グローバル

ベンチャーキャピタルによる投資が2020年以来の低水準に落ち込むなか、エネルギー分野は勢いを増す

2022年第3四半期は、すべての主要地域で少なくとも1件の10億ドル超のメガディールが行われたにもかかわらず、世界のベンチャーキャピタルによる投資は2020年第2四半期以来の低水準に落ち込みました。今四半期には、米国のSpaceXが19億ドル、ドイツのCelonisが14億ドル、中国のSunwoda EVBが12億ドル、スウェーデンのNorthvoltが11億ドル、米国のTerraWatt Infrastructureが10億ドルを調達しています。

  • 南北アメリカ、ヨーロッパ、アジアでベンチャーキャピタル投資が減少し、2020年以来の低水準に
  • 2022年第3四半期のエネルギー分野はさらに勢いを増す
  • エネルギー価格の高騰により、代替エネルギーへの注目が高まる
  • コーポレートベンチャーキャピタル投資は後退するも、関心は依然高い
  • ヘルスケアとバイオテクノロジーが引き続きベンチャーキャピタルを惹きつける
  • 資金調達に課題を抱えるアーリーステージのスタートアップ企業

2022年第4四半期に注目すべきトレンド

2022年第4四半期も厳しい状況が続くと予想されるため、世界のベンチャーキャピタルは非常に保守的な投資を続け、強固なビジネスモデルを持ち、また収益性を示すことができる企業にフォーカスすると考えられます。投資家は特に将来予測に関するデューデリジェンスを徹底するため、案件の完了までにはこれまで以上に時間を要する可能性があります。

米国

市場にはドライパウダーが存在するものの、ベンチャーキャピタルの取引活動はより慎重に

2022年第3四半期の米国のベンチャーキャピタル投資は、高インフレと金利の上昇、米国の景気後退などへの懸念、さらに第4四半期に予定されている中間選挙の行方が不透明ななか、430億ドルに減少し、2020年第2四半期以来の低水準となりました。米国市場が厳しい状況になるなか、今四半期は、宇宙開発企業SpaceX(19億ドル)、電気自動車インフラ企業TerraWatt Infrastructure(10億ドル)、原子力革新企業TerraPower(7億5,000万ドル)など、多くの企業が多額の資金調達に成功しています。

  • スタートアップ企業から投資家へのレバレッジの移行
  • 変曲点を迎えるAI(人工知能)・機械学習分野
  • スタートアップ企業が不確実性から退避しようとしているため、イグジット活動は事実上不可能に

2022年第4四半期に注目すべきトレンド

2022年第4四半期から2023年にかけて市場の混乱が予想されることから、米国のベンチャーキャピタルはドライパウダーがあるにもかかわらず、取引には慎重な姿勢を崩さないと考えられます。セクター別では、エネルギー、ビジネス生産性、サイバーセキュリティ、ヘルスケアといった分野でベンチャーキャピタルによる投資が比較的堅調に推移する一方、食品・食料品配達、消費者向け小売、eコマースへの関心は低下すると予想されます。

南北アメリカ

カナダではグリーンテックやバイオテクノロジー、不動産サービス企業など、多様な企業が投資を呼び込む

2022年第3四半期、ベンチャーキャピタルによる投資は南北アメリカ全体で減少し、特にカナダとラテンアメリカで減少しました。米国のベンチャーキャピタルによる投資は、2021年と2022年の第1、第2四半期の高水準に比べ失速しましたが、2020年と同程度にとどまりました。投資の後退には、高インフレ率、金利の急上昇、地政学的な不確実性、世界的な景気後退への懸念の深まりなど、数多くの要因が絡んでいると考えられます。

  • ベンチャーキャピタルの利益重視の姿勢が強まる
  • 四半期を残して2022年は資金調達額が年間最高額を更新
  • 2022年第3四半期に米国で南北アメリカ史上最大規模のメガディールを獲得
  • 多様な投資を誘致し続けるカナダ

2022年第4四半期に注目すべきトレンド

2022年第4四半期に向けて、南北アメリカのベンチャーキャピタルによる投資は引き続き低調に推移すると予想されます。ベンチャーキャピタルは、収益性と持続性のあるビジネスモデルを持つ企業に注目すると思われ、B2B事業に注力する企業、特に企業の効率化を支援する企業は、魅力的な存在となると考えられます。エネルギーとESG分野への関心も続くとみられ、代替エネルギーやエネルギー貯蔵、エネルギー効率、電気自動車に注力する企業など、投資を呼び込む企業の裾野はますます広がっていくでしょう。

