保険会社の枠を超えて社会課題解決へ挑む 「安心・安全・健康のテーマパーク」を通じたSOMPO の企業価値向上戦略

SOMPOホールディングス株式会社グループCFO兼グループCSO/執行役専務である濵田 昌宏氏との対談です。

SOMPOホールディングス株式会社グループCFO兼グループCSO/執行役専務である濵田 昌宏氏との対談です。

気候変動、少子高齢化、デジタルディスラプションなど、日本はいま、変化とその後の世界へ向けての取組みに迫られています。これを受けて、近年、保険事業をめぐるビジネス環境も大きく変化しました。そこでSOMPOグループは現在、「安心・安全・健康のテーマパーク」というビジョンを掲げ、事業の自律的成長の追求、介護事業におけるリアルデータプラットフォーム構築などを盛り込んだ新しい中期経営計画を策定、企業価値の向上に向けた取組みを推進しています。保険会社としてVUCAの時代にどう価値を創出していくか。どのような事業を通じて社会課題の解決に挑むのか。今回は、SOMPOホールディングス株式会社グループCFO( 最高財務責任者)兼グループCSO(最高戦略責任者)/執行役専務である濵田昌宏氏にお話をうかがいます。

インタビュアー=
出塚 亨一 あずさ監査法人 マネージング・ディレクター

対談時には感染対策を十分に行い、写真撮影時のみマスクを外しています。
所属・役職は、2022年10月時点のものです。

保険業をサステナブルに、顧客へ安心・安全・健康を届ける事業ポートフォリオ

出塚:SOMPOグループは、「安心・安全・健康のテーマパーク」という、保険会社としては非常にユニークなビジョンを掲げ、特にここ数年、大きく変化しました。その背景や実績について教えてください。

対談

濵田 昌宏 氏
SOMPOホールディングス株式会社 
グループCFO兼グループCSO執行役専務 

1988年安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)入社。経営企画部門が長く、損保ジャパンと日本興亜の合併の際には統合推進部長として、全体を纏め上げた。2016年損保ジャパン日本興亜ホールディングス(現・SOMPOホールディングス)執行役員経営企画部長、以降同社グループCSO、グループCIO、グループCFOを歴任し現職。経営企画、財務企画、経理部門などを統括する。

濵田:我々は134年間、保険業を祖業としてビジネスを展開してきました。ご存じのとおり、保険は事故など万が一のことがあったときに経済的損失を補てんするもの、マイナスをゼロにするためのものです。いま、その「 万が一のこと」に遭う可能性はかなり低くなっています。たとえば、ある人が自動車事故に遭う確率は十数年に一回程度とされていますし、家が火事になるなどは相当低い確率です。ですから、保険というビジネスで我々がお客様に価値を提供できる機会は、かなり長い年月のなかでそれほど多くありません。

 一方で、保険をめぐるビジネス環境は激変しています。世界的に見れば、気候変動問題があります。異常気象によって自然災害が多発化・激甚化すれば、火災保険などのビジネスに直接的に影響します。日本では、人口減少、少子高齢化により既存市場が縮小することは不可避ですし、さらには気候変動、デジタルディスラプションにより事業環境は一層厳しくなります。たとえば、自動車が全部自動運転車になったらどうなるでしょうか。自動車保険がなくなることはないと思いますが、少なくとも交通事故は減るでしょう。リスクが低減されるので、我々のビジネスサイズは間違いなく小さくなります。このように、中長期で見たとき、国内を中心とした損害保険事業への一本足打法に対して、強い危機意識がありました。

 この危機意識こそ、テーマパーク構想の原点です。保険がサステナブルであるために、お客さまのマイナスをゼロにするのみならず、「ゼロをプラス」にするためには何をすべきか。万が一の事態の際だけでなく、いつもお客さまに寄り添って安心・安全・健康を届けるため、お客さまのハピネスを多く創り出していくには何ができるか。これを徹底的に考えました。一方、当初はこのような危機意識から考えはじめたことではありますが、最近は、SDGsや新しい資本主義といった潮流のなか、我々もパーパスについて徹底的に議論しました。そして、保険や介護事業で培ったSOMPOグループのDNAを活かし、日本の社会課題を解決し社会貢献していくんだ、というパーパスに基づくポジティブな意識がテーマパーク構想の原動力になっています。

