テクノロジーの普及に伴い、デジタルの信頼を再構築することが非常に重要になっています。
デジタルに限りなく依存している現在、商業、仕事、ライフスタイル、交通、教育、医療など、あらゆる分野において変革が迫られています。今日のような「極度に接続された世界」では「デジタル・トラスト」が非常に重要です。

「デジタル・トラスト」とは

「デジタル・トラスト」は、「デジタル技術とそれを提供する組織が公共の利益を保護する能力があるか否かにかかる社会からの信頼」と定義できます。デジタル技術への信頼は、社会とガバナンスの課題として一段と重要な位置を占めるようになるでしょう。また、デジタル技術への信頼を得るためには、適切なセキュリティとガバナンスのフレームワーク、および、責任ある倫理的な技術やデータの利用が必要となります。

残念ながら、企業や政府での個人データの保護、また、現代のテクノロジーによる意思決定への影響について、国民から大きな信頼が得られているとは言い難い状況です。世界経済フォーラムによれば、信頼の欠如は現実のものであり、しかも増大しています。セキュリティの欠如、倫理的欠陥、不十分な透明性などが課題として挙げられます。
世界経済フォーラムの「デジタル・トラスト・イニシアチブ」では、デジタル技術の信頼性とは何か、信頼性を向上させるために何ができるかについてのグローバルでの合意を形成するための取組みを続けています。
また、世界経済フォーラムは、「一部の組織のデジタル技術の利用方法に対する不安に起因する信頼の低下は、デジタル化の社会的便益を損なう恐れがある。」と警告しています。
このような世界経済フォーラムの取組みに加え、規制当局がプライバシー保護や増大するサイバー攻撃の脅威に対処する必要性について広範な見解を示していることは、心強いことです。規制当局では、機械学習、人工知能(AI)、メタバースといった全く異なる世界についても、どのように規制するべきかを模索しています。

技術革新が加速し、デジタルシステムへの依存度が高まる状況において、真に効果的な規制には、社会的な懸念、企業の信用問題、進歩を推進する政府の役割といった中で、複雑なバランスをとる行為が必要であると考えられます。

デジタルの課題をチャンスに変える

信頼の欠如を解消することが急務である、ということは見方を変えると、テクノロジーとデータの利用に関して積極的に行動する企業にとって大きなチャンスだと言えるでしょう。この機会を認識した企業は、デジタル・トラストの課題解決に向けて賢明に動き、真の説明責任と透明性を実証することを目指し、社会の認識と進歩を自社のブランドと評判につなげることができます。
企業が責任を持ってデータを収集し、データに基づく意思決定を行っていることを確実かつ一貫して説明することができれば、新たなレベルの透明性を提供することとなり、信頼性を高める上で大きな意味を持つでしょう。生命を維持する医療機器から、一層スマートになっている重要インフラまで、生活のあらゆる場面で活用されているデジタル技術への信頼も高めることになります。
意識が高く活動的なグローバル消費者の目から見て、情報に基づいた積極的なアプローチは、企業を差別化する重要な取組みとなります。また、デジタル技術の信頼性向上に取り組む価値を認識する先進的な企業は、規制当局との問題を先取りすることもできます。これは組織が今日の規制要件を超えるために必要なリソースを提供することを意味します。

社会的対話の力を活かす

デジタル・トラストの問題については、十分な情報に基づいた社会的対話の促進が不可欠です。一刻も早く、開かれた場での建設的な対話を実現する必要がありますが、決して容易なことではありません。
デジタル・トラストという課題をどうクリアするか、消費者、企業、規制当局、政府など、デジタル・トラストに関する公開議論を誰が主導していくか。消費者データ保護に関する社会的責任を唱えながらブランドを向上させるという点で、世界有数の企業がその道を歩んでいるのではないでしょうか。また、政府、消費者、投資家が組織のアプローチに透明性と信頼性を求める中、新たな信頼の枠組み、認証、格付けサービスが開発されることが予想されます。

世界経済フォーラムは次のように語っています。
「デジタル・トラストは、接続性、データ利活用、新たな革新的技術に依存するグローバル経済において必要不可欠だ。信頼に足るためには、テクノロジーは安全でなければならず、接続されたシステムの機密性、完全性、可用性を確保し、責任を持って使用されなければならない」。
そして、安全で信頼性の高いデジタル機能を備えた新しい世界を築くには、私たち社会を構成する全員の力が必要なのです。

本稿は、KPMGインターナショナルが2022年5月に発表した「Reversing the digital trust deficit」を翻訳したものです。翻訳と英語原文に齟齬がある場合には、英語原文が優先するものとします。

全文はこちらから(英文)
Reversing the digital trust deficit

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