働き方改革にはじまり、在宅勤務によるリモートワークの浸透や大企業の副業解禁、早期退職やリカレント教育の必要性の高まりなど、「働く」を取り巻く環境は複雑かつ急速に変化しています。また、並行して、ディスラプティブなテクノロジーが進化し続けているのは周知の通りです。そうしたことを背景に、「働き手は個のチカラを高め、発揮することが重要である」との言葉がよく聞かれるようになりました。

しかし、実際のところ、それが発揮できる準備が整っている「働き手」や「職場」はそう多くないのかもしれません。では、ポストコロナ以降の働き方において、個のチカラはどうすれば生かされるのか? そして、それを高めるためにデジタルやテクノロジーはどのように活用されていくのか?

本稿では、上記のテーマについて、株式会社クラウドワークス吉田浩一郎氏とKPMG Ignition Tokyo 茶谷公之が議論し、さらに、50年後や100年後における「働く」の意味について空想・妄想を巡らせた対談の内容をお伝えします。

1回目の失敗から生まれた2回目の起業構想

吉田氏、茶谷

(株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 CEO 吉田浩一郎氏(左)、株式会社KPMG Ignition Tokyo 代表取締役社長兼CEO、KPMGジャパンCDO 茶谷公之(右))※記事中の所属・役職などは、記事公開当時のものです。

茶谷:          吉田さんと初めてお会いしたのは2010年頃だったと記憶しています。その際、オンラインで在宅ワーカーと仕事を発注する企業をマッチングするというクラウドワークスの構想を聞き、「おもしろいサービスを始めるな」と思っていました。いわゆるクラウドソーシングのビジネスモデルですが、この分野に可能性を感じた理由は何だったのでしょうか?

吉田:          クラウドワークスを始めるまでには紆余曲折、本当に様々なことがありました。今振り返ると、点と点の経験がひとつに結ばれたのが今の事業であると言えます。

実は、私にとって起業はクラウドワークスが2回目です。1回目の起業では20ほどの事業を立ち上げました。例えば、ベトナムでアパレルビジネスをしていたのですが、洋服というモノを輸出入するにあたって、たびたび「特に理由もなくベトナムから荷物を出せない」という“トラブル”が起こりました。現地の税関で止められてしまうのです。酷い時には1ヵ月以上、荷物が税関で止まってしまい、私はベトナムから日本に向けて、「今日も荷物が出せなかった」とメールで連絡をするしかない、という状態になってしまいました。

そうしているうちに、「モノは税関で止められるけれど、メールは止められることがない。モノの流通は既存の社会インフラに実装されて行なわれているが、インターネットは新しいインフラとして働いているのだ」ということを改めて感じるようになりました。それがインターネットにビジネスの軸足を置こうと考えるようになったきっかけです。

他にも1回目の起業では、受託業務やコンサル案件にも携わっていました。そうすると、「企業間取引で対応するには小規模な案件で利益も出しづらいが、個人なら収益的にも内容としてもいい」というケースにたびたび出くわすようになりました。

個人に発注すればいいだろうに、と思う反面、既存の日本企業の場合、特に当時はまだ「個人には発注できない。企業を通す必要があるので法人を設立してほしい」と言われてしまう現状があったものです。

一方、アメリカではすでに個人間で仕事の受発注が成立している、という話を聞いて、「モノは止められるけどインターネットは止められない」という気付きと相まって、「クラウドソーシングのビジネスをやろう」という構想が見えてきた、というわけです。

ひとりきりのオフィスに届いた感謝の気持ち

茶谷:          1回目の起業で20の事業をやった、というのはかなりチャレンジングだと思います。先ほどお話しいただいた他にはどんなことをされていたのでしょうか?

