英国におけるコーポレートガバナンス・コードへのコンプライ率と報告の質
英国FRCが、上場企業のコーポレートガバナンス報告のレビュー結果を公表。コーポレートガバナンス・コードの全原則にコンプライする企業は、2020年の100社中58社から、2022年は27社となりました。改善の余地はあるものの、結果として透明性の高い報告を行う企業が増えたとFRCは評価しています。
英国FRCが、上場企業のコーポレートガバナンス報告のレビュー結果を公表。ガバナンスコードへのフルコンプライ率が下がり、透明性の高い報告を行う企業が増えたとFRCは評価しています。
英国FRCが、上場企業のコーポレートガバナンス報告のレビュー結果を公表。ガバナンスコードへのフルコンプライ率が下がり、透明性の高い報告を行う企業が増えたとFRCは評価しています。
2022年11月3日、英国のコーポレートガバナンス、企業報告、監査等を監督する独立機関であるFinancial Reporting Council(以下、FRC)が、英国上場企業のコーポレートガバナンス報告をレビューした結果をとりまとめた「Review of Corporate Governance Reporting 2022 」(以下「同文書」)を公表しました。これは、英国に上場する企業のうち、FTSE350およびFTSE SmallCapの構成銘柄から100社をサンプルとして抽出し、英国コーポレートガバナンス・コードに沿った報告がどのように行われているかを調査したものです。調査は2020年から毎年実施され、今回が3回目となります。
同文書は、調査の結果、コーポレートガバナンス報告の質について、改善余地は多く見られると指摘しているものの、コーポレートガバナンス・コードのすべての原則にコンプライする企業が減少傾向にあり、代わりにエクスプレインすることを選択する企業が増え、結果として、透明性の高い報告を行う企業が増えたとも伝えています。
コーポレートガバナンス・コードのすべての原則にコンプライする企業は、FRCが本調査を開始した2020年には58社であったのに対し、2021年は36社、今回(2022年)は27社であったとの結果が示されました。FRCによれば、過去の調査では、「すべての原則にコンプライしている」としながらも、実際には、特定の原則について、いかにコンプライしているかを説明できていない企業が少なからず存在していたと指摘しています。そうした状況が改善されつつあり、実施していない原則についての説明を選択する企業が増え、エグゼクティブと従業員の年金スキームの整合性に関する各則(Provision)38などにおいて、そうした改善が顕著であったと述べています。
FRCは、コーポレートガバナンス・コードが採用する「コンプライ・オア・エクスプレイン(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明する)」手法が持つ柔軟性を活用し、企業ごとのユニークな状況に則したコーポレートガバナンスの態勢整備や実践を試みる企業が増えていることを歓迎し、企業も株主も、コードへの厳格なコンプライアンスを希求すべきではないと述べています。そのうえで、コンプライしない原則がある場合には、明確で意味のある(clear and meaningful)説明と、透明性の高い報告が行われることへの期待も明確に示しています。
2022年5月に金融庁および東京証券取引所が開催した「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では、2021年のコーポレートガバナンス・コードの再改定後の中間点検の一環として行われた企業へのインタビューの結果として、コンプライ・オア・エクスプレインの手法が採用されてはいるものの、コンプライしなければならないプレッシャーがあるとの企業の声が紹介されました。
振り返ると、2014年にコーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議が公表したコーポレートガバナンス・コードの原案には、各原則の説明の前に、経緯及び背景に関する記述があり、そのなかで、「プリンシプルベース・アプローチ」及び「コンプライ・オア・エクスプレイン」手法が採用されている意義や趣旨が述べられていました。そこでは、英国FRCが、今回公表した文書で示したのと同様に、実効性の高いコーポレートガバナンスの実践にむけて、企業の個別の状況への十分な理解と尊重、そして、エクスプレインを選択した場合の、表層的でなく、情報利用者の理解が十分に得られるような説明への期待が示されています。
英国のコーポレートガバナンス・コードは、初版の策定が1992年と歴史があります。その英国における上場企業のコーポレートガバナンス報告を調査した今回のFRCの文書は、示唆に富むものであり、企業の個性と実態をより明確に表すコーポレートガバナンス報告を目指す日本企業の参考となると考えます。
執筆者
あずさ監査法人
KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
シニアマネジャー 橋本 純佳