出塚 SOMPOグループのパーパスは、まさに社会課題解決をポジティブに捉える意識、意欲が源泉になっているということですね。

濵田 はい。この10年で、SOMPOグループの事業ポートフォリオは大きく変わりました。まず、M&Aを通じた海外保険事業の拡大により、グループの安定性の向上およびリスクの分散が進みました。国内ではデジタル化の取組みや介護事業への参入など、保険領域に拘らない事業にチャレンジしています。なかでも介護事業への参入は、我々が他に類を見ないユニークな金融グループになる上で非常に意義のあることでした。大学や公的機関、民間団体などから「 介護事業で、何か一緒にできませんか」と持ちかけられることが増えたのです。保険会社としての130 年間で経験したことのない化学反応が、グループ内外で起きています。その実感から、我々のなかではいま、これまでの延長線上にない、新たなソリューションで介護を中心に日本の社会課題の解決に取り組みたいという機運が高まっています。

遠心力と求心力を効かせ、コングロマリットプレミアムを創出

出塚 トランスフォーメーションを進めるなかで、SOMPOグループは、2021年度から3年間の中期経営計画をスタートされ、基本戦略として「 規模と分散」「新たな顧客価値の創造」「働き方改革」の3つを挙げられています。まず「規模と分散」について、具体的な取組み内容を教えてください。

濵田 先ほどから申し上げているとおり、さまざまなビジネスにチャレンジを続けておりますが、我々の軸となるのはやはり保険です。損害保険業においては、大型台風など大規模な自然災害が起きても確実に保険金をお支払いするため、規模の追求が非常に重要となります。保険事業は大きければ大きいほど安定するので、規模そのものに意味があるのです。

 加えて大切なのがリスクの分散です。分散を図ることによって必要な資本量を減らすことができ、株式会社として重要なROE( 自己資本利益率)を向上させることが可能となります。従って、海外の保険事業の拡大は、成長と地理的分散の両方の意味で重要となります。
 
   また、2016年度より事業オーナー制を導入しました。現在では、当初の国内の損害保険、海外保険、国内の生命保険、介護・シニア事業にデジタル事業を加え、5つの事業区分を設けています。そして、各事業に強い権限を持たせて、それぞれの事業を自律的に成長させています。この自律的成長、即ち遠心力によって成長することを基本として、この数年間、グループ全体のガバナンスを効かせてきました。

   一方で、当然ながらオーガニックな成長にも限界があります。そこで最近では、各事業の遠心力のみならず、持ち株会社(ホールディングス)をハブにした求心力も適切に働かせるようにしています。具体的には再保険や資産運用、グローバル企業への保険対応を第一段階のターゲットとし、グループ全体を1つのバランスシートと想定し、グループベストでやれることをホールディングスを中心に各事業で進めることで、コングロマリットプレミアムを生み出せる、というわけです。

   もちろん、M&Aによるインオーガニックな成長も重要です。2 0 1 6 年の米
Endurance社の買収はその象徴と言えるでしょう。日本企業のM&Aで一般的なのは、優秀な経営陣ごと買収し、その経営陣に事業を任せながら、日本から遠隔で個別にガバナンスを効かせるというものです。しかし、我々のガバナンスはさらに踏み込みました。Endurance 社をSompo International Holdings社という、海外事業を統括する中間持ち株会社にしたうえで、元々30 カ国あまりに展開していた海外拠点をほぼすべて、その持ち株会社のコントロール下に置きました。こうした大胆なガバナンスの変更により、海外事業は一体的な経営が可能になり、2017 年以降、海外事業の保険料収入は年平均12%と大きな伸びを示しています。

出塚 ガバナンスの変化としては、SOMPOグループは、2019年から指名委員会等設置会社となられたことも大きいかと思います。

濵田 はい。現在の取締役会は14人中10人が社外取締役で、社外取締役を中心とした構成となっています。そして、透明性も緊張感もある、絶妙な執行と監督の距離感を保っています。また執行体制では、先ほど触れましたように、5人の事業オーナーが各事業における責任と権限を持っています。また、グループ内の横串を刺すチーフオフィサー( CxO)は、これまでホールディングスのみに設定していましたが、今年から各事業にも相対するCxOを設置しました。これにより、たとえば私も、各事業のCFOやCSOとの連携がより密になり、現在のグループガバナンスの要諦である遠心力と求心力のバランスを保っていると思っています。

RDPによって品質、生産性、需給ギャップなど、介護現場の課題解決に挑む

出塚 基本戦略の2つ目「新たな顧客価値の創造」ではRDP( リアルデータプラットフォーム)を打ち出し、IR資料などでも大きくアピールされています。これは具体的にはどのようなものでしょうか。

