本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

メタバースビジネスの持続可能性

テクノロジーによってビジネスの世界がどれだけよい仕組みにでき上がったとしても、悪意を持った第三者から仕組みやユーザーをはじめとしたステークホルダーを守れなければ信頼をなくすことになり、産業として持続できなくなるのは当然です。
2021年、世界的に驚異的な成長を見せたNFT(非代替性トークン)市場のなかには、投機を目的とした取引もかなりの数があると考えられます。さらに「FOMO:Fear Of Missing Out(自分だけが取り残される恐怖感)」と呼ばれる人の心理作用を悪用した詐欺事件も多数報告されています。なかには知識や経験が少ない若者を狙ったケースも多くあると聞きます。そういった事件の影響もあり、2022年になってNFT市場のバブルが徐々にはじけ始めているという見方もあるのです。

メタバースにおける仮想オブジェクトや仮想通貨の売買などのリアルマネートレード(RMT)が増えることで、仮想空間がマネーロンダリングに利用される恐れもあります。クリエイターは仮想空間内で使われることを目的にアバター(分身)やデジタル建物といった仮想オブジェクトを制作するのであり、またプラットフォーマーもサービスプロバイダーやユーザーが使用する前提で仮想空間を提供するのであって、犯罪組織や紛争の資金になり得るブラックマネーを流通させる意図はないのです。
一方、ブロックチェーンが分散型のネットワーク構造であっても、セキュリティ面での課題がすべてなくなった訳ではありません。ブロックチェーン上で取引される仮想通貨などの暗号資産を狙ったハッキング事件はいくつも起きており、対策が求められます。言い換えると、対策を講じられなければ産業としてサステナブルどころか生き残ることさえできなくなるのです。

Web3.0により実現される価値交換のエコシステムを可能にする仮想通貨の価格は、株価や為替に比べより激しい動きを常に見せています。こういった仕組みについてもユーザー自身が理解することが大事で、教育の機会も必要になってきます。
まったく新しい産業としての宿命かもしれませんが、メタバースが産業としてサステナブルに成長するためには、ガバナンスやコンプライアンスといった仕組みを適切に整備していく必要があります。
次回は、ゲーム業界を参考にしたメタバースビジネスが目指す方向について解説します。

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター ヒョン・バロ

日経産業新聞 2022年5月2日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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