本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
本連載では、メタバースについて市場や定義、歴史、テクノロジー、ビジネス視点、課題など、幅広い観点で見てきました。連載の最終回となる今回はメタバースの未来について考えてみます。
「遊び」から始まり進化するメタバース
数年前、米国のソーシャルニュースサイトで面白い実験が行われました。登録したユーザーが選んだ色情報を他のユーザーが自由に変えることができ、最終的に1つの作品として完成されるというものです。完成した作品は、インターネットを通じて拡散、模倣、再生産されるミーム(Meme=文化の情報を伝達する“遺伝子”)として広がり、さまざまなグッズに印刷されてさらに世界中へと広がりました。このプロジェクトはあるコミュニティから生まれたもので、特定の企業が制作したコンテンツでも営利目的の活動でもない、ユーザー間のインタラクションが結果的に大きなインパクトを残すという、これまでなかったデジタルを活用した新しい遊びです。筆者はこれを、「鬼ごっこ」のように世代や国境を超えるアナログな遊びのデジタル進化版だと考えます。
ラテン語で「遊ぶ人」を意味する『ホモ・ルーデンス』の著者ヨハン・ホイジンガは「人生に遊びは大切で、遊びは文化に先行しており、人類が育んだあらゆる文化はすべて遊びのなかから生まれた」としています。人間は、ヒトの代わりに働くロボットや人工知能(AI)のような機械をこれからも開発していきますが、遊びを代替するモノは作らない(もしくは作りたくない)と、筆者は考えています。
歴史を遡ってみると、文字と手工品しかなかった時代に生まれた多くの神話は、その時代の人にとっての宇宙(ユニバース)であり、その時代の「メタバース」と言えるのではないでしょうか。新しい「デジタル遊び」の場を提供することこそがメタバースがまず初めに目指すべき方向かもしれません。さらに企業がメタバースを活用することで、その目的が変化していくことも考えられます。
1990年代後半から2000年代にかけて生まれたZ世代のことを「デジタルネイティブ」と呼びますが、次の「α世代」とそれ以降の世代は、メタバース上で遊ぶのが当たり前な「バーチャルネイティブ」と呼ばれるようになるかもしれません。さらに、その先にはデジタルやバーチャルに疲れを感じた世代から「自然に戻ろう」といった揺り戻しの動きがあるかもしれません。
まさにテクノロジーと自然の間で人類は歴史を繰り返しながら進化していくと言えるでしょう。
今、我々は繰り返しのサイクルのなかでその進化の始まりを目撃しているかもしれないのです。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター ヒョン・バロ
日経産業新聞 2022年5月12日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。