2021年における世界全体のM&A件数は、あらゆるセクターで記録的な伸びを示しました。健康・ウェルネスブームと内食率の上昇を背景に食品・飲料で活発なM&A活動がみられました。消費財のM&Aは、ペットケアへの関心の高まりによって前年対比で20%増加しました。またインターネット販売・カタログ販売のディールが引き続き好調で、成長率は51%となりました。

2022年は、金利が上昇し、インフレ圧力が高まる可能性はあるものの、消費財・小売のM&Aにとって有望な年になるでしょう。ファイナンシャル・インベスター(金融機関系の投資家)からの投資が拡大しており、特にプライベートエクイティ(PE)投資家の動きが引き続き活発になることが予想されます。PE投資家は、健康・ウェルネスやアスレジャー、ペットケアといった高成長カテゴリーのほか、D2Cチャネルの革新的な事業への投資とエクスポージャーの拡大に意欲的です。

ポイント

  • 新型コロナウイルス感染症を巡る不確実性は残るものの、パンデミックに順応し、感染者数の変動に準備を整えている市場において、投資の回復は続くと予想される。
  • 健康的な食事、植物由来の原材料、持続可能なサプライチェーン、倫理的な労働慣行など、環境・社会・ガバナンス(ESG)が、かつてないほど大きな牽引材料になっている。
  • 急速に変化する消費者需要に順応するために、企業はポートフォリオの再構築を行い、最も強みを持つ分野で競争する流れにある。

世界の消費財・小売のM&A:2021年を振り返る

2021年における世界の消費財・小売M&Aの件数は6,789件(前年対比22%増)、金額は3,570億米ドル(前年対比29%増)に達しました。

図表1 世界の消費財・小売ディール件数・金額*(2018〜2021年)

図表1 世界の消費財・小売ディール件数・金額*(2018〜2021年)

取引件数の増加を後押ししたのは、米国、英国、中国での高成長です。セクター別でみると、ディール件数の分布はおおむね安定していますが、ディール金額では小売が徐々に食品・飲料を抜いて投資先の1位になっています。

図表2 ディール件数の分布は、依然としておおむね安定しているが、ディール金額では、小売が徐々に食品・飲料を抜いて、投資先の1位に

図表2 ディール件数の分布は、依然としておおむね安定しているが、ディール金額では、小売が徐々に食品・飲料を抜いて、投資先の1位に

* ディール金額には純有利子負債が含まれ、公に開示された金額、またはデータベース(トムソンディールズ、リフィニティブ)に掲載された金額が算入されています。

M&A見通し - 各地域の特徴

米州

米国の消費財のディール件数は2021年に19%増加し、良好な伸びを見せました。ファイナンシャル・インベスターが絡んだ取引は半分弱(45%)で、食品・飲料とインターネット販売・カタログ販売の活動が急増しました。新しい消費者嗜好が市場の変化を促進し、この活況は継続する見込みです。M&Aは、企業が時代に取り残されないようにするための価値あるツールであり、今後ディールを主に牽引するのは、市場への新たなるチャネル、次世代テクノロジー・能力、ESGなどです。

一方、南米は厳しい経済環境を受けて苦戦が予想されます。2021年には南米全体で消費財・小売のM&Aが劇的に伸び、最大市場のブラジルでは、1〜9月のディール件数が2020年の34件から68件へと100%増加しました。しかし2022年は、金利上昇や資本市場の弱含みなどのマクロ経済的要因のために減速が予想されます。

欧州

欧州のM&A状況はおおむね好調です。全体的なディール金額は2020年以降大幅に増加していますが、件数はいまだ2019年の水準に戻っていません。英国では、消費財・小売市場にとって2021年は素晴らしい年になりました。ディール件数は2020年を34%上回り、総取引額は前年対比191%増の361億米ドルに達しました。この活況を牽引した3つの要素は、eコマースとD2C分野での資本需要の拡大、持続可能な消費に対する需要の増加、レジャーセクターの回復による消費支出の増加です。2021年に実施された英国の消費財・小売ディールのうち、ファイナンシャル・インベスターが関与したものは57%でした。PEファンドは、英国と欧州のさまざまな機会に関心を寄せており、例えば、ペットフードや菓子などのカテゴリーで統合を行うプラットフォームを買収する機会に注目しています。

アジア太平洋

アジア太平洋地域のディール件数と金額は、まだパンデミック前の水準に戻っていませんが、中国は例外です。中国では、食品・飲料セクターに加えて、消費財とサービスのセクターでPE投資家の活動が活発になり、2021年の件数は756件、金額は348億米ドルで、2019年と2020年の記録を上回りました。2022年はPEファンドの大規模な活動が予想され、人工知能や電気自動車などのニューエコノミーが対象となる可能性が高いでしょう。

インドでは、2021年のディール件数は19%増の265件、ディール金額は47%増の136億米ドルでした。ファイナンシャル・インベスターの活動が盛んになっており、2022年は、消費財のM&Aの背後で大きな力を発揮すると予想され、特に、D2Cのパーソナルケア用品、一般的な食品、そして革新的なビジネスモデルを持つ企業がその対象領域として考えられます。

セクター別見通し

食品

食品セクターのM&Aは2021年に急激な動きが見られ、特に、健康とウェルネス、免疫に関する資産への戦略的・金融的投資が行われています。主要なプレーヤーはポートフォリオの最適化を継続し、M&Aを活用して隣接市場に進出し、規模の拡大を行うと予想されます。また食品会社も、健康的で手頃な価格の商品への需要の高まりに意欲的に応えようと、M&Aを活用してブランド獲得を進めています。今後ディールを推進する成長著しい分野として、エスニック食品のカテゴリー、ドリンクやスナックバー、代替肉などタンパク質ベースの製品などが挙げられます。

高級品

高級品市場は、2020年はコロナ禍で厳しい年になったものの、2021年初頭に回復を見せM&A活動が活発になりました。統合による効率化は、大手グループの買収によって進められる可能性が高いでしょう。そして投資家が規模と成長を求めて展開するなか、高級品を取り扱う会社は、新たなESG時代の精神に合った持続可能なビジネスモデルを持つ、好ましいターゲットになりつつあります。同時に、高級品のプレーヤーは、提供する商品・サービスを絞る方向にあり、付随的なブランドを処分することで、激しい競争を避け、繁栄を実現する規模と能力を持つセグメントに注力するでしょう。

ペットケア

世界のペットケア市場は年間7%成長し、2021〜2025年に1,470億米ドルに達する見込みです。M&Aも同様に堅調で、PEファンド、戦略的な買い手、資本市場から等しく関心が寄せられています。ペット市場はきわめて多くの企業が乱立する状態で、今後数年は統合が続くでしょう。また、統合的なペット商品提供へとシフトしていくことが予想されます。ブランドオーナーは、保健施設、ペットの診療所、幅広いペットの健康のための事業(ビタミン事業等)を取得し続けるでしょう。オンラインのペットケア小売会社も、市場のプレゼンスを高めるために補完的な事業を買収すると考えられます。

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