利益分割法(Profit Split)および取引単位営業利益法(TNMM)の適用が制限される可能性があることから、議論の的となる可能性があります。
  • ブラジル国税庁は、評価困難な無形財(HVT)を含む取引の不確実性に対処する方法について、独自なアイデアを有しています。ライセンスの形を取った偶発的な支払いまたは特定のトリガーが発生した場合に自動的に調整を開始する価格調整条項といった対処方法が想定されています。
  • グループ内融資に対して、債権者側の自国通貨建て国債のリスクフリーレートに、リスクを考慮したスプレッドを加算した利率が上限として設定されていると解釈されています。この措置はOECDガイドライン第X章に記載されているアプローチとかけ離れたものであると言えます。
  • 金融保証は、暗黙的支援を超える金額の50%に限り認められており、また、その保証業務が株主の事業活動とみなされない場合に限ります。
  • 文書化の要件にグループのグローバルでの税務状況や収益性等の情報が含まれており、OECDのローカルファイルの概念を超えているものとなっています。
  • 暫定令の多くの部分は解釈を必要としており、ブラジル国税庁がすでに述べたように、今後公布される規則による具体的な規制が制定される予定です。

4.今後の対応について

ブラジルで事業を行う多国籍企業にとって、OECDの観点による移転価格モデルに対する「ヘルスチェック」を実施する重要なタイミングと言えます。外資系の多国籍企業にとっては、ブラジル子会社がグローバルな移転価格モデルへ統合されることを意味します。(ブラジルの)内資系の多国籍企業にとっては、オペレーションモデルを深く分析することが必要となります。2023年度において、暫定令によってもたらされた移転価格制度と現行制度のどちらかを選択できる可能性が存在することは、オペレーションのヘルスチェックを行い、最も効率的なアプローチを選択する絶好の機会となるでしょう。

さらに、現行制度下で無形財の移転および事業再編に対する特定の移転価格ルールが存在しないことは、より効率的なオペレーションモデルへの移行のためにさまざまなオプションがあることを意味します。

当該暫定令はそのスコープの広さから、サプライチェーンに関するプロジェクト、企業再編、プロジェクトファイナンスやファイナンスモデル、知的財産の利用、シェアードサービスの使用等、移転価格にとどまらず広範囲な影響を及ぼすでしょう。

この広範囲かつ複雑で主観的な部分もあるルールの理解を助けるため、KPMGでは当該暫定令に関連する主要な項目を取り上げた一連のTAX NEWSを今後発行する予定です。

 

なお、上記の日本文は皆様の便宜のため一般的な情報の提供を目的に作成しているものであり、正確性を期すためにも、必ず葡語版をご参照いただきますようお願いいたします。また、何らかの行動を取られる場合は、ここにある情報のみを根拠とせず、必ずプロフェッショナル等の適切なアドバイスをもとにご判断ください。

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