1.ハイブリッドな作業環境における、財務報告と関連する内部統制リスクに引き続き注力する

コロナ禍により、消費財・小売企業の事業環境は大きく様変わりしました。従業員がリモートまたはハイブリッドな環境で働く場合、監査委員会は、企業文化として強い統制力が働いていること、コンプライアンスが守られていること、および経営陣が示す方向性が適切であることを確認する必要があります。事務職が柔軟な働き方を認められる一方で、店舗、工場、および流通センターの従業員は実際に出社することが求められているため、社内文化に微妙な動きが生じる可能性があります。監査委員会は、こうした変化がビジネスプロセス、内部統制、および財務諸表にもたらす影響についても経営陣を問いたださなければなりません。

2.気候変動その他のESG開示に関するSECのルール策定活動をモニターし、監査委員会のESG監督責任を明確にする

米国証券取引委員会(SEC)は、ESGと気候変動の開示に関する規制上の取組みを強化しており、昨年9月に、気候情報開示を準備する際に考慮すべきポイントを記載したサンプルレターを企業向けに発行しました。しかし消費財・小売業界の一部のセクターは、新たな要件下で求められる厳格な開示への準備を行っていない可能性があります。監査委員会は、今後、取締役会および監査委員会レベルでESGをモニターする方法の決定などを含め、ESGに関して経営陣とともに積極的に関与するにはどうすべきかについて計画する必要があります。

3.世界の税制動向とリスク、特に租税政策の変更、貿易と関税、ESGによる税務上の影響を常に把握する

企業が直面する最大の課題の1つは、(特に米国の現在の政治環境における)税制改革対策を策定することです。この税制改革にまつわる不確実性は、事業戦略を推進するか、規制案が実施されるまで保留にするか決定しなければならないという余計なプレッシャーを監査委員会と経営陣に与えます。また最近は、貿易と関税の問題およびESGに注目が集まり、既存のあり方が疑問視されるようになってきました。監査委員会は、税務ポリシーの効率性と企業の社会的正義との均衡を適切に図るよう経営陣に要求すべきです。

4.サイバーセキュリティとランサムウェア対策を優先課題として取り上げる

コロナ禍により消費財・小売企業はデジタル化を推進してきました。しかし、多くの場合デジタル化やデータ高速化に対応することに追われ、リスクやガバナンス、統制といった領域に注目する時間はほとんどありませんでした。eコマースでは、データおよびサイバーセキュリティ、ランサムウェア、そして顧客データのプライバシーに関する警戒を強化する必要性がいっそう高まっています。サイバー脅威はますます根強く、そして急速に技術的複雑さを増しており、経営陣と監査委員会にとって、サイバーセキュリティは以前にも増して最優先事項となっています。

5.デジタル化と顧客中心主義が進む世界で、いかにデータガバナンスが優先課題として認識されているかを理解する

消費財・小売企業にとって、データが最も価値のある資産の1つになるにつれ、基礎となるデータガバナンスおよびセキュリティ戦略はますます重要性が高まるでしょう。監査委員会は、収集から廃棄までのデータ処理ライフサイクル全体を通じて、経営陣が適切な統制機能とプライバシー保護機能を導入していること、またそれが内部監査部門によって定期的に監査されていることを確認する必要があります。

6.監査人がいかにテクノロジーを利用して監査を補佐し、質の向上を図っているかを理解する

消費財・小売企業における顧客への販売や製品・商品購入に伴う取引量を考えると、監査人はテクノロジーとデータ分析を利用して手続きを高度化すると予想されます。監査委員会は、こうした取組みを支援することによる価値提案と、データや分析が監査の質をどのように改善するかを理解する必要があります。そして監査にテクノロジーを利用することで、監査人と監査業務をサポートする従業員の効率が高まる点も重要です。

7.デジタルファイナンス改革の過程と効果的なリソース管理について理解する

監査員会は、デジタルファイナンス改革のプログラムを完全に理解し、投資収益と価値の実現を十分理解するために、経営陣に説明を求める必要があります。内部統制およびリスク管理プロセスについても改革プログラム全体を通じて継続的に実施されなければなりません。また、デジタル革命においては人材も重要であり、監査委員会は既存の従業員の定着を図る、または新しい人材やスキルを迅速に採用するために必要な投資を行い、経営陣をサポートすることが求められます。

8.内部監査の焦点が企業の重大リスクから外れることのないよう補佐していく

組織はアフターコロナ時代を生き延びるために変化する場合がありますが、内部監査機能も同様です。組織が戦略的決定を下すたびにリスクが増大し、適切に管理する必要のある組織的な変化が発生します。買収、新たな事業分野、新しい市場チャネル、大規模なテクノロジーの導入店舗の開店・閉鎖、サプライチェーンの変更、および企業のESG目標の推進には、すべてリスクと変化が伴います。効果的にリスクを管理するより完全な戦略を実施するため、内部監査部をこれらの活動の最前線に参画させる必要があります。

9.監査委員会と一緒にいる時間を最大限に活用する

ESG、気候変動、サプライチェーンの混乱、インフレーション、サイバーリスクなど消費財・小売企業にとって大きな課題が増えていることにより監査委員会の業務範囲は拡大し続け、効率的に業務を完了することが課題となっています。監査委員会は、企業が直面しているより本質的な問題に時間を使えるよう、業務量を可能な限り効率的に管理する方法を見つけなければなりません。

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