吉田:          思い出せないくらいたくさんチャレンジしました。例えば、「ワインが好きなので、中国向けのワインの輸出入をやってみよう」とか、「男性用のスカートを販売する店はないので、男性用スカート専門のeコマースサイトをやってみよう」といった具合です。

この男性用スカート専門店は雑誌やTVでも取り上げられ、「スカート男子の時代が来る!」と話題になったのですが、市場規模が小さすぎて月商30万円ほどにしかならず、それでも売れれば嬉しかったのですが、撤退することになりました。

そうした中で、「結局、自分は何がやりたかったのだろう」と考えるようになった頃、当時の仲間達が取引先を持って出て行ってしまう、ということがあり…1ヵ月ほどは相当に落ち込みました。それが2010年あたりです。

茶谷

「何のために会社をやっているのか?」と、ひとりオフィスで悶々と悩んでいたところに、ある企業からお歳暮が届いたのです。それを見た時、「私のことを覚えてくれている人がいる」と、とても嬉しくなったのを強烈に覚えています。仲間に取引先を全部持って行かれて洋服の在庫しか残っていない空のオフィスに居た私ですが、過去にやったことが誰かの記憶に残っていて、その人から感謝の気持ちが届く、と…。

その瞬間に、「お金稼ぎたいと思っていたけれど、本当は人と繋がって人に貢献をして、人にありがとうと言われることが一番大切なんだ」と、目の前が晴れていくような心持ちになりました。

そこから、「自分が人の役に立てることは何か?」と考え、それに全力を傾けようと決意しました。ちょうど同じタイミングである投資家から、「クラウドソーシングというビジネスがあるよ」と声を掛けられたのですが、そのビジネスのあり方を見ると、受託事業やコンサル案件で経験したことが多く、これなら自分の強みをしっかり発揮できる、と感じました。

インターネット業界で働いて上場までした経験もあるので、「これならば人に貢献できる仕事ができる」というイメージがどんどん湧いてきて、全財産をつぎ込んでクラウドワークスを始めた、という流れです。

会社には「ここにいよう」と思ってもらえる夢が必要

吉田氏

茶谷:          なかなか波瀾万丈ですが、ある種の“イベント”が起きたことがトリガーになって、2回目の起業に至った、というわけですね。

吉田:          そうですね。ただ、“イベント前”の体験は本当に役立っています。何か新たなビジネスを始めるなら、大きな市場に打って出ないと撤退する時はサンクコストが嵩んでしまう、といったことや、取引先を奪われないようにする仕組みが必要だからプラットフォームビジネスをやるべきだ、といった気付きの他、仲間が離れた理由が「お金を稼ぐ以外の夢がなかったからだ。それならこれからは何をすべきか」といったことを考えるきっかけを得たのです。

茶谷:          企業と従業員のエンゲージメントを深める要素は給料だけではない、ということですか?

吉田:          そう思います。どの会社も、売上を上げて利益を出し、給与を上げて再投資をする、という構造自体は変わりません。それでも「この会社にいよう」と感じてもらうためには、「夢」がなければならないのだと思います。だから「自分自身が終わりなき追求ができる夢は何か」ということをきちんと定義して、それで仕事をやっていかなければならないのです。

一方で、1回目の起業では100%自分の資本でやっていましたが、そうなると既存のビジネスの上に地層のように積み重なった社会ができて、外の社会とほとんど繋がってない感覚になると感じていたので、外からの資本を受け入れる決断もしました。過去に大きな成功をした人の様々な人脈、既にインフラを持っている人の知見やネットワークを使い、既存社会に組み込まれるようにしていこう、と考えを改めるようにもなりました。

そうした1回目の起業の学びが全てクラウドワークスで結実したという感じです。

茶谷:          最近は起業を考える人や実際に起業をする人も増えています。一方、起業した会社の大多数は数年で立ち行かなくなる、というのは定説のようになっています。2回目の起業が成功している理由はどういったところにあると感じておられますか?

吉田:          1回目は4年半ほどで、最後はうまくいかなかったのですが、だからこそそれだけ2回目には自分の中で決意ができました。全財産を投じて、1日たりとも休まない、という気概で向き合ったものです。

心機一転で気合を入れて取り組んだのですが、そうすると多くの人に手伝ってもらえて、物凄く仲間が増えていきました。今の主要なメンバーをはじめ、創業しようと決めて以降に出会った人はほとんどが仲間になっています。

そんな経験をしたから、自分の心のありようや覚悟はみんなに伝わると確信しています。また、その熱意が3年という短期間で上場できた理由だと思っています。

これからの仕事は、業務の裾野が広がり場所の制約もなくなる

茶谷:          クラウドワークスには多くのワーカーの方々と仕事を発注する企業が集まっているようですが、どういう種類の仕事が多いのでしょうか?

