今期から強制適用開始 グループ通算制度に係る会計処理・開示上の留意点
旬刊経理情報(中央経済社発行)2022年6月20日号の特集「2022年6月 第1四半期決算の直前対策」に「今期から強制適用開始 グループ通算制度に係る会計処理・開示上の留意点」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
旬刊経理情報(中央経済社発行)2022年6月20日号の特集「2022年6月 第1四半期決算の直前対策」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
この記事は、「旬刊経理情報2022年6月20日号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
※WEB上の機能制限によりレイアウトや箇条書きの表示など原稿とは異なる場合があります。ご了承ください。
ポイント
|
はじめに
2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律8号)(以下、「改正法人税法」という)において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとされた。また、2021年8月12日、実務対応報告42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、「実務対応報告42号」という)が公表され、グループ通算制度を適用する場合における法人税および地方法人税ならびに税効果会計の会計処理および開示の取扱いが定められた。
グループ通算制度および実務対応報告42号は、2022年4月1日以後に開始する事業年度から適用が開始されており、グループ通算制度へ移行し実務対応報告42号を原則どおり適用する3月決算企業においては、この6月末に適用開始後最初の四半期決算を迎えることになる。
本章では、実務対応報告42号の概要と、実務対応報告42号を早期適用している場合および原則適用している場合それぞれの適用パターン別の実務上の留意点について、連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合と単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合とに分けて解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
実務対応報告42号の概要
グループ通算制度の概要
連結納税制度が企業グループ全体を1つの納税単位とする制度であるのに対して、グループ通算制度は、企業グループ内での損益通算等の調整を可能としながら、企業グループ内の各法人を納税単位とする制度である。これにより、損益通算等のメリットを享受しながら、連結納税制度と比べて事務負担の軽減を図ることが可能とされている。
実務対応報告39号および42号の概要と適用関係
税効果会計を適用するにあたっては、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づいて計算を行う必要があるが、企業会計基準委員会より、実務対応報告39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下、「実務対応報告39号」という)が公表され、2020年3月31日以後、実務対応報告5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(以下、「実務対応報告5号」という)および実務対応報告7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下、あわせて「実務対応報告5号等」という)に関する必要な改廃が行われるまでの間は、改正前の税法の規定に基づくことができる特例的な取扱いが定められた。
その後、2021年8月12日、実務対応報告42号が公表され、グループ通算制度を適用する場合における法人税および地方法人税ならびに税効果会計の会計処理および開示の取扱いが定められた。
実務対応報告5号等および実務対応報告39号は、実務対応報告42号の適用により、これらを適用する企業が存在しなくなった段階で廃止するとされている。実務対応報告42号は、原則として2022年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用されることから、これ以後はグループ通算制度を前提とした税効果会計が適用されることとなる。
実務対応報告42号適用にあたっての留意点
1.税制の変更による主な影響
グループ通算制度は、連結納税制度と同様、損益通算等のメリットを享受し得る制度であるが、損益通算等のしくみや、グループ通算制度の適用開始に伴う取扱い(時価評価、繰越欠損金の切捨て、含み損等の損金算入または損益通算の制限)、グループ通算制度からの離脱に伴う取扱い(時価評価、投資簿価修正)など、連結納税制度とは税務上の取扱いに相違がある[1]。税法上の経過措置により、たとえば、連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合にはグループ通算制度の適用開始に伴う取扱いが適用されないといった、移行のパターンの違いによる影響の差はあるものの、連結納税制度からの税制の変更に伴う影響により、税金や税効果会計に影響が生じる可能性があると考えられる。
