本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

ブロックチェーンが実現する分散型構造

前回は「Web3.0」の特徴が価値の交換であり、それを可能にするのがブロックチェーン(分散型台帳)技術であると話しましたが、今回はブロックチェーンについて解説します。
ブロックチェーンの本質はデータを記録する形式にあります。従来型の中央集権的な管理が要らない分散型の構造が最大の特徴です。すべての取引履歴(ブロック)がデジタル元帳に記録され、一般に公開されていることから、誰もが取引履歴にアクセスできるパブリックなデータ記録形式です。一方、取引履歴に時間を記録することで非改ざん性を証明する「タイムスタンプ」により、取引履歴の改ざんを不可能にしています。
パブリックとはいえ、取引履歴自体はハッシュ(Hash)というアルゴリズムで暗号化され、特定のカギがないと取引の中身にアクセスできず安全と言えるでしょう。
さらに、ブロックチェーンのネットワークが広がれば広がるほど取引履歴の検証が難しくなるピアツーピア(P2P)ネットワークを基盤としているため、悪意を持った取引を防ぐことができます。
ブロックチェーンによる取引では、基本として元帳情報が公開されるため、各取引における透明性が確保されます。さらに、ブロックチェーン上で契約を自動的に履行する「スマートコントラクト」機能を利用することで、個人や団体は第三者の仲介なしに価値交換を行うことができます。

ブロックチェーン上で交換した価値を保管する手段として「デジタルウォレット」(電子財布)があります。このデジタルウォレットには暗号化された取引履歴にアクセスできるカギ情報が保存されます。
このデジタルウォレットがWeb3.0の発展に重要な要素となります。Web2.0まではサービスを提供する企業が会員のデータベースを中央集権的に管理していたことから、会員のログイン情報はその企業の所有物となっていました。このためユーザーはサービスごとにサービスを提供する企業のデータベースに登録・ログインしなければならず、ユーザーの取引履歴や個人情報といったアイデンティティーをサービス提供企業が所有しているといっても過言ではありませんでした。

一方、Web3.0ではユーザーのアイデンティティーはデジタルウォレットで管理されます。デジタルウォレットは特定の企業の所有物ではないことから、ユーザーのアイデンティティーは特定の企業の所有物になることなくユーザー自身の所有物となります。
Web3.0ではユーザーは会員登録が不要となり、自分のアイデンティティーが保管されたデジタルウォレットを使ってログインし、企業が提供するサービスを利用することができるのです。
ブロックチェーンの世界観の延長としてみることができるメタバースでは、ユーザーは仲介者の存在に依存することなく価値交換ができます。ブロックチェーン技術により仮想空間上では自己主権的型アイデンティティーが実現され、新たな経済圏の実現に近づく新しい革命と言えるのではないでしょうか。
次回からはテクノロジーの理解がなくても分かる、アプリケーションの観点からみたメタバースビジネスの可能性について解説します。

執筆者

KPMGコンサルティング 
ディレクター  ヒョン・バロ

日経産業新聞 2022年4月20日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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