本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

メタバースに取り入れるべきゲームの要素とは

2003年に世界で初めてのメタバースと言われる「セカンドライフ」が誕生してから20年ほどたちますが、ビジネスとしての注目度が上がったのが2021年ごろからだと考えると、メタバースの歴史はまだ浅いものです。これに対し、ゲーム産業では1972年発売の「ポン(Pong)」という卓球ゲームが世界初のテレビゲームと言われ、50年の歴史を持ちます。世界市場の規模も2020年には20兆円を超え、映画や音楽産業を上回るほどです。
ゲームのコンテンツはジャンルによって違いはありますが、2Dと3Dの仮想空間で行うインタラクティブな遊びです。最近では拡張現実(AR)や複合現実(MR)といった現実世界と仮想空間を融合したコンテンツなど、多方面にわたって進化しています。最近人気のゲームコンテンツはプレーヤー同士が積極的にコミュニケーションし、協力せざるを得ない設計になっています。ゲームをしながら社会性を学ぶ機会を提供することで、「遊び」として生まれたゲームコンテンツの存在意義を超えたと言えるでしょう。

筆者は、メタバースビジネスの存在意義とサステナブルに成長するためのヒントがゲーム産業にあると考えています。それはゲームコンテンツが持つ「コンテンツ力」「ゲーム性」「コミュニティ」の3つの要素です。

1つ目はコンテンツ力。最近のゲームはビジュアルの美しさに加えてユーザーの想像力を高める演出など強いコンテンツ力を持ちます。一方のメタバースは、ビジュアルと演出ともにゲームと比べるとまだ初期の段階にあり、コンテンツ力が弱いと言えます。Web3.0をはじめメタバースを支えるテクノロジーがどれほど進んでも、コンテンツが弱い空間に人は集まらないし、リピート訪問もしないでしょう。

2つ目はゲーム性です。ゲームはユーザーがゲーム内でミッションやクエストを達成するために敵を倒したり、アイテムを集めたり、他のプレーヤーと協力し合うような設計になっています。コンテンツ力が多少弱くても、設計が面白いことで人気が出るものもあります。一方、メタバースは空間内の設計の自由度は高いものの、ミッションやクエストといったゲーム性を重視した設計がなされていないのが現状でしょう。

3つ目のコミュニティは、プレーヤーがゲーム内で他のプレーヤーと協力してミッションをクリアする過程で生まれます。そういったコミュニティの存在こそがゲームが長く愛される理由にもなり、また口コミでプレーヤーの裾野が広がる好循環の流れにもなります。一部のメタバースにもコミュニティは存在しますが、ゲームのような好循環の流れはまだできていません。

メタバースにこの3つの要素を取り入れるためには高いクリエイティビティが求められます。しかし、メタバースビジネスに興味を示す多くの経営者の意識は、既存のメタバースソリューションに対し、あたかも「システムを導入する」感覚でのアプローチのみにとどまっているのではないかと思われます。
次回は「ゲームXメタバース」について解説します。

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執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター ヒョン・バロ

日経産業新聞 2022年5月6日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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