[1] 一定の要件を満たす場合に買収プレミアム相当額を損金算入できるよう投資簿価修正の計算方法が見直された点など、2022年度税制改正の影響にも留意が必要となる。
2.実務対応報告42号における会計処理および開示の取扱い
実務対応報告42号では、たとえば、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順や企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(実務対応報告42号11項~17項)等、基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理および開示を除き、連結納税制度における実務対応報告5号等の会計処理および開示に関する取扱いが踏襲されている。
3.実務対応報告42号の適用時期ならびに適用時の取扱いおよび経過措置
(1)適用時期
実務対応報告42号は、2022年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用されるが、2022年3月31日以後に終了する事業年度の期末から早期適用することが認められている(実務対応報告42号31項)。
(2)実務対応報告42号の適用初年度以外の通常の適用時の取扱い
グループ通算制度を新たに適用する場合には、グループ通算制度の適用の承認があった日または承認があったものとみなされた日の前日を含む事業年度(四半期会計期間を含む)から、翌年度よりグループ通算制度を適用するものとして、税効果会計を適用するとされている(実務対応報告42号21項)。
(3)経過措置
税効果会計の会計処理および開示に関する経過的な取扱いについて、連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合においては、税制の変更による影響と実務対応報告42号の適用による会計方針の変更による影響があると考えられる。実務対応報告42号の適用は会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当するものの、会計方針の変更による影響はないものとみなすこととされており、また、会計方針の変更に関する注記は要しないとされている(実務対応報告42号32項(1))。
なお、実務対応報告39号の特例的な取扱い(実務対応報告39号3項)を採用している場合、税制の変更による影響は、実務対応報告42号の適用によって考慮することになるため、実務対応報告42号の適用時に当該影響を損益(あるいはその他の包括利益または評価・換算差額等)として計上することとなる。
単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合、グループ通算制度への移行が行われる年度においては一定の準備期間を要すると考えられることから、2022年4月1日以後最初に開始する事業年度の期首からグループ通算制度に移行する場合の税効果会計への影響の認識に限っては、実務対応報告42号21項の適用初年度以外の通常の適用時の取扱いの定めによらず、実務対応報告42号の適用時期の定めに従うこととされている(実務対応報告42号32項(2))。
(4)税金および税効果会計に関する従来の取扱いと実務対応報告42号の適用関係
3月決算企業においては、法人税および地方法人税(以下、「税金」という)ならびに税効果会計に関する従来の取扱いと実務対応報告42号の適用関係は図表のとおりとなると考えられる。
図表1 税金および税効果会計に関する従来の取扱いと実務対応報告42号の適用関係
※1 実務対応報告5号等の取扱いに基づく(原則的な取扱い(税効果適用指針[2]44 項に従ってグループ通算制度への移行を前提として税効果会計を適用すること)および特例的な取扱い(実務対応報告39 号に従って改正前の税法の規定に基づいて税効果会計を適用すること)を含む)。
※2 実務対応報告42号の取扱いに基づく。連結納税制度からグループ通算制度への税制の変更において、会計方針の変更の影響はないものとみなす。また、特例的な取扱いを採用していた場合、連結納税制度からグループ通算制度への税制の変更の影響は、適用初年度の損益として計上する(2023年3月期。早期適用する場合は2022年3月期の期末に計上する)。
※3 単体納税制度を前提とした税効果会計基準等[3]の取扱いに基づく。
※4 実務対応報告42号の取扱いに基づく。単体納税制度からグループ通算制度への税制の変更の影響を、適用初年度の損益に計上する(2023年3月期。早期適用する場合は2022年3月期の期末に計上する)。
[2] 企業会計基準適用指針28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」