吉田:          創業時にはエンジニアやデザイナーの人達と仕事を発注したい企業とを我々のプラットフォームを介して、インターネットで結びつけたいと考えましたし、今でもそうした仕事が半分くらいを占めています。残り半分はそこに付帯するような、例えばライティング・文章制作の仕事や写真撮影・加工、動画撮影・編集といった、Webを構成する要素を作る領域の仕事があります。

後者は、子育て世代の方々や退職したシニアの方々もトライしやすい内容が増えてきています。そのため、「みんなのカレッジ」という学びの機会を我々が提供できるようにし、機会を増やすお手伝いもしています。ここでは、未経験からこんな仕事ができるようになる、というモデルケースを見せて、誰にでも就業機会を提供できる状態を作ることを目指しています。

吉田氏、茶谷

データ上では18歳から最高年齢で82歳ぐらいまで参加していると分かっています。お金を得たいだけではなく、自分のスキルを使って人と繋がりたい、人の役に立ちたい、という思いをお持ちの方もいらっしゃいます。また、登録されている方は東京に集中しているわけではなく、日本の人口分布とほぼ同じように様々な場所に広がっています。「都会から遠く離れた場所からでも誰かの役に立てるのが凄く嬉しい」という方もいらっしゃいます。

日本語サイトを利用できる環境があれば海外からでもアクセスして登録できるので、海外にもワーカーはいらっしゃいます。これは「インターネット上は自由だ」ということの証明だと言えるでしょう。

茶谷:          海外から仕事をされている方はどんな仕事を受けておられるのでしょうか?

吉田:          地域によって様々で、いわゆるハイスキル人材の方で、ご家庭の事情でロンドンに移住された方が日本企業のコンサルティングをしている、というケースもありましたし、カンボジアでプログラミング教室を開く傍ら自分のプログラミングスキルを生かしてクラウドワークス経由で仕事を受けている、というケースもありました。

茶谷:          仕事を発注する企業からすると、発注先がどこに住んでいるかはあまり気にされないのですね。

吉田:          以前は「顔を合わせて会議ができるワーカーの方がいい」という意見もありました。しかし、コロナ禍をきっかけにリモートワークが受け入れられるようになったこともあり、あまり気にされなくなったようです。

これは我々のプラットフォーム上だけの傾向というわけではありません。クラウドワークスでは、コンシェルジュが企業から要件を聞いて人材を紹介するサービスもしていますが、そこで問題になっていたのは「都内のエンジニア不足」でした。そこで、日本全国、あるいは世界中のエンジニアに目を向けるとご紹介できる人材は多数いますよ、という話をすると、これまで「都内のエンジニアを」とおっしゃっていた企業の方々も興味を持ってくださるようになりました。

10人中9人が仕事を受けられない状況を前に得た気付き

吉田氏

茶谷:          クラウドワークスの独自性という意味では、先ほど少し話題に出てきた教育プログラムも興味深いものです。企業に就職するとOJTや研修制度があり、スキルを身に付けていく、というのが業務に組み込まれている部分があります。しかし、クラウドソーシングで仕事を受ける立場になると、自分で学ぶ必要が出てきます。そうした方々に向けて積極的に教育の機会を提供している理由は何でしょうか?

