組織も、技術も、柔軟に組み合わせる 変革を続ける京セラのアメーバ経営

京セラ株式会社 執行役員 経営推進本部長 濵野 太洋 氏との対談です。

京セラ株式会社 執行役員 経営推進本部長 濵野 太洋 氏との対談です。

創業者である稲盛和夫氏が掲げた経営理念とその実現のための指針である「京セラフィロソフィ」を全社員で共有しながら、たゆまぬ自己変革により成長・発展を続けています。そのような中、従来のCSR報告書をリニューアルし、2019年度より統合報告書の発刊を開始しました。統合報告書の中で代表取締役社長の谷本秀夫氏は「事業、組織、人事制度改革に取り組み、社会課題の解決につながる新規事業開発の創出に向け変革を加速していきます」と述べています。

世界がSDGs(持続的な開発目標)の実現へと向かう今、京セラが目指す新規事業開発とはどのようなものか。今回は、「アメーバ経営」の下で新たな技術や価値を創造し続ける組織論、サステナブルな世界を実現するための事業開発、あるべき姿を追求していくマインドセットなどについて、京セラの新規事業開発とCSR活動を率いる執行役員 経営推進本部長の濵野太洋様にお話を伺います。

インタビュアー=
紀平 聡志 あずさ監査法人 パートナー
齋尾 浩一朗 KPMGあずさサステナビリティ パートナー

対談時には感染対策を十分に行い、写真撮影時のみマスクを外しています。
所属・役職は、2022年4月時点のものです。

組織を柔軟に組み替え、課題解決のための技術や価値を生み出し続ける「アメーバ経営」

-2019年から統合報告書を公表し、その中で社会課題解決を意識した「価値創造モデル」を紹介されていますが、これについて改めてご説明いただけますか。

対談
濵野 太洋 氏
京セラ株式会社 執行役員 経営推進本部長。1983年入社。半導体部品事業本部マーケティング部長、新事業統括部長、自動車部品事業本部長を経て、 2016年執行役員に就任。2018 年より現職。経営企画、CSR、事業開発部門などを統括する。

 

濵野:統合報告書を初めて発行した当時は、価値創造モデルという概念が社内に十分に浸透していなかったのですが、「我々の会社の存在意義は何か」を改めて考え直すいい機会となりました。

京セラはこれまで、価値ある多角化を推進し、その過程で多くの技術を生み出してきました。これらの技術は、「アメーバ」と呼ばれる細分化された小さな組織の中に保有されています。各アメーバは統合・分割して、再構成されることもありますが、これらのアメーバに新たな研究開発成果を加えることで、新規事業を素早く立ち上げることができます。そして、役割を終えたら改めてリーズナブルな単位に分割し、新たな出番を待つ。このサイクルを回すことによって、価値観や市場の変化に機敏に対応しながら事業を成立させ、資本増強につなげる。それとともに、アメーバリーダーの成長機会を数多く作ることによって人材の育成を図る。それが京セラの価値創造モデルです。

このアメーバという組織単位を用いた経営手法は創業者の稲盛和夫が編み出したもので、「アメーバ経営」と呼ばれています。アメーバ経営というと、一般的には部門ごとの独立採算制度がクローズアップされていますが、アメーバとして価値創出できるものを組み替えていくことで、社会課題の解決に柔軟に対応していくという側面もあります。

京セラの価値創造 京セラグループの価値創造モデル

京セラの価値創造 京セラグループの価値創造モデル

出典:京セラ株式会社 統合報告書
詳細は、統合報告書2021をご確認ください。

-価値創造モデルの考え方が、どのような事業開発の推進につながっているのでしょうか。

濵野:価値創造モデルの目的は、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念の実現です。そして、そのサイクルを回すエンジンは、「京セラフィロソフィ」という経営哲学です。

アメーバを再構成している事例としては車載カメラ事業があります。この事業のベースになっているのが、旧株式会社ヤシカの光学技術です。同社は京セラが1983年に買収した会社なのですが、素晴らしい光学技術を持っていました。残念ながら、カメラ事業はデジタル化への対応遅れから撤退することになりましたが、光学技術は蓄積され、磨かれてきました。そうしたところに、自動車がバックする際に発生する事故抑止にカメラを搭載しようという話が持ち上がりました。そこで、この光学技術と、やはり競争力を失っていたパーツアセンブリー事業で培ってきた実装技術を合体して商品化したのが自動車のリアビューカメラです。これは、大手自動車メーカーにも採用され、今では部門の主力事業に成長しています。

