本連載は、日刊工業新聞(2022年5月~8月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
市民の利便性を向上させる都市OSの活用
昨今、複雑化する地域課題の解決に向けて、分野や領域を超えたデータ連携の仕組みが注目されています。そのなかで、スマートシティ実現のために基本機能が集約され、さまざまな分野のデータ連携サービスを容易にするITシステム基盤の総称を「都市OS」と呼びます。
都市OS構築に向けて取組みを進める地域は増加していますが、いまだ実証段階が多く、新たな価値の模索、持続的に運用するためのビジネスモデルなどが課題となっています。本稿では、都市OSの活用目的を2つに分類して課題解決のヒントを探っていきます。
1つ目は、個人IDを活用したワンストップサービスによる利便性の向上です。例えば、母子健康手帳に記載されている健診結果や予防接種スケジュール、成長記録などを、スマートフォンやパソコンを通じて、いつでも、どこでも見られるというサービスがあります。このように、各種アプリケーションやシステムに個別保管されていた情報を統合市民IDで結びつけることで情報管理を簡略化するとともに、データのかけ合わせにより適切なタイミングでアラートが受信できるなど、生活の利便性向上につながることが期待されます。便益を享受する市民から、サービス利用料を徴収することが可能になります。
2つ目は、個人情報を含まないデータの統合分析による町の管理の効率化です。センサーデータを一元管理した廃棄物管理のほか、倒木や洪水などの災害情報管理などが挙げられます。IoT(モノのインターネット)機器の進化により、センサーで取得したデータを利活用することで維持・管理コストが削減できます。しかし、部署ごとに情報管理をしていては、コスト削減幅は大きくありません。分野横断で活用し、指数関数的なコスト削減につなげられるかが肝となります。そのためにも、行政が保有するデータはオープンデータ化し、民間事業者の保有する統計データは金銭的価値をつけながら流通させていくことが重要となるでしょう。これらにより便益を享受する行政や民間事業者などの町の管理者から、データを活用し運用効率化したコスト削減分の一部を徴収することも可能となります。
将来的には、市民の利便性向上および町の管理者の効率化の両方を叶えるための都市OSが整備され、さまざまな関係者と便益とコストをシェアするモデルになると考えられます。
日刊工業新聞 2022年7月1日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 河江 美里