本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

「日本らしい」eスボーツの取組みとメタバース

世界中のZ世代と言われる若者たちに特に人気のあるeスポーツは、一般的なスボーツと同じようにチームに所属したプロ選手がプロリーグで競技を行うものです。eスポーツが他のスポーツと根本的に異なるのはコンテンツが「ゲーム」であるという点です。これまでのゲームは、ゲームという仮想空間のなかで敵を倒したり、他のプレーヤーと交流したりといったことはすべてインターネット上に限られていました。しかし、eスポーツは競技大会がスタジアムなどのリアルな会場で行われることから、何万人もの観客が集まります。またプロ選手になるためには大勢の前でプレーをしなければならないので、自然と人とのリアルな交流機会も増えることになります。eスポーツは仮想空間上で行うゲームでありながら、現実世界でのコミュニティが生まれ、広がっていきます。
日本国内ではこれまで、ゲームに対しネガティプに捉える傾向が強かったかもしれませんが、今やプロフェッショナリズムとコミュニティが共存する世界なのです。

ビジネスの観点から見てもeスポーツは面白いと言えます。従来のゲーム産業とは異なり、ゲーム業界とは関係のない異業種の企業が選手やチーム、競技大会のスボンサーとして深く関わっているからです。
例えば、米国の外食産業や食品・飲料メーカーをはじめ自動車メーカーや金融機関なども、すでにeスボーツに関わっています。

メタバースの課題解決に向けたヒントとして「異業種とのコラボレーション」と「現実世界とのタッチボイントを作ること」を前回解説しましたが、eスポーツの世界ではすでに一部実現されています。
2018年が「日本のeスポーツ元年」と呼ばれるなど、1990年代にはじまった海外に比べて日本は遅れているという声もありますが、筆者は日本のeスポーツシーンの発展は他国と比べて面白い部分があると考えています。これまでゲームやeスポーツと関係がなかった地方自治体などが主導するeスボーツの取組みが全国的に広がっているからです。高齢者専用のeスポーツ施設や障害者向けの大会など、これまでゲームに縁がなかった世代をターゲットにしたビジネスが生まれているのです。
こういった「日本らしい」eスボーツの取組みがメタバースでも生まれてくると、日本のメタバースビジネスの未来は明るいと言えるのではないでしょうか。歴史が浅く、方向性が明確になっていないメタバースの未来へのヒントが、世界より遅れて走り出した日本のeスポーツにあるのではないかと考えます。
最終回となる次回は、メタバース以降の未来について見ていきます。

【「日本らしい」eスポーツの取組み】

自治体

・町内のコミュニティ作り

・地元企業との連携

・観光の促進

障がい者

・社会参加の促進

・リハビリ

高齢者

・認知症予防

・健康寿命の延伸

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター ヒョン・バロ

日経産業新聞 2022年5月11日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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