本連載は、日刊工業新聞(2022年5月~8月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

社会システムとしてのスマートシティ

「2025年問題」が叫ばれて久しい昨今ですが、超高齢社会の到来による疾病の量的増加と質的変化に対し、限りある医療介護資源と自治体財政が逼迫するなか、医療介護サービスをいかに質を落とさずに提供していけばよいのでしょうか。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るったこの2年間における医療の状況が、日常となってもおかしくない時代が来る、と言えばイメージしやすいでしょうか。
この問題に対して国はさまざまな施策を講じてきました。そのなかでも、情報通信技術(ICT)を活用した供給側と需要側双方にかかわる取組みが、電子健康記録(EHR)とパーソナルヘルスレコード(PHR)です。
前者は、どの医療介護機関を受診しても、共通の受療記録により同質の医療介護サービスが受けられるように地域で医療介護資源を供給していく仕組みです。
後者は、健康や医療、介護などに関する個人情報を記録する仕組みです。健康情報や受療記録などを個人で管理・活用することで、そもそも医療介護機関に極力かからないよう健康管理を促すことに加え、生活圏以外の地域で医療介護サービスを受療する際にその情報を活用可能にすることを目的としています。

しかし現状では、受診先や健診先を変更すると、それまでの受療情報や健診情報が白紙になる状況は何も変わっていません。生活圏レベルで当該取組みに参画している医療介護機関や自治体などの絶対数が少ないことと、個人データを連携するための仕組みが各機関でほとんど進んでいないことが背景にあります。
国のスタンスが各機関や自治体に対し強制するものではないため、地域で推進するリーダーが不在であれば何も進みません。また、現場で対応ができる専門人材が不足していることに加え、事業者側には費用負担などのデメリットの方が大きいことなどの課題があります。

スマートシティは、これらの課題を解決する社会システムとなることが期待されます。すなわち、地域住民のために自治体がリーダーシップを発揮し、地域の関係機関の調整弁となり、かつ自治体自身が保管管理している各種健診、予防接種などの健康・生活者データも含めた個人情報の連携・還元基盤(インフラ)となることです。スマートシティの進展が今後の医療介護の未来を決めるかもしれません。

日刊工業新聞 2022年6月10日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 中林 裕詞

進化するスマートシティ

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