本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
多くの経営層が興味を持つメタバースの可能性
ゲームもメタバースも仮想空間上のデジタルコンテンツである以上、共通した宿命があります。それは「デジタルコンテンツはそもそも飽きられやすい」ということです。国内最大規模のゲーム情報サイト「4Gamer.Net」によると、ジャンルを問わず運営期間が1年ほどで終了してしまうゲームタイトルが最も多く、さらに約9割は5年以内にサービスを終了していると言います。また、動画投稿サイト「YouTube」のようなUGC(ユーザー生成コンテンツ)プラットフォームが広く普及していますが、年をまたいで再生回数が伸びる動画コンテンツは僅かです。
一方、仮想現実(VR)などはユーザーが没入感の高い体験を得られるコンテンツである半面、VR酔いを引き起こすなど初心者ユーザーの長時間の使用に課題があります。この観点でみると、コンテンツのみに依存したものはユーザーに長く愛されることは難しいと言えます。
多くのゲームはZ世代のような、デジタルネイティブで比較的余暇時間を持つ若いユーザー層をターゲットに開発されています。一方で、ビジネスパーソンはベビーブーマー世代やX世代といった比較的ゲーム経験の少ない世代が多いことから、ゲームコンテンツによる影密力は低いと言えるでしょう。
筆者は、これらの課題を解決するヒントの1つが「異業種コラボレーション」だと考えます。異業種とのコラボレーションにより、これまでとは異なるコンテンツの提供が持続的に可能となります。これによって飽きやすいユーザーも長い時間利用するようになり、ユーザー語も特定の世代に偏らないものになるのではないでしょうか。
メタバースは、ゲームのようなエンターテインメント性の高いサービスだけではなく、アバター(分身)やデジタル建物などの仮想オブジェクトの売買や仲介といったさまざまなサービスが第三者から提供可能なプラットフォーム構造のため、異業種とのコラボレーションがしやすいと言えます。そのため、メタバースのターゲット層は仮想空間やゲームに慣れているZ世代やY世代だけではなく、自然とビジネスパーソンが含まれてきます。いまだメタバースの代表的な成功事例がないにもかかわらず、多くの経営者がメタバースに興味を示していることからも、今後メタバース内での異業種コラボレーションが活発になることは想像に難くありません。こういったコラボのニーズは企業だけでなく、観光名所や文化財を持つ地方自治体や地方公共団体にもあるのではないでしょうか。
ゲーム業界から生まれた「仮想空間の面白さ」と、メタバースが可能にする「異業種とのコラボレーション」という2つの要素がかみ合うことで、ウィンウィンな関係の構築が期待できます。ただし、体験のすべてを仮想空間上で行うことにまだ慣れていない中高年層から拒絶や批判を招く可能性があるので、現実世界とのタッチポイントを作ることが重要になってくるでしょう。
次回はeスポーツからみるメタバースについて解説します。
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執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター ヒョン・バロ
日経産業新聞 2022年5月10日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。