[3] 以下の会計基準等をあわせて「税効果会計基準等」という。
- 企業会計審議会が1998年10月に公表した「税効果会計に係る会計基準」および同注解
- 企業会計基準28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」
- 企業会計基準適用指針26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」
- 税効果適用指針
適用パターン別の会計処理および開示上の影響
連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合
税効果会計の会計処理および開示に関しては、連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合、税制の変更による影響と実務対応報告42号の適用による会計方針の変更による影響があるが、実務対応報告42号では会計方針の変更による影響はないものとみなすこととされており、会計方針の変更に関する注記は要しないとされている。
税制の変更による影響に関しては、連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合には、将来減算一時差異および繰越欠損金から生じる繰延税金資産の回収可能性への影響は限定的と想定される。しかしながら、実務対応報告42号の適用パターンの違いにより、会計処理および開示への影響に次のような違いが生じる点に留意が必要と考えられる。
1.実務対応報告42号を早期適用している場合
(1)会計処理上の影響
2022年3月期末に実務対応報告42号を早期適用している場合、既に2022年4月1日よりグループ通算制度を適用するものとして税効果会計が適用され、グループ通算制度への税制の変更の影響は2022年3月期末(実務対応報告39号の特例的な取扱いを採用していない場合には改正法人税法の成立日以後)の会計処理に反映されていることから、税金に関する会計処理についてのみ、2022年6月第1四半期より実務対応報告42号に従うこととなる。
(2)開示上の影響
グループ通算制度の適用により、実務対応報告42号に従って会計処理を行っている場合には、その旨を「税効果会計に関する注記」の内容とあわせて注記することとされているが(実務対応報告42号28項および29項)、四半期財務諸表では「税効果会計に関する注記」は求められていない(企業会計基準12号「四半期財務諸表に関する会計基準」19項および25項参照)。
しかしながら、2022年6月第1四半期においては、2022年4月1日より連結納税制度からグループ通算制度へ移行し、税金に関する会計処理および開示について実務対応報告42号に従っていることから、追加的に開示する必要があると認めた場合には、その旨を注記することが考えられる。この場合、追加情報に記載することが考えられる。
2.実務対応報告42号を早期適用していない場合
(1)会計処理上の影響
実務対応報告42号を原則適用する場合には、税金および税効果会計の会計処理および開示について、2022年6月第1四半期より実務対応報告42号に従うこととなる。
実務対応報告42号の適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当するものの、税効果会計の会計処理については会計方針の変更による影響はないものとみなすこととなる。また、実務対応報告39号の特例的な取扱いを採用している場合には、税制の変更による影響を損益(あるいはその他の包括利益または評価・換算差額等)として計上することとなる。
(2)開示上の影響
四半期財務諸表では「税効果会計に関する注記」は求められていない。また、税効果会計の会計処理については会計方針の変更による影響はないものとみなされ、会計方針の変更に関する注記は要しないとされている。
しかしながら、2022年6月第1四半期においては、2022年4月1日より連結納税制度からグループ通算制度へ移行し、税金および税効果会計の会計処理および開示について実務対応報告42号に従っていることから、追加的に開示する必要があると認めた場合には、その旨を注記することが考えられる。また、税効果会計の会計処理について、実務対応報告第42号第32項(1)に基づき会計方針の変更による影響はないものとみなしている旨も注記することが考えられる。この場合、追加情報に記載することが考えられる。
単体納税制度からグループ通算制度に移行する場合
単体納税制度からグループ通算制度に移行する場合、新たにグループ通算制度を前提とした実務対応報告42号を適用することになる。このため、適用する税制の変更による影響と、それに伴う新たな会計基準の適用(会計方針の変更ではない)による影響がそれぞれあると考えられる。
税制の変更による影響として、グループ通算制度の適用開始に伴う取扱い(時価評価、繰越欠損金の切捨て、含み損等の損金算入または損益通算の制限)が適用されることにより、グループ通算制度開始に伴う一定の資産への時価評価や繰越欠損金の切捨てが必要となるといった影響が想定される。また、切り捨てられずに持ち込まれた欠損金(特定欠損金)が通算グループでの損益通算後の所得から控除されることになることによる影響も想定される。