濵田 RDPは、「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現に向けた価値創造の検討を続けるなかで辿り着いた解の1つです。リアルデータという言葉を、我々はバーチャルデータの対語として使っています。GAFAMが得意とするインターネット上のバーチャルデータと違い、我々の言うリアルデータは保険や介護という事業活動において得られるお客様の日常生活のデータです。これら膨大なリアルデータを使って新たな価値を作り、さらに自社にとどまらずプラットフォーマーになって社会課題を解決しよう、という構想がRDPです。

  RDP 構想を考えるにあたって大きな原動力になったのが、世界有数のデータ統合プラットフォーム構築を得意とする米Palantir 社との提携です。我々は、彼らの技術と保険・介護事業で取得するリアルデータの掛け合わせにより、介護、防災・減災、モビリティなど、注力すべき領域を定めて検討してきました。その結果、保険事業における防災や減災、モビリティの領域では、自社の生産性向上や付加価値を高めるには十分活用できる一方で、プラットフォーマーとなるには相当な道のりが必要であることがわかりました。一方で介護事業では、他の介護事業者を巻き込んでプラットフォーマーとなり、エコシステムを形成し日本の社会課題を解決するというビッグ・ピクチャーを描くことができました。

対談

図表1   

 そして検討を進めるなか、我々は社内的にDX( デジタルトランスフォーメーション 以下、「DX」という)という言葉を再定義し、自社のためのデジタル化の取組みをDX、社会課題を解決するようなプラットフォーマーになるような取組みをRDPと呼び分けることとしました。保険事業ではまずは、各事業のDX化を推進し、介護事業ではRDPに取り組んでいます。

出塚 介護事業でRDPを展開されるとのことですが、どのようなサービスなのでしょうか。また、収集されるリアルデータにはどのようなものがあり、どのように利用されるのか、具体的に教えてください。

濵田 我々は日本で最も多くの居室数を持っている介護事業者で、そのご入居者さまは約2 万3,000名です。ご入居者さまの生活から、睡眠、服薬、食事など、約600種類のリアルデータを24 時間365 日取得しています。それらリアルデータをPalantir社の技術を用いて統合し、介護事業を支えるさまざまなソリューションを生み出しています。

対談

出塚 亨一  あずさ監査法人 マネージング・ディレクター

2016年、有限責任 あずさ監査法人 金融事業部(現 金融統轄事業部) 金融アドバイザリー部入所。KPMGジャパン保険セクター アドバイザリーアカウント責任者。国際保険規制、戦略経営、ガバナンス・リスク管理、内部統制・内部監査、業務改善等に係るアドバイザリー・サービスを主導。論文・雑誌等の寄稿、その他大学・学界・協会等での講演多数。元早稲田大学大学院 会計研究科 非常勤講師( 2015年度)。

 具体的には、介護RDPには3つの活用段階があります。1つ目はリアルデータを統合して、介護ビジネスの生産性と品質を上げることです。収集したデータから、たとえば夜のトイレ介助のために何時頃に声かけをすればいいのか、食事の形態を変えたほうがいいのかなどがわかります。仕組み化することで、介護職員の生産性と介護品質を格段に向上させることができるでしょう。
 
  2つ目は、要介護者が認定を受けている要介護度と、実際に提供されている介護サービスのギャップを埋めることです。利用者の心身の状態は時間経過とともに変化しますから、認定されている要介護度が合わなくなってくることがあります。これらは介護職員の匠の技で検知していますが、介護RDPではデータによって可視化することで、迅速・適切な対応が可能になります。
 
  3つ目が「 予測する介護」です。データを積み重ねていくと、たとえば3カ月後には車椅子が必要になりそうだとか、入院の可能性が高まるかもしれないなど、健康に関する予測ができるようになります。データから利用者の状態変化を予測できれば、早めに対応することができます。今、着々とユースケースを積み重ねているところです。
 
  日本の介護業界では、社会保障費拡大と需給ギャップという2つの大きな課題があります。社会保障の面では、これだけ高齢者が増えれば、当然国の財源も厳しくなります。需給ギャップの面では、介護の担い手が不足していることが大きな課題です。高齢者が増えているにもかかわらず介護従事者が足りないため、2040年にはおよそ70万人の介護従事者が不足するという話もあります。そうすると、介護が必要な200万人くらいの高齢者が介護サービスを受けられず、その200万人のご家族は仕事を続けたくとも、親の介護のために仕事を辞めなければならなくなる。そうなれば、日本の経済そのものが衰退してしまうでしょう。
 