吉田:          これまで、エンジニアやデザイナーに仕事のマッチングの場を提供してきましたが、例えばデザイナーがサイト制作をするとなると、コーディングのようなローエンドな開発ができたり、テキストや画像制作やイラストの描き起こしというようにどんどん仕事の裾野が広がっていくケースが見られました。

他方、我々は男女共同参画センターと連携し、在宅ワーク就労を促進する体験型プログラムを提供した上で、修了後にはクラウドワークスが仕事を提供する、という取り組みもしていたのですが、その現場で、10人が受講して受注ができる人は1人くらいである、という現実を知ることになりました。

みなさん意志をもって受講しているのに、100人いれば10人が受注できますが、その後、継続的に受注ができるようになるのはほんの僅かでした。

これは私達が提供しているプログラムの問題かと考えましたが、同様の取り組みをされている人達も「同じような確率になる」とおっしゃっているのを聞いて、人生観が変わりました。

世の中全体で見ると、いろんな価値観の人といろんな人生、いろんなキャリアの人がいて、おしなべて俎上に載せると10人に1人ぐらいしか仕事が受注できない、と。これは実は日本全体の縮図とも言えるように感じ、「意志はあるけれど何らかの理由でスキルが上がらない、あるいは仕事が取れないーー。けれどクラウドワークスに関わってくれたこの9人にいかに便益を提供し、貢献していくか?」を真剣に考えるようになったのです。

その結果が、学びの場としてのクラウドオンライン教育とコミュニティです。お互いが支え合い、教え合うという姿で、これは事業本部付きではなく社長室直下の取り組みにしています。

「10人中の9人にいかに貢献するか」

茶谷:          教育の領域を社長室直下にする理由は収益性の問題でしょうか?

吉田:          これはやはり、成長を求めるべきではない事業だからです。上場企業の基準にあてはめると、「年度内に何%の成長を」という議論をしなければならないものです。そうなると、「この教材を誰に販売しよう」というビジネス目線でこの取り組みを見ることになってしまうでしょう。

しかし、教育プログラムを提供する理由は先ほど申し上げた通り、「社会の10人中の9人の側にいる人達にいかに貢献するか」です。その人達からお金を取ることは目的ではありません。もちろん、プログラム自体は有償なので、教材費や受講料として多少の費用はいただきますが、それは、無償で受けるよりもわずかでも有償なら本気度が変わるから、です。では受講料を10万円や20万円にする必要があるかというと、少なくとも現段階では不要だと考えています。受講者を増やして裾野を広げ、「10人中の9人の方々という社会問題を解決したい」ということで、成長を追わない事業として社長室直下で育てています。

茶谷

茶谷:          我々のようなプロフェッショナルファームでは、様々な“簡単な作業”をAIが代替できるようになったからこそ、ジュニアレベルの監査人や会計士達がプロフェッショナルレベルになるためにはどのような教育が必要か? という問題に直面しています。そこで、AIを使って教材を作ることを考えはじめたのですが、吉田さんのところでは教育教材をどうやって作っているのでしょうか?

吉田:          弊社には、もう7年ほど教育プログラム作りに特化している人材がいます。彼は様々なパートナーと連携して、様々な成功体験の事例を集め、時にはその成功体験を持つ人を講師として招くなどしてプログラムを作り続け、今では20種類ほどの教材のラインアップを編纂しました。今では初級〜上級講座をパッケージ化できるようにまでなっていて、それを教材としています。

茶谷:          教材をイチから作られたというのは大変だったと想像します。「これは大事なことだ」と当初から理解されていたのでしょうか?

吉田:          以前、そのスタッフに話を聞いたことがあります。実は彼は社内では少し批判されることもあったのです。要は、収益に貢献しない事業に注力しすぎだ、というわけです。「そんな取り組みは撤退すべきだ」という強硬論もあったほどです。

そこで直接話をしたところ、彼は、「クラウドワークスの事業は、企業とワーカーを繋ぐことだ。そして、企業に対して熱心に働きかけることも必要だと思う。しかし、『こういうクライアントがいるからワーカーを』という話が主になっている気がする。マッチングビジネスである以上、ワーカーに尽くしてより良くしていく必要もあるはずだ。自分はどんなことがあってもこれをやり続ける」と、社内ベンチャーの気概をもって取り組んでいることが分かったのです。

その話を聞いて以降、今や新たな取組みが始まる時には彼が呼ばれ、ワーカーの声をより聞くようになりました。もはや、「なくてはならない事業」と言われるまでになったほどです。収益だけを追い求めるものではないということでしょうし、そうして取り組んでいると結果がついてくるのか、今では収益も黒字化しています。

茶谷:          そういった意味では社長室直下にしておいて良かったですね。

「働く」にまつわるバイアスをどう超えるか?

