本連載は、日経産業新聞(2022年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

仮想空間ビジネスがもたらすインパクトとは

最近、多くの経営者から「メタバース」というキーワードが言及されるようになっています。米フェイスブックが社名をメタ・プラットフォームズに変えたのは2021年10月であり、日本でも注目度が上がっているようです。面白いのはSNSやゲームなどコンテンツ事業とは距離のあるメーカーや、不動産、金融、交通といった本業が非コンテンツ系の経営者の興味が高まっていることです。メタバース関連の新規事業の発表も最近増えています。この現象は一体何が原因でしょうか。

「仮想空間ビジネス」とも呼ばれるメタバースの定義は幅広く、今後大幅に変わる余地はあるものの、米ブルームバーグ・インテリジェンスによると、世界の市場規模は2020年に4,787億ドルにのぼり、2024年までに7,833億ドルになると予想されています。年平均成長率(CAGR)は13%で、調査機関によってはメタバースの潜在市場規模を約1兆ドルと見込んでいます。内訳をみると、「広告」が45%と最大、次にオンラインでの購入体験にソーシャルな要素を加えたEコマースの一種「ソーシャルコマース」36%、デジタル基盤を利用して個人がコンテンツを収益化する「クリエイターエコノミー」11%が続きます。

メタバースで何ができるかをイメージしてみると、まずユーザーは仮想空間上で自分の代わりとなるアバター(分身)を操作し、他のユーザーのアバターとコミュニケーションできます。広告としての利用では、企業はリアルな空間とは異なり規制がまだ少ない仮想空間で、自社のサービスや商品を空間の制約を気にすることなく自由にプロモーションできます。たとえば、自身の個性をより強く出すためにアバターにお気に入りのデジタル服を着せたり、仮想空間上で使えるアイテムを購入したり、アバターのデジタル服と同じデザインの服をリアルな商品として買うこともできるソーシャルコマースとしての利用法があります。さらにデザインや開発が得意なユーザーであれば、自らアバターを作成したり、服などの仮想空間上で使えるさまざまなアイテムを制作できるクリエイターエコノミーとしての利用も考えられます。そういうデジタルな世界がメタバースなのです。

「仮想空間上で新しい経済圏の実現」というメタバースの将来像に企業の経営者が魅力を感じるのは当然です。すでに一部先進的な取組みはありますが、中長期的に持続可能な仮想空間ビジネスの成功事例はこれから出てくるでしょう。コロナ禍で人対人の交流が限られ、海外への移動など企業活動に大きな影響が出ているなか、感染状況を気にしなくてもよい仮想空間上での新たな接し方に目が向くのは当然です。とはいえ楽観的に捉えすぎることには注意が必要です。事業の観点からみると、メタバースはまだアイデアで理想に近いということを念頭に置いた方がよいでしょう。

本連載ではメタバースビジネス全般、特にその魅力とビジネスとしての注意点について15回にわたって解説していきます。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

執筆者

KPMGコンサルティング 
ディレクター  ヒョン・バロ

日経産業新聞 2022年4月15日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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