本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
メタバースとゲームの違い
メタバースの定義は難しいものです。100人に聞けば100通りの答えが返ってくるのが現状だからです。
経済産業省による仮想空間の定義は「多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間。ユーザーはアバターと呼ばれる分身を操作して空間内を移動し、他の参加者と交流する」とされます。3D空間やアバターといった要素が必須であるという見方もあれば、米アマゾンのAlexaのような音声サービスもメタバースの1つだという見方もあります。定義が固まっていないからこそ、今後のビジネスポテンシャルが大きいとも言えるのです。
メタバースという言葉は、1992年にニール・スティーヴンスン氏が発表したSF小説「スノウ・クラッシュ」で「meta (~の間の意味)」と「universe(宇宙の意味)」を組み合わせた造語として初めて登場しました。今年は30年になります。筆者はメタバースとは「インターネット」というテクノロジーの要素と「ゲーム」というアプリケーションの発展から起因する分野ではないかと考えます。
2003年に米リンデンラボが発表した「セカンドライフ」が、おそらく世界で初めて実現されたメタバースではないでしょうか。セカンドライフでユーザーは他のユーザーと交流できるほか、アバターが使えるアイテムに似た仮想資産を作り、仮想通貨で仮想資産の売買ができるようになりました。仮想空間上に新しい経済圏が形成され、一部のユーザーは新しい仕事として関わることとなったのです。
一方、ゲーム業界では数多くのメタバースに似たゲームが作られてきました。代表例の1つがMMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)というゲームジャンルです。ただし、ゲームとメタバースとの大きな違いは取組みの目的です。ゲームというコンテンツは「クリアしなければならないミッションやクエスト」が前提条件としてある一方、メタバースにはそういった前提条件は一切ありません。ゲームのプレーヤーはあくまでもエンターテインメントとしてレベルアップを目指し、仲間を作ったり、ゲーム内の敵を倒したりすることが目的です。これに対し、メタバースはゲーミフィケーションというユーザー体験要素を取り入れてはいますが、新規事業開発やマーケティング、生産性向上といったビジネス活動が目的です。
ビジネスモデルとしても従来のゲームとメタバースには大きな違いがあります。ゲームというコンテンツのビジネスモデルでは、ゲーム会社が作ったコンテンツを消費者が買って利用します。ゲームコンテンツ自体が無料だとしても、ゲーム内の一部コンテンツ(アイテム・スキン)を利用するには課金されます。すべてのコンテンツはゲーム会社の統制に従って作られ、売れたコンテンツ分に対しては収益が得られるのです。一方、メタバースはすべてのコンテンツをメタバース事業者が制作するのではなく、ユーザーが必要に応じてコンテンツを作れるUGC(ユーザー生成コンテンツ)であり、ユーザーが制作したコンテンツに対してコンテンツ制作者にその対価が支払われるといった違いがあります。
メタバースのマイルストーン
・1992年作の小説「スノウ・クラッシュ」で「meta(~の間の意味)」と「universe(宇宙の意味)」を組み合わせた造語として初めて使われた
・2003年に米リンデンラボが発表した「セカンドライフ」が初めて実現されたメタバースに
・2021年10月に米フェイスブックが社名をメタ・プラットフォームズに変更
※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター ヒョン・バロ
日経産業新聞 2022年4月18日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。