吉田氏、茶谷

茶谷:          先ほど話していただいた教材作りを担当されている方の存在は、多くの経営者や管理職の人にとって「うらやましい」と思われるものだと感じます。そうした働く人の自主性はどこから湧いてくるのか? これは「働く」ということを考え直すきっかけになるようにも考えます。

吉田:          まず、働き方にはバイアスがあると考えています。例えば、私財を持つ権利が生まれたのは産業革命以降、18世紀のことですが、それは長い人類史からするとほんの最近の出来事だと言えます。そのように、今の「当たり前」はここ200〜300年くらいでそうなったものが少なくないでしょう。

もっと広い目線で見ると、当たり前が根底から覆されるようなことは多々あります。「私達にはバイアスが存在するのだ」ということを、クラウドワークスでは入社してすぐに研修で知って考えてもらうようにしています。人間というのが動物のひとつであり、それぞれがひとつの個体である、と。ダイバーシティが当たり前なのだ、といったことを立ち止まって考える時間はとても重要なことではないでしょうか?

茶谷:          深く自分という存在を考えることは必要なことですね。似たような話として、最近は各社で「DX推進」が叫ばれますが、それを実際に担当する責任者の方々は、“会社の自分探し”を始めることになるケースが多々あります。

会社の存在意義、今でいうパーパスが決まってないので、「何のためにDXをするのか?」が見えてこないのです。そういう意味では、吉田さんがおっしゃるように、入社してすぐこれまで気付いてこなかったことに目を向けて自身を知る機会を作るのは、とても良いことですね。

吉田:          社内の意思決定プロセスが明確であり、意思決定をしたらそれを徹底することは大切です。しかし、意思決定の前には、「社長が言ったから」というのは行動の理由にならないと思います。従業員にとって、会社というのは活用する場であって、長い人生を保障してくれる存在ではありません。だから、教材を作る担当者のように、むしろ自分の意思を表明するべきですし、「日報は非効率だから廃止してほしい」と言ってもいい。

実際にクラウドワークスでは日報は辞めて、その代わりその日1日の感想をひと言だけでいいからSlackで共有する、という仕組みに変えました。すると、そちらの方が思いのほか長文を書いてくれるようになったりするんですよね。(笑)

茶谷:          やらされていると感じるかどうかだったんでしょうね。

吉田:          そうだと思います。全ての業務に共通しますが、意志を持って取り組もうと思えるような仕組みを作ることが極めて重要なのでしょう。

「働き方」の意味は変わる

茶谷:          では、最後の質問です。50年後から100年後、クラウドワークスはどういう企業になるでしょうか?

吉田:          クラウドワークスは今、「個のためのインフラになる」というミッションを掲げています。冒頭でもインフラの話に触れましたが、私の中でのインフラのイメージは「社長の名前が思い浮かばない」というものです。電気・ガス・水道、公共交通機関というライフラインを司る団体のトップの顔や名前は思い浮かびませんよね。しかし、誰にでも門戸が開かれていて、最低限のお金を払えば利用できるーーそんなイメージの就業プラットフォームにしたいと思っています。

意志さえあれば個人が誰でも稼げるようになる、人と繋がって金銭報酬だけでなく充実感や達成感といった感情報酬も得られるような「場」を作りたいですね。具体的には仕事の流通が2兆円になるようになると、インターネットを使ってあらゆる人に仕事を届けた企業の国内1位になれる、と見通しています。

茶谷

茶谷:          それは、50年100年もかからずに達成できそうですね。

吉田:          そうなるといいですね。一方、50年100年でいうと、「働き方がどう変わるか」という話になるのでしょう。正直なところ、「働く」という言葉には何となく手アカが付いているように感じています。我慢して、あるいは、誰かの指示に従って、というイメージが付きまとうということです。

