本連載は、日刊工業新聞(2022年5月~8月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

スマートシティのライフラインを担う情報通信インフラの拡張

スマートシティにおける通信の役割を定義するために、従来型都市とスマートシティとの違いについて考えてみます。これまで単なる構造物の集合体であった都市が、スマートシティでは1つの生命体のように自律的に振る舞い、人類と共生していきます。スマートシティを生命体と見立てると通信インフラは血管、流れるデータは血液と言えるでしょう。
すなわち、スマートシティにおける通信は、それがなくては生命が維持できないライフラインの役割を担います。昨今のパンデミック、増加する自然災害といった環境においては、通信が途絶えてしまうことはもはや命にかかわる問題といっても過言ではありません。
岸田内閣が掲げる「デジタル田園都市国家構想」を広義のスマートシティと捉えると、2022年3月に総務省が公表した「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」は、血管の役割を担う通信インフラの青写真と言えるでしょう。

デジタル田園都市国家インフラ整備計画には、光ファイバー、第5世代通信(5G)、データセンター(DC)、海底ケーブル等のデジタル基盤の整備方針とビヨンド5Gの政策が掲げられていますが、それが生命の維持に資するかという視点から解説していきます。

光ファイバーは、従来の計画を3年前倒しして2027年度末にカバー率99.9%を目指すとしています。もともと光ファイバーの普及率は韓国と並び世界をリードしている日本としては十分な計画と言えるでしょう。一方、比較的太い血管に相当する光ファイバーの整備よりも、ありとあらゆるものが通信を通じてつながるスマートシティでは、毛細血管の役割を果たす5Gなどのモバイル通信網の整備がより重要です。
DCと海底ケーブルは、現在、その約6割が東京圏に一極集中していることから、災害時の通信ネットワークの強靭性の確保に向けた計画が示されています。まさに通信がライフラインとなるための計画と言えるでしょう。
次世代の情報通信インフラであるビヨンド5Gの政策方針のなかでは、陸海空を含む国土100%のカバー率を目指す通信カバレッジの拡張がスマートシティにとって重要であり、昨今の外部環境変化のスピードを鑑みるとビヨンド5Gの前倒しが必要となるでしょう。

【デジタル田園都市国家インフラ整備計画の概要】

光ケーブル整備 2027年度末 世帯カバー率99.9%。※2030年度目標を3年前倒し。
5G整備 5G基地局を2023年度末に28万局。2025年度末に30万局、2030年度末に60万局。
データセンター・海底ケーブルなどの整備 10数ヵ所の地方拠点を5年程度で整備。日本周回ケーブルを3年程度で完成。陸揚げ局の地方分散。
ビヨンド5G 通信インフラの超高速化と省電力化。陸海空をシームレスにつなぐ通信カバレッジの拡張。利用者にとって安全で高信頼な通信環境。

日刊工業新聞 2022年5月27日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター 石原 剛

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