本連載は、日刊工業新聞(2022年5月~8月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
地域に根差したインパクト投資の確立
持続的なファイナンスモデルの確立は、スマートシティ実現において避けて通れない壁と言えます。収益性の高い事業に人的・資金的リソースが集中し、地域住民が解決を望む課題への対応を劣後としてしまっては本末転倒ですが、財政難に苦しむ自治体が多いなかでいかに公共性の高い事業にリソースを供給していくかは難問です。この問いへの絶対的な解は見えませんが、さまざまなアプローチが模索されています。
近年注目を浴びている「インパクト投資」は、その問いに対する1つの解と見ることができるでしょう。一般的な投資が財務リターンを投資判断の指標とするのに対し、インパクト投資は財務リターンに加え社会的なリターン、つまり事業活動により創出した社会へのインパクトも判断指標とします。
その特徴からインパクト投資は、事業が社会に与えるさまざまな影響をロジックモデルとして順序立てて整理し、定量的に得られるデータを用いて検証していくインパクト評価のプロセスを経て実行されます。一般的な投資に比べ人的コストがかかる面はあるものの、社会的な価値を生み出す事業に資金を供給し、事業成長を後押しする点でインパクト投資の果たす役割は大きいと言えます。
社会変革推進財団(SIIF)/GSG国内諮問委員会事務局によると、国内では2017年度に718億円、2021年度は1兆3,204億円のインパクト投資残高が確認されており、インパクト投資への期待は年々高まってきています。
また最近の動向として、地域インパクトファンド設立に向けた動きが挙げられます。地域に根差したインパクト投資が進む動きは、今後さらに加速していくべきと考えます。
各地域のスマートシティ構想に1つとして同じものがないのと同様に、住民が求める社会的インパクトも地域ごとに異なります。これまでスマートシティの主要なプレーヤーとして認識されてきた自治体や事業者、大学・教育機関などに加えて、地域に適したインパクト創出を資金やノウハウの面からサポートするインパクト投資ファンドの存在感は、今後より重要になるのではないでしょうか。
住民による期待の高い事業を地域インパクトファンドが支援し事業拡大を後押しする。さらには、企業が、類似課題を持つ複数の地域を対象にスケールしていくーそのようなインパクト創出モデルが確立すれば、スマートシティが地域特性に合わせてお互いに良いところを取り合う「共鳴型スマートシティ」ともいうべき未来が見えてくるでしょう。
日刊工業新聞 2022年7月22日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 石山 秀明