最近の事例では、現役の技術同士のカップリングがあります。京セラが部品事業で培ったインクジェットプリントヘッドの技術と、京セラドキュメントソリューションズの印刷機の技術を融合させたデジタル捺染機の開発です。これは、布を染める捺染という分野における水の排出ゼロを目指した商品です。水質汚染防止により、地球上の水の環境を良くすることが目的です。

企業として着目するのは、やはり自社の得意分野や得意技術であり、大半はそれを起点にして「何の課題を解決できるのか」からスタートします。そこで取り組むべき課題が明確になれば、課題解決のために自分たちのアプローチが最適なのかどうかを検討します。その結果、最適ならば次のステップに進みます。しかし、もっと良い方法があれば、今度はそれに活用できる技術も含めて社内のアセットを探します。このような試行錯誤を積み重ねて、テーマを具体化させていく。そういうスタイルが標準になります。

総合力を発揮し、多角化を進めるために新規事業開発とCSR推進を同じ組織で担う

-御社では新規事業開発とCSR推進を同じ組織で担うというユニークな取組みを実践されていますが、なぜ、このような組織形態にしたのでしょうか。

濵野:昔と比較して、今のCSRの領域は相当拡大しているように感じています。昔は、CSRと言うと利益が出れば寄付をするというような、いわば副次的な捉え方をしていることが多かったように思います。それが、今はサステナビリティ活動という呼び方をするようになり、企業が持続的に成長するために行うべきことというような意味合いが濃くなっています。企業は本業である事業活動を通じて社会貢献、社会課題の解決を行っていくという捉え方をすべきということです。

経営推進本部組織概要

本部 事業部 機能
経営推進本部 経営企画部 経営企画
CSR推進室 サステナビリティ課題対応
A事業開発部
B事業開発部
C事業開発部

新事業開発

 

事業を行う企業は、地球資本ともいうべき「人」を使います。また、環境にも少なからず負荷をかけることにもなります。ですから、その事業が社会にとって意義あるものか、自分たちにその事業を行う資格があるのかを自問自答し続けなくてはなりません。

少し余談になりますが、稲盛は第二電電株式会社(現KDDI株式会社)の設立の際、「動機善なりや、私心なかりしか」と自らに問い続けたそうです。この考え方は京セラフィロソフィに書かれていることですが、新しい事業が成功するかどうかを決める非常に重要なポイントであると、我々は教えられており、また、業種・業界を問わない普遍的なものです。このように、京セラはCSV的な考え方で経営を進めてきています。

しかし、CSRと呼んでしまうと、少し他人事感が出てくるような気がしますよね。また、谷本もCSRはより事業部門に近いところで取り組むべきという考えを持っています。そこで事業活動への浸透を考えて、私の異動に合わせて経営推進本部で管轄することになったというわけです。そのときに、事業開発組織も併設することになったのですが、少なくとも、新たに事業として取り組むものは、社会課題の解決に資することを要件としています。

-CSRやCSVという考え方は、本来であれば、グループ全体に浸透させるのが理想だと思います。そこでCSRと事業開発を一緒するというのはユニークですよね。

濵野:谷本の意向です。私が事業部門の本部長だった頃は、「間接部門が何かやっているな」という感覚でした。しかし、 SDGsやScope3に鑑み、部品メーカーからエンドユーザーまですべてを含めた視点となると、間接部門だけで考えて進めていくにはどうしても限界があります。

-メセナとか、フィランソロピーなどと言っていた頃もありました。

濵野:そうですね。ですが、今はそうした古い考えが影を潜めて、事業で社会貢献していくことが求められるようになりました。それならば、事業に近いところで集約すべきだと思ったのです。当時でいえば、CSRからCSVへという感覚ですね。ですから、谷本はこのような配置にしたのでしょう。

-従来、総務部門や広報・IR部門が担当することが多かったのですが、最近は経営企画部門が担当することも増えてきました。しかし、新規事業開発とCSR推進を同じ部署で担っている企業は、私の知る限り御社のみです。

濵野:それは、それぞれに理由があったからです。CSRはできるだけ事業部門に近いところで対応していくべきだという考えがあり、新しい事業開発は組織横断型で対応すべきだという考えがありました。京セラの総合力を発揮する価値ある多角化を進めることで価値創造モデルを実現しようと思っていますから、いろいろな部門のさまざまな技術をある程度理解しているところで組み合わせを考えていくべきだろうと。そういう考えの下、たまたま同居したという感じです。