しかし、今はそうした概念ではなく、「楽しいから」「人の役に立つから」という理由で行動を起こしてお金を稼ぐ人が出てきています。

例えば、私の秘書と呼べる方はピラティスを教えているのですが、そのモチベーションは、「月謝を得るべく働くのではなく、教えることで人が健康になっていく様子を見るのが楽しくてしょうがない。役に立てるのが嬉しい」というものなのだそうです。

おそらく産業革命以降、労働者というのが生まれたこの200年程度の「働く」という意味合いは終焉を迎えようとしているのでしょう。この先50年くらいで、新しく人と繋がるあり方が開発されていくのではないでしょうか? もちろん、従前の「働く」というスタイルは決して無くならないでしょうが、それだけではなく、個人の感情起点で人と繋がって報酬を得ていく、という新たなスタイルが50年から100年かけて育っていくと思っています。

そうした意味では、今は資本主義の後期に突入しつつあり、これから劣化しながら新しいSDGsやダイバーシティのような価値観、個々が尊重される考え方が育っていくタイミングになるのだろうとも思います。

「働く」を取り巻くダイバーシティが成立するために必要なこと

吉田氏

茶谷:        「自分の意志で全てを変えていこう」という価値観と、旧来型の「働く」を良しとする価値観の間にはフリクションも起きそうですが、そこはどうなっていくと考えますか?

吉田:          ダイバーシティの観点でいうと、後者の価値観自体も尊重されるべきでしょう。全ての人は認められた存在であるからです。一方で、ビジネスの現場では目標達成することで評価されるものです。そう考えると、時には画一的で上意下達のやり方の方がスピード感を持って改革を進められる場合もあるのかもしれません。また、あらゆる人たちを受け入れた時のダイバーシティというのが本当に成立し得るのか、非常に難しい課題だと言えるでしょう。

私としてはまだ正解は見えていないのですが、今はできる限りありのままに受け止めるようにしていく必要がある、と思っています。


そのためには十分な教養が欠かせませんし、相手が違う状態である時に、「相手がなぜその状態であるのか?」ということを、想像力を働かせながら接するようにしなければ、怒りの感情だけでぶつかってしまうように思います。

クラウドワークスでは、研修時に「人生で最もこだわったこと」をチームでシェアする機会を設けていますが、そうしてエピソードを共有することで尊厳が生まれ、仕事ベースではなく「ひとりの人」として向き合うようになれます。

これは、「お前は新卒社会人で何も知らないから黙って頑張れ。言われた通りにしろ。こうなったら認められる」と、現在を否定されて未来に評価起点がある状態の従前の働き方から転換するひとつの方法だと考えます。

今日において、未来というのは不確実性が高く、「黙ってやれ」と言われても「そうやっても何も保障されないじゃないか」と考えるのがある意味で当然の状態になっています。だから、「今」を認めなければならないはずなのです。そうすると、マネジメントのあり方なども明らかに変わってくる気がしています。

対談者プロフィール

吉田氏

吉田 浩一郎
株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 CEO

1974年 兵庫県神戸市生まれ。東京学芸⼤学卒業。パイオニア、リード エグジビション ジャパンを経て、株式会社ドリコム 執⾏役員として東証マザーズ上場を経験した後、独⽴。
2011年11 ⽉に株式会社クラウドワークスを創業。「個のためのインフラになる」をミッション、「世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる」をビジョンとし、日本最大のクラウドソーシング「クラウドワークス」をはじめとした企業と個人をつなぐオンライン人材マッチングプラットフォームを開発・運営しています。
2021年6⽉末時点で、提供サービスのユーザーは450万⼈、クライアント企業は74万社にのぼる。
2014年 Entrepreneur Of The Year 2014 チャレンジング・スピリット部門大賞 受賞、第14回テレワーク推進賞会長賞 受賞、同年東証マザーズ上場、2015年 経済産業省 第1回⽇本ベンチャー⼤賞 審査委員会特別賞(ワークスタイル⾰新賞)受賞、グッドデザイン・未来づくりデザイン賞 受賞。また同年、宮崎県日南市と提携した新しい地方創生の形はテレビ東京「ガイアの夜明け」にて特集される。2016年 ⼀般社団法⼈新経済連盟理事 就任。

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