本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
メタバースが切り拓く新コミュニケーションとは
これまではテクノロジーの発展から見たメタバースについて解説してきました。今回からはユーザーアプリケーションの観点から見たメタバースについて解説します。
まずはデジタルネイティブとも呼ばれる「Z世代」の理解が必要になります。ミレニアル世代やY世代と比べてZ世代が利用する情報収集ツールは大きく変わります。じゃらんリサーチセンターの調査※1によると、Y世代の情報収集ツールはテレビが79%、SNSが56%、動画共有サイトが47%と、テレビが中心だったものが、Z世代ではSNSが70%、動画共有サイトが58%、テレビが41%となり、テレビとSNSが逆転します。さらにSHIBUYA109 lab.の調査※2では、Z世代が新しいブランドや商品を知る経路はインスタグラム51%、ツイッター49%、動画配信サービス45%、テレビ番組・テレビCM43%の順でした。
Z世代の情報収集、ブランド・商品認知の特徴に基づいてサービス設計したものが「ソーシャルコマース」です。インスタグラムやTikTokで映える買い物をするのが当たり前になっています。
ソーシャルコマースの本質はコミュニティとコミュニケーションであり、この2つをつなぐ要素がコンテンツです。ただし、ソーシャルコマースはWeb2.0を基盤に構築されたサービスであるため、コンテンツを共有する方法が文字や写真、動画に限られます。他のユーザーとの交流も「いいね!」ボタンのほか、コメントとチャット形式にとどまります。
3D仮想空間内でアバター(分身)を操作するメタバースでは、コンテンツの形式がその空間の世界観に合わせて変わっていきます。
たとえば、創立からたった1年で米ナイキに買収された米RTFKT(アーティファクト)スタジオは、NFT(非代替性トークン)のようなブロックチェーン技術とAR(拡張現実)を活用して、バーチャルスニーカーを製作するという仮想商品と現実世界の体験を融合させた、メタバース時代に合う新しいコンテンツ体験方法を開発しました。
ラグジュアリーブランドのルイ・ヴィトンは創業者生誕200周年を記念し、2021年にメタバース系スマートフォン向けゲームアプリ「LOUIS THE GAME」をリリースしました。ユーザーはルイ・ヴィトンが運営する仮想空間のなかで限定のNFTアイテムを収集でき、またブランドの創業からのストーリーをゲーミフィケーションされたコンテンツを通じて間接的に体験できます。2次元の世界から3次元のメタバースになることで、コンテンツやコミュニケーション、企業のプロモーション方法はさらに進化していくのです。
非対面が当たり前になったウィズコロナ時代とはいえ、企業活動にコミュニケーションは不可欠な要素であり、メタバースの取組みで新しいコミュニケーション文化が作られる可能性もあります。米メタ(旧フェイスブック)や米マイクロソフトがアバター基盤のオンライン会議ツールを開発するほか、米Gatherは企業内外のコミュニケーションツールとしてバーチャルオフィスを作るサービスを提供しています。
次回はコンテンツとデバイスの観点から見たメタバースについて解説します。
※1:じゃらんリサーチセンター「“Z世代”の価値観とは?若年層獲得戦略のいま」
※2:SHIBUYA109 lab. 「Z世代のSNSによる消費行動に関する意識調査」
※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター ヒョン・バロ
日経産業新聞 2022年4月21日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。