本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

「クリエイターエコノミー」における著作権の課題

本稿を執筆するにあたり、2021年7月に経済産業省が取りまとめた「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」の報告書の作成に筆者がかかわっていたこともあり、その報告書を基に要点を絞って解説します。

まず、仮想空間を提供する「プラットフォーマー」やサービスやコンテンツを提供する「サービスプロバイダー」といったメタバース事業者が注意しなければならない法的リスクは、原則としてユーザー(消費者)などのステークホルダーとの間に結んだ契約に基づく一方で、それだけではないという点です。契約事項に記載されていなくても発生する債務のほか、記載があっても法律の条項が優先される強行法規なども存在するため、事業を開始する際には留意が必要となります。
その他にも契約に基づかない、あるいは制限が発生する債務の重要な法的論点がいくつもありますが、「仮想オブジェクトに対する権利の保護」と「仮想空間内における権利の侵害」は、個人がコンテンツを収益化する「クリエイターエコノミー」が中心になるメタバースのエコシステムでは最も重要になります。

現行法において、仮想空間内での使用を目的に制作された建物やアバター(分身)といった仮想オブジェクト等に認められる主な権利の1つは著作権です。また、メタバースの多くは不特定多数者が利用する空間であることから、現実空間や仮想空間内の著作物を仮想空間内で再現する行為は著作物の複製や公衆送信権に該当し、著作権侵害にあたる可能性があります。
例えば、著名キャラクターを模した3Dアバターを仮想空間内で再現するなどがそれです。サービスプロバイダーは契約書等に禁止事項を明記するとともに、著作権の侵害行為が発生した際に対策を講じないと、サービスの差し止めや損害賠償請求の対象となる可能性があることに注意が必要です。

メタバースにおけるクリエイターエコノミーが今後加速していくなかで、仮想オブジェクトの売買も増えていくことが考えられます。仮想オブジェクトの所有者と制作者(著作権者)が異なる場合、現行法では所有者の権利を保護することは困難です。例えば、高額で購入した仮想オブジェクトが盗難にあった場合、加害者や侵害行為に直接関与していない事業者に被害に対する補填等を法律上求めることはできません。残念ながら現状ではメタバース内での被害はすべて仮想オブジェクトの所有者が受けることになるのです。
仮想空間内の新たな経済圏でクリエイターエコノミーがサステナブルな成長を実現するためには、メタバース時代を見据えたうえで、現行法の再整備が必要でしょう。
次回は、サステナブルな観点からみたメタバースの課題について解説します。

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター ヒョン・バロ

日経産業新聞 2022年4月28日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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