本連載は、日刊工業新聞(2022年5月~8月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
次世代のデジタル人材の育成を
デジタル技術の進歩は、スマートシティのように既存のビジネスのあり方に変化をもたらす一方で、変化を実現する「デジタル人材」が必要不可欠です。ただし、デジタル人材という言葉に明確な定義があるわけではありません。KPMGコンサルティングでは、デジタル時代に求められる人材の能力を「基礎リテラシー(ファンデーション)」と「業務リテラシー(ビジネス、テクノロジー、データ)」と定義しています。基礎リテラシーとは、ヒューマンスキルを中心とした能力を発揮するための土台(基本ソフト、OS)で、業務リテラシーは専門性を発揮するためのアプリケーション(応用ソフト)と捉えることもできます。
デジタル時代に求められる人材育成はこれまでの育成方法と何が違うのでしょうか。デジタル時代の人材にも、ヒューマンスキルやコンプライアンス意識など仕事の基礎や業務専門性が求められることに変わりはありません。重要なポイントは次の2点です。
1点目は、「学ぶ」から「できる」へのシフトです。それは、より実務に直結した実践的な能力開発を意味します。デジタル人材育成では、統計学や先端テクノロジーの習得に向けたリスキリング(学び直し)など、オフ・ザ・ジョブ・トレーニング(OFF-JT)の要素が着目されがちですが、いかにビジネスで能力を発揮するかの観点で、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)環境整備と合わせた設計が必要になります。
2点目は、正解を探すのではなく、創り出す能力です。長らく日本企業は、他者の良いところを取り入れ成長してきた結果、他者依存の慣習となり、自身で熟考し解を紡ぎ出すことが不得手となりました。しかし、現在はビジネスモデルが多様化、複雑化し、最適な解が分かりづらい時代であり、自ら解を導き、正解とするための判断力と行動力が求められるようになっています。
つまり、基礎リテラシーに加え、自社で定義した業務リテラシーの3つの円の重なる部分、複数の領域を理解し活躍できる人材が必要と言えるでしょう。スマートシティの取組みは検討領域が多岐にわたり、個々の都市が置かれている環境も異なるため、おのおので解を創り出さなくてはならず、このような人材は必須となります。特に、地方では圧倒的に足りないデジタル人材の育成・確保がスマートシティ構想実現のカギを握っています。
2020年度から日本でも学校教育でプログラミング教育が始まりました。スマートシティでは、幼少期から町ぐるみで産学官連携のスキームを活用した「次世代の人材育成」も可能と考えます。閉塞感の強い日本経済を打破する人材を生み出す土壌としても、スマートシティの取組みに期待したいところです。
日刊工業新聞 2022年8月12日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 岡 智諒