  我々はこうした社会課題の解決に取り組むとともに、創出する日本全体の社会価値、国内の介護事業者にとっての価値、そして直接的な財務価値としての我々の利益など、財務・未財務さまざまな価値について定量化を試みています。

社員のエンゲージメントを高めるSOMPOグループのパーパス経営

出塚 基本戦略3つ目の「働き方改革」ではパーパス経営を謳っています。SOMPOグループが考えるパーパス経営とはどのようなものでしょうか。

濵田 保険事業、保険以外の事業を問わず、我々のビジネスの土台となるのは人です。このため、基本戦略の3つ目に「 働き方改革」を据えました。当初は新型コロナウイルス感染症が拡大していた時期でもあり、テレワークや場所を問わない働き方といったトーンが強かったのですが、今はもっと広い概念で人的資本経営の高度化に取り組んでいます。その中心にあるのがパーパス経営です。

 多くの企業がそうだと思いますが、パーパスを策定しても、なかなか社員に浸透しないものです。当社の「 安心・安全・健康のテーマパーク」というビジョンも、社員一人ひとりの心に確実に届いているとは言えませんでした。つまり、いかにして浸透させるかが大きな課題なのです。

対談

図表2 MYパーパスに突き動かされるカルチャーの醸成
詳細は、URLをご確認ください。

そこで我々は、社員一人ひとりの重要な価値観、即ち「 MYパーパス」を起点に考えてもらうことにしました。「MYパーパス」は遠い将来の夢かもしれませんし、日々の頑張っていることかもしれません。とにかく、「MYパーパス」をしっかりと考えて自分自身に向き合ってもらい、それを言葉で、たとえば上司との面接で自分の言葉で話してもらうのです。

私のような昭和の時代の人間は、どちらかといえば会社生活のなかに自分の人生がありました。しかし今の若い人たちは、まず自分の人生があって、そのなかに会社生活を位置付けています。ですから「MYパーパス」に、会社としての「 SOMPOのパーパス」を重ね合わせてもらうようにしました。そうすると、重なった部分というのは仕事ではあるけれども、自己実現のための活動にもなるわけです。そのことがきちんと腑に落ちれば、「仕事が自分の成長につながる」といったように、エンゲージメントを高めることにつながります。

出塚 社員一人ひとりの「 MYパーパス」というのは、非常にユニークな取組みだと思います。ところで、濵田さんも「 MYパーパス」を作られたのでしょうか。

濵田 はい。私も「 MYパーパス」を作ってみました。幼少時代の思い出とか、若手の頃に先輩からどんな刺激を受けたのかなど、いろいろことを思い出しながら、自分は何をしたいのか、自分の存在意義は何かを一生懸命考えました。「MYパーパス」作りは、一人ひとりがそういったことを考えるきっかけにもなります。もちろん「 MYパーパス」というのは千差万別ですし、誰かの「MYパーパス」が正しくて、誰かのは間違いだといったことはありません。こうした活動を積み重ねるなかで、それぞれのエンゲージメントを高めることができ、また人的資本経営のなかで非常に重要とされているダイバーシティー・アンド・インクルージョンを推進することにもつながるのではないかと思います。そうして、イノベーションの起きやすい企業文化を作っていくことがいま、着実にできつつあるのではないかと思っています。

 個人と会社の好循環によって人材価値を高めていく。それによって非財務価値、我々は未実現財務価値と呼んでいますが、すぐには損益計算書あるいは貸借対照表には出てこない人材価値のようなものをできる限り定量化し、開示していくというようなことにもチャレンジをしているところです。

サステナブルな成長のために、大胆かつ総合的に事業へ 投資していく

出塚 3つの基本戦略を進めていくうえで何がポイントになるとお考えでしょうか。

濵田 いくつかありますが、CFOとしては成長投資やインオーガニックな取組みが重要だと思っています。もちろんオーガニックな、日々の取組みでも成長はできますが、時間もかかりますし、トランスフォーメーションも起きづらい。実際、我々は介護事業に参入することによって、いろいろな新しいことを学びました。特に日本は少子高齢化、基本的にはマーケットがシュリンクしていく状況にあります。この環境で投資なくして飛躍的な成長は難しいでしょう。

