本連載は、日刊工業新聞(2022年5月~8月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

ブロックチェーンの活用で広がるモビリティの役割

スマートシティの広義の目的は、住民の生活を豊かにし、持続可能な社会を築いていくことにあります。ただし、人口減少や高齢化などの課題に直面する現代社会では、多様化する人々の価値観と向き合い、収益面も含め、持続可能な事業を構築していくことは容易ではありません。それらの課題を解決し得るヒントとして、前回のMaaS(乗り物のサービス化)に続き、スマートシティにおいてモビリティに期待される役割について見ていきましょう。

1つ目はモビリティ×ブロックチェーン(分散型台帳)です。ブロックチェーンは、暗号資産(仮想通貨)を支える技術として開発されたもので、モビリティ分野ではIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)などのITとブロックチェーンを組み合わせることで、さまざまなソリューションが期待されています。
自動車メーカーを中心に形成されたブロックチェーンの国際コンソーシアム「MOBI」でも、モビリティ分野におけるブロックチェーンの活用方法の検討や規格作りが行われています。活用方法として、たとえば、車両固有のデータをブロックチェーンで管理することで、走行距離のみならずメンテナスや修理などの履歴の追跡、検証が可能となります。また、走行距離に応じた保険料や交通インフラ利用料の設定、二酸化炭素排出量の測定、カーボンクレジットの付与などが考えられます。なお、データは改ざんが不可能なため第三者と共有でき、スマートシティにおける他の機能やマーケットプレースと結びつきやすく、新たなビジネス機会創出の基盤となり得ます。

2つ目は、モビリティサービスを起点とした人の活性化です。具体的には、地方公共交通機関の衰退や高齢者の免許返納といった社会課題への取組み、自治体や医療機関、地元企業との連携も考えられます。こうした取組みは、サービスの周知とユーザーに対する需要喚起が一義的な目的ではありますが、外出機会の比較的少ない高齢者に外出を促すことで、健康や地域コミュニティの活性化に寄与していると言えるでしょう。
スマートシティにおいてモビリティに求められる役割は、人とテクノロジーの両面で、今後も広がっていくと考えられます。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

日刊工業新聞 2022年6月24日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 石井 奨

進化するスマートシティ

お問合せ