ただ、同居した以上、これから新しく取り組んでいく事業は、地球の共有資源を使わせていただくのに相応しいものかどうかがより問われることになります。そうなると、商品スペックを考えていくうえでも、これまでと少し視点の違うアドバイスが入ります。たとえば、さきほど説明した水を使わない捺染機ですが、実際にはヘッドの洗浄などで、多少の水を使います。その水をドレインから排水するか、あるいは回収して再生するか。このちょっとしたこと、少しの違いを、排水をゼロにしようという視点から考えるわけです。こういう「ちょっとしたこと」の積み重ねで、地球環境がより保全されるのだろうと思います。

対談

-新規事業開発は組織横断型で対応すべきということですが、それも社長のお考えなのでしょうか。

濵野:そうです。もともと当社はアメーバ経営で、ある意味縦割りの組織をつくってきました。うまくいかないものは当然ながら組み替えていくわけですが、うまくいっているものは分ける必要がないので、どんどん肥大化します。そうすると、徐々に人材の流動性が低くなり、サイロ化していく。特に、巨大な本部になると力があるものですから、会社全体の総合力を発揮しようというときに、必ずしもプラスの方向にいかないケースというのも出てきます。

そこで、横串を刺そうということになりました。いろいろな技術を融合すれば、より高い次元で社会課題の解決に対処できるだろうという考え方です。もちろん、これがすべてというわけではありませんが、その時々で何が必要かというのを考え、柔軟に組織を作っていくというのが、おそらく正しいのだろうと思います。

こうした組織論とともに、活動内容についても、あるべき姿を追求していく必要があると思っています。事業部門と密接に連携しながら、日々採算向上に向けて取り組んでいる事業部門に、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーへの取組みの意義をもっともっと浸透させなければなりません。

-新規事業開発とCSRの考え方には相反する部分もあると思います。そのなかで部門をまとめるポイントはどのようなものでしょうか。

濵野:経営の理念や思想でしょうか。先ほども申しましたように、京セラの経営理念は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」です。さらに経営思想として、「社会との共生。世界との共生。自然との共生。共に 生きる(LIVING TOGETHER)ことをすべての企業活動の基本に置き、豊かな調和をめざす」を掲げています。少々手前味噌ですが、こういうことを謳い続けて60年余り。曲がりなりにも大企業と呼ばれるような企業に成長できたのは、この理念と思想があったからだと思います。その意味では、事業開発とサステナビリティ活動には相反する点はなく、むしろ事業の成功要件の1つだと思っています。

トップダウン、ボトムアップでテーマを集め、より「社会課題の解決に資する」事業を育てる

-濵野さんが異動されて4年、つまり経営推進本部で社会課題を解決するような新規事業開発の取組みをされるようになって4年になるわけですが、どの程度進展されているのでしょうか。

濵野:順次インキュベートの期間を終えて事業化を進めています。その1番目がロボティクス事業です。将来の少子高齢化による人手不足を解消するため、人とともに働けるというコンセプトで、協働型ロボットの事業化をスタートしました。これはもう独立して、組織化しています。インフラ事業部では、信号機連携路側機やスマートポールIT(S 高度道路交通システム)、 BR(T バス高速輸送システム)など、自動運転社会を目指した製品、システムの開発を進めています。これらは今、いろいろな企業と連携して事業化に向けて取り組んでいるところです。

また、次世代の省エネの切り札にもなり得るものとして、京セラが注目しているのがGaN(窒化ガリウム)です。さらなる省エネルギーを実現するにはより高性能なデバイスが必要になりますが、GaNは低炭素社会を実現するのに有力な基幹材料として、最も注目されている素材です。そこで、2021年にGaNを基盤とした高効率・高出力レーザー技術を持つ米国のSoraa Laser Diode社を子会社化し、そのレーザー技術と京セラの結晶育成技術や半導体パッケージ技術を融合させて新たなデバイスをつくろうという取組みがスタートしました。今ではKYOCERA SLD Laser(KSLD社)として、事業化段階に進んでいます。このように、新しい事業を順次送り出しています。

-経営推進本部のなかで事業の種を育て、ある程度事業化の目処がついたものは独立させて発展させていくということですね。そのなかで、GaNにはかなり着目されているようですね。

濵野:そうです。GaNというのは、我々からすると新しい技術なのですが、この技術を使って解決できる社会課題が実は結構あります。先ほども申しましたように、我々は自社の得意分野、得意技術を起点に、どのような課題を解決できるのかを考えます。そこで、持てるものが増えると、視野も広がりますよね。その意味でも、KSLD社の設立はすごく重要な分岐点になっています。

GaNにはいくつかのテーマがありますが、その1つとしてパワーオーバーファイバー(Power-over-fiber:PoF)技術を、2022年1月に米国で開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)でコンセプト実証しました。PoFは、光ファイバーケーブルでデータと電気