本レポートは、法務・コンプライアンス機能に係る現状の取組みや課題を明らかにし、組織の機能と業務についての変革を目的に、KPMGコンサルティングとトムソン・ロイター社が共同で実施した調査の結果をまとめたものです。双方の持つグローバルな知見を活かし、国際社会で求められる取組み水準を考慮した設問を含め構成しています。また、日本企業の課題を基に、法務・コンプライアンスの取組みに関する参考情報を掲載しています。
法務・コンプライアンス部門の課題認識
リーガルオペレーションの改善とリーガルテック
リーガルテックとは、法務業務の効率化・高度化を意図したテクノロジーを総称することが多く、日本の法務部門においても、電子契約やAI(人工知能)を用いた契約書レビュー等の導入が進んでいます。
【リーガルテックの概要】
名称 | 機能概要 |
---|---|
マターマネジメントシステム | 契約管理・文書管理・マターマネジメント等の複数のシステム機能を包含し、法務部門がかかわる案件情報を総合的に管理 |
電子契約システム | 電子署名やタイムスタンプを付与した電子ファイルを利用することで、システム上で契約を締結し、契約データを管理 |
ワークフローシステム | 文書管理システムと併せた文書保管や、リアルタイムな業務の進捗管理、書類の更新管理を実現 文書管理ツールや顧客管理ツールなどにワークフローが標準装備されているものが多い |
弁護士管理、訴訟管理ツール | 弁護士とのプラットフォームやデータベース共有による案件、期限等の管理やコミュニケーションを効率化 法令・裁判例データベースへのアクセスやデータ解析、訴訟文書や申請書の自動作成等が可能なツールにより、関連法令のリサーチと訴訟手続きを効率化 |
AIチャットボット | あらかじめ設定されたシナリオやAIによる自己学習に基づき、他部門からの問合せの内容を理解し、自動で的確な回答・対応が可能 |
BIツール | さまざまなデータの集約、集計、加工、表示等により、法務部門の戦略的支援機能を強化 |
リーガルテックの導入状況
回答企業の64.0%がリーガルテックを「導入している」または「導入を検討している」と回答しています。「電子署名・電子契約」をはじめとする契約業務に関するツールの導入率は高い一方で、「マターマネジメント」や「ナレッジマネジメント」に関するツールの導入率は低い結果となっています。
リーガルテック導入により期待する効果と課題
期待する効果として、半数以上が「業務の効率化」と「業務品質の向上」、また「ナレッジマネジメント」と回答しています。その一方で、「予算確保」や「導入後の運用検討」「社内調整」等が課題として挙げられています。
リーガルテックの導入については、費用対効果の明確化やツール選定に際しての適切な評価基準の設定、チェンジマネジメントへの取組み等、法務部門内でノウハウが蓄積できていないことが多い領域の検討が必須となり、幅広な人材の参画・巻き込みが求められます。
コンプライアンスリスク対応
ESG/SDGsに関する取組み
ESG/SDGsへの対応は、法務・コンプライアンス部門でも無関係ではありません。重視するESG/SDGs関連のテーマとして、「労働環境」「腐敗防止」「ダイバーシティ&インクルージョン」が上位に挙げられています。なお、ESG/SDGsに関する外部環境の変化を受け、取引先からの「ESGアンケートへの対応」や「サステナビリティレポートの作成」など、新たに加わった担当業務があるとの回答も得ています。
人権に関する取組みと課題
「経営トップによる人権尊重に関するメッセージ発信」「人権方針の策定」「社員向け人権研修」は、約40%の企業が実施済み、または継続的に実施と回答している一方で、課題としては、「従業員・現場の理解」が38.9%、「優先すべき課題の特定」が31.8%、「経営層の理解」が28.7%と上位を占めています。
ビジネスと人権の観点に関する社内理解を浸透させることに課題を感じている傾向が見られます。
サプライチェーンのコンプライアンスリスク管理
近年、サプライチェーン上のコンプライアンスリスク管理も企業の重要な課題となっています。これに対する設問では、「取引先に対する契約前審査」が70.4%、「法令違反時の契約解除権等の契約上の確保」が56.9%と、契約前と違反時の対応はできている一方で、「監査権限の契約上の確保」は26.1%、「取引中の書面調査」は25.6%、「現地調査」は16.6%と、取引中のリスク管理施策は実施できていない企業が多いことがわかります。
サプライチェーン上のコンプライアンスを確保するためには、サードパーティ(サプライヤー、製造委託先 、物流業者、販売先等、商品やサービスを提供するために業務上の関係や契約を有する組織・個人)との取引によりもたらされるリスクを適切に評価し、リスクに応じて管理する必要があります。
サードパーティリスク管理は、事業規模の拡大に伴い多大な工数を要することから、ITツールを導入し、効率的にリスクの特定や低減策の展開を進めることが有意義です。
※本レポートの全文は、こちらからご覧いただけます。