新たな会計基準の適用による影響として、繰延税金資産の回収可能性を判断するための企業分類が通算グループ全体の分類に変更される場合や、損益通算や欠損金の通算が可能となることにより将来所得の見積りに税制の変更による影響が及ぶ場合など、繰延税金資産の回収可能性に影響する可能性があると考えられる。
2022年6月第1四半期においては、税効果会計への影響の認識について、実務対応報告42号の適用時期(原則適用および早期適用)の定めに従う経過措置が置かれていることから、実務対応報告42号の適用パターンの違いにより、会計処理および開示への影響に次のような違いが生じる点に留意が必要と考えられる。
1.実務対応報告42号を早期適用している場合
(1)会計処理上の影響
2022年3月期末に実務対応報告42号を早期適用している場合、2022年3月期末において既に2022年4月1日よりグループ通算制度を適用するものとして税効果会計が適用されている。このため、税金に関する会計処理についてのみ、2022年6月第1四半期より実務対応報告42号に従うこととなる。
(2)開示上の影響
四半期財務諸表では「税効果会計に関する注記」は求められていない。しかしながら、2022年6月第1四半期においては、2022年4月1日より単体納税制度からグループ通算制度へ移行し、税金に関する会計処理および開示について実務対応報告42号に従っていることから、追加的に開示する必要があると認めた場合には、その旨を注記することが考えられる。この場合、追加情報に記載することが考えられる。
2.実務対応報告42号を早期適用していない場合
(1)会計処理上の影響
実務対応報告42号を原則適用する場合には、税金および税効果会計の会計処理および開示について、2022年6月第1四半期より実務対応報告42号に従うこととなる。
単体納税制度からグループ通算制度へ移行する場合、グループ通算制度を新たに採用することになり、損益通算や欠損金の通算の影響を考慮して税効果会計を適用することになる。これによる影響の取扱いについて明文の規定はないが、第454回企業会計基準委員会審議事項(3)-5第13項によると、「当該影響は税制上の制度の選択により生じるものであり、当該影響はグループ通算制度を前提として税効果会計を行う最初の期に損益として計上することになる」との考え方が示されている。
(2)四半期の税金費用の計算方法について四半期特有の会計処理を採用している場合
単体納税制度からグループ通算制度へ移行する場合、移行に伴う影響は、連結納税制度からの移行の場合に比して大きくなると想定される。
四半期の税金費用の計算方法について四半期特有の会計処理(税引前四半期純利益に年間見積実効税率を乗じて税金費用を計算)を採用している場合に、2022年6月第1四半期において、3月決算企業がグループ通算制度に移行する場合の影響額を四半期会計期間の損益にどのように反映するかについては明文の規定がない。
この点、四半期特有の会計処理の取扱いに従えば、前年度末に計上された繰延税金資産については、繰延税金資産の回収見込額を各四半期決算日時点で見直した上で四半期貸借対照表に計上することとなるため、単体納税制度からグループ通算制度へ移行したことにより回収見込額を見直した場合の影響額について2022年6月第1四半期決算日に反映し、それ以外の影響額については見積実効税率に織り込んで処理することになると考えられる(企業会計基準適用指針14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」18項、23項)。
他方、四半期特有の会計処理を採用している場合であっても、原則法になるべく近似させることが必要であると考えられることから、四半期会計期間の税金費用の計算方法として原則法を採用している場合に当該影響額の全額が2022年6月第1四半期において認識されるとするならば、2022年6月第1四半期において期首の繰延税金資産に係る影響額(回収見込額の見直しによる影響額に限られない)の全額を認識する方法も考えられる。この場合、その後の各四半期決算日において四半期特有の会計処理を適用するに際しては、当該影響額を排除した年間見積実効税率を用いて各四半期における税金費用を計上し、また、期首に当該影響額を見直した繰延税金資産をベースに回収見込額の見直しを行うことになると考えられる。
(3)開示上の影響
四半期財務諸表では「税効果会計に関する注記」は求められていない。しかしながら、2022年6月第1四半期においては、2022年4月1日より単体納税制度からグループ通算制度へ移行し、税金および税効果会計の会計処理および開示について実務対応報告42号に従っていることから、追加的に開示する必要があると認めた場合には、その旨を注記することが考えられる。この場合、追加情報に記載することが考えられる。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
シニアマネジャー 公認会計士
藤田 晃士(ふじた こうじ)