ヨーロッパ

B2Bとエネルギー関連企業がベンチャーキャピタルからの関心を集める

ヨーロッパのベンチャーキャピタルによる投資は、地政学的不確実性をはじめ、インフレへの懸念、金利の急上昇が続くなか、2022年第3四半期に7四半期ぶりの低水準に落ち込みました。エネルギー価格の上昇、潜在的な景気後退への懸念、ロシアとウクライナによる戦争も、この地域の投資家心理とベンチャーキャピタルからの資金調達に大きな影響を及ぼしています。

  • ヨーロッパでB2Bとエネルギー関連企業が大きな資金調達ラウンドを獲得
  • サイバーセキュリティ分野へのベンチャーキャピタルによる投資が引き続き活発化
  • 英国はベンチャーキャピタルによる投資額と投資件数がともに急減
  • ドイツのベンチャーキャピタル市場は、複数の懸念材料があるにもかかわらず、回復を示す
  • 北欧地域は投資減少傾向に逆行、NorthvoltとKlarnaの増資が牽引
  • プライベート・エクイティ・ファンドがデットファイナンスに進出、企業はデット・オプションに注目

2022年第4四半期に注目すべきトレンド

地政学的・マクロ経済的な不確実性が続くと予想されるなか、ヨーロッパのベンチャーキャピタルは、2022年第4四半期に向けて投資判断に一層積極的になると予想されます。エネルギーとESG分野は、特に代替エネルギーとエネルギー貯蔵を中心に、2022年第4四半期に向けて引き続き注目されるでしょう。B2B企業も、あらゆる企業が業務の効率化と収益力を強化していることから、投資家にとって非常に魅力的な分野であると考えられます。

アジア

中国ではエネルギーや半導体などのハードテック企業、インドではエドテック企業などが注目を集める

2022年第3四半期、アジアにおけるベンチャーキャピタルによる投資は、3四半期連続で減少しました。中国のベンチャーキャピタルによる投資は、前四半期に2017年第1四半期以来の低水準に落ち込んだ後、2022年第3四半期はわずかに増加に転じましたが、インド、オーストラリア、日本、シンガポールなどの主要地域でのベンチャーキャピタルによる投資は減少しました。

  • ベンチャーキャピタルは、キャッシュフローを生み出す企業や優先順位の高い産業を優先
  • 2022年の資金調達活動は8年ぶりの低水準になる見通し
  • 2022年第3四半期、アジアでは他の地域に比べIPOが活発化
  • 中国のベンチャーキャピタルは引き続き優先順位の高い分野にフォーカスしている
  • インドへのベンチャーキャピタルによる投資は、経済的課題の拡大により軟調に推移

日本へのベンチャーキャピタルによるヘルステックへの注目度が高まる

2022年第3四半期の日本のベンチャーキャピタルによる投資はわずかに減少したものの、フィンテック、ビジネス生産性、ヘルステック、ESGなどの主要セクターは、引き続き国内の投資家の関心を集めています。医療ICT企業のAllm(アルム)が1億8,300万ドルを、デジタル治療企業のCureAppが5,100万ドルを調達しました。日本の医薬関連会社はより積極的な投資家になりつつあり、今後数四半期にわたってヘルスケアとバイオテクノロジーの分野への投資の促進に貢献する可能性があります。

2022年第4四半期に注目すべきトレンド

世界的なマクロ経済の不確実性と中国の政策の不確実性を考慮すると、アジアにおけるベンチャーキャピタルによる投資は、2022年第4四半期も全体的に低調に推移すると予想されます。2022年第4四半期に開催される中国共産党大会では、中国の将来の方向性が示めされる予定です。この会議で具体的な政策が打ち出された場合、今後数四半期におけるベンチャーキャピタルによる投資に影響を与える可能性があります。

英語コンテンツ(原文)

Venture Pulse Q3 2022

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大谷 誠

KPMGジャパン プライベートエンタープライズセクター統轄パートナー/KPMGコンサルティング 執行役員 商社セクター統轄パートナー

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