  そこで我々は、現在取り組んでいる3年間の中期経営計画において、最大6,000億円の成長投資枠を設定しました。もちろん、枠をすべて使い切ろうということではありません。いつどのような投資チャンスにめぐり会うかわからないので、そのチャンスを逃さないためです。各事業責任者の投資に対するアペタイト・情報感度を高めて、いいものがあればしっかり使っていくという意味で提示しています。グループのリスクと資本の状況、魅力的な株主還元などとのバランスを取りながら、資本政策を考えていくことが、私の直接的な仕事の1つです。

  今はこれだけ世の中の金融市場の変化が激しく、ボラティリティも大きくなっています。そういった情勢を見ながら、良い機会に素早く対応できるように、資本政策は注意深く、大胆に行っていくつもりです。

出塚 濵田さんは、戦略の旗振り役であるCSOと、財務的見地から評価を行うCFOを兼務されています。その2役を担うことについて、ご自身のなかでコンフリクトを感じることはありますか。

濵田 基本的にはありません。たしかに、特に投資において、CSOはビジネスを拡大していく攻めの気持ちが強く、CFOは財務規律などをみて守りに入ることがあります。推進する側とけん制する側、両方ともあるのが企業として健全です。この両方の役割を1人で担うとしても、有効に機能していると思っています。

  私の下には、戦略策定・推進を担う経営企画部と、財務の舵取りや投資家との対話を担う財務企画部が置かれています。もともと1つだった部を2つに分けました。そして、それぞれの立場から、それぞれの目線で精査したレポートが上がってきます。私は両方の目線で精査し、判断を下します。判断ができなければ、CEOやCOOに委ねます。仮にCSOとCFOが別だとしたら、2人の役員にコンフリクトが生じ、CEOが判断することになるでしょう。結局、それぞれの立場での整理があって、誰かがそれを統合してジャッジすることに変わりありません。つまり、SOMPOグループではその判断ステップを1つ減らし、より機動的な体制としているということです。その意味では、スピードが上がるなどプラス面は多くありますが、マイナス面は特にないと思っています。

 最近は、デジタル投資やスタートアップへの投資などのようにリターンまでに時間がかかったり、戦略性を重視した投資など複合的な判断が必要な投資案件が増えています。スピードも求められることも多いため、この体制によって効率的かつ統合的な判断ができていると思います。

出塚 戦略の遂行と企業価値の関係についてお教えいただけますでしょうか。

濵田 企業価値向上はCFOとしてど真ん中にくるミッションであり、様々な尺度で計測されるものだと思いますが、我々が着目しているのはシンプルに時価総額、そしてバリュエーション尺度としてはPBR(株価純資産倍率)です。ご存じのとおり、PBRはROE( 自己資本利益率)とPER( 株価収益率)の掛け算で求められます。ビジネスの軸として保険事業をしっかりとやっていくことが、我々のROEの向上に直結します。「規模と分散」により事業を大きくし、資本効率を高めて、分厚くしていく。これに尽きるでしょう。

  しかし、保険事業には資本規制がありますから、一定の資本を留保しておかなければなりません。たとえばROEを15%にすることはできても、30%にすることはできないのです。そうなると、ROE向上だけでなく、PERの引上げが重要になります。PERは未実現の財務価値を含む将来の成長期待と収益の安定性が肝要と考えており、我々はPERを伸ばすことによって、その総和として企業価値を高めたいと思っています。

 ROEは保険を軸に地道な努力とM&Aなどによって上げていくことができると思いますが、保険会社がPERを上げるというのはかなりのチャレンジです。だからこそ、我々はRDPを推進しているのです。PERを高めるためのドライバーこそRDPであり、パーパス経営の推進による未実現財務価値の創出なのです。ROEの向上と並行して、PERを上げるような成長ストーリーによって、保険とは異なる角度で成長期待を高めていく所存です。

出塚 株主資本価値であるPBRの向上は、グループCFOにとって重要な課題かと思います。最後に、読者に対してメッセージをいただけますでしょうか。

濵田 これまで説明してきました3つの基本戦略は、企業価値の向上と密接につながっています。日本は世界でも類を見ない超低金利を続け、日本の金融機関のPBRは低迷していますが、この呪縛から逃れ、ROEの向上、そして別の角度での成長期待の両方を持ち合わせた成長ストーリーをしっかり語り、サステナブルに企業価値を高めていければいいと思っています。

 

対談

出塚 ありがとうございました。