グローバル
地政学的・経済的な懸念から、投資家は警戒を強め、収益性の高い企業への投資に集中する傾向が強まっている
ウクライナ危機の継続、高水準のインフレ率と金利の上昇を背景に、2022年第2四半期のベンチャーキャピタルによる投資は世界的に6四半期ぶりの低水準に落ち込みました。不透明感が払拭されないなか、2022年第3四半期におけるベンチャーキャピタルによる投資はやや低調に推移する可能性があります。
- 最大規模のメガディールは米国が中心
- ドライパウダーは存在する一方で、ベンチャーキャピタルによる投資はより慎重に
- ベンチャーキャピタルは手元資金の確保に注力するよう投資先企業に働きかける
- エネルギー価格の高騰により、代替エネルギーへの注目が高まる
- 公開市場が不調ななか、IPOイグジットが世界的に失速
2022年第3四半期に注目すべきトレンド
地政学的・マクロ経済的な不確定要素が多く、バリュエーションに対する下方圧力が継続し、投資額が減少する可能性があります。投資家が案件のデューデリジェンスを強化するため、多くの地域でベンチャーキャピタルによる取引の完了に、これまで以上に時間を要すると思われます。フィンテック、サプライチェーンやロジスティクス、サイバーセキュリティ、代替エネルギーは、引き続き有力な投資分野として位置づけられるでしょう。
米国
ベンチャーキャピタルによる投資は623億ドルに減少
2022年第2四半期のベンチャーキャピタルによる資金調達額は減少したものの、当四半期の米国のベンチャーキャピタル市場は回復力を示し、投資額は2021年第1四半期以前のどの四半期よりも多くなりました。当四半期には、Epic Gamesによる20億ドルの資金調達のほか、SpaceXによる17億ドル、GoPuffによる15億ドルなど、10億ドル超の資金調達が3件実施されました。
- 現金消費を抑えることに注力するスタートアップ
- サイバーセキュリティとサプライチェーンの企業が引き続き注目される
- 2022年第2四半期のIPO市場は依然として閉ざされたまま
- 投資家の優先順位が変化するなか、ESG投資の焦点が絞られる
2022年第3四半期に注目すべきトレンド
現在の地政学的な不確実性とマクロ経済環境が、ベンチャーキャピタルによる投資の水準にマイナスの影響を与える可能性があります。バリュエーションは2022年第3四半期も軟調に推移するでしょう。代替エネルギー、サイバーセキュリティ、サプライチェーンマネジメントなどの業界の企業は投資家にとって引き続き魅力的であると思われる一方で、消費者向け企業への魅力は薄れる可能性が高いといえます。
南北アメリカ
バリュエーションは依然として過去最高水準を維持
2022年第2四半期の南北アメリカにおけるベンチャーキャピタルによる投資は、カナダやブラジルなど米国以外で減少しました。企業が中核事業に集中しベンチャーキャピタル部門への資金提供を縮小、スタートアップへの投資を削減するなどの複合的な要因を反映していると考えられます。
- デューデリジェンスと収益性を重視するベンチャーキャピタル
- コーポレートベンチャーキャピタルの投資額は南北アメリカ全体で減少
- 変わり始めた暗号資産の潮流
- カナダでベンチャーキャピタルによる取引件数が激減
- ブラジル経済は予想以上に好調、ベンチャーキャピタルによる投資は依然減少傾向
2022年第3四半期に注目すべきトレンド
2022年第3四半期に向けて南北アメリカ全体のベンチャーキャピタルによる投資は低調に推移する可能性があります。暗号資産やブロックチェーン、eコマース、その他の消費者向け産業などのセクターでは、優良企業が競合との差別化を図る一方、事業計画を見直さなかった企業は資金不足に陥るため、統合に直面することも考えられます。
ヨーロッパ
ESGやサステナビリティ分野への関心が一層高まる
2022年第2四半期は、ウクライナ危機に伴う地政学的不安の増大、特定原材料やバリューチェーンへの依存意識の高まり、インフレ懸念の深まりなどを背景に、ヨーロッパのベンチャーキャピタルによる投資額および取引件数が減少しました。また、2022年第2四半期にはヨーロッパ中央銀行が11年ぶりの利上げを実施し、さらに、その後に追加利上げを行うことを発表しました。
- 化石燃料への依存が、ESGと代替エネルギーへの関心を呼び起こす
- インフレが高止まりしているため、消費者向けビジネスモデルへの関心が低下
- 英国におけるベンチャーキャピタルによる投資は引き続き堅調に推移
- ドイツのVCディール件数は減少、ベンチャーキャピタルによる投資額は堅調に推移
- 北欧のベンチャーキャピタルによる投資は堅調に推移、取引件数は低迷
2022年第3四半期に注目すべきトレンド
ヨーロッパのベンチャーキャピタルによる投資は、2022年第3四半期も慎重な姿勢を崩さず、資金獲得を目指す企業に対する監視の目を強めていくと予想されます。市場には潤沢な資金が存在するため、質の高いテクノロジー企業が引き続き資金を集めると考えられます。しかし、これまでは楽観的な見方をしていた投資家から資金を調達してきた企業は、今後数四半期はより困難な状況に直面し、資金を調達するためにはより強力なビジネスケースと収益への道筋が必要になるでしょう。
アジア
ベンチャーキャピタルによる投資は245億ドルに減少
アジアにおけるベンチャーキャピタルによる投資は、ディールボリュームが急減したことにより2022年第2四半期は8四半期ぶりの低水準に落ち込みました。地政学的な不確実性、地域全体で静かなIPO市場、10億ドル以上のメガディールの欠如がこの減少の要因だと考えられます。
- エネルギー分野への注目度は依然として高い
- 資金繰りの悪化が予想されるため、インドのスタートアップは資金確保に注力している
- 中国の国内ベンチャーキャピタルファンドがスタートアップを支援する役割を強化
日本へのベンチャーキャピタル投資は引き続き堅調を維持
日本のベンチャーキャピタル市場が進化と成熟を続けるなか、日本は2022年第2四半期に堅実なベンチャーキャピタル資金を集めました。セクター別では、ペイメントやアセットマネジメント、ブロックチェーン、Web3.0などのフィンテック分野が、引き続きベンチャーキャピタル投資家からの高い関心を集めています。
2022年第3四半期に注目すべきトレンド
アジア全体では、2022年第3四半期に向けてM&Aが活発化する可能性があります。中国におけるベンチャーキャピタルによる投資は、新型コロナウイルス感染症の影響と、不透明な地政学的・マクロ経済的環境によって低調に推移すると予想されます。インドは、今後1~2四半期は投資が控えめになる可能性がありますが、マクロ経済環境や市場の人口動態が比較的良好であることから、中長期的にはベンチャーキャピタルにとって魅力的な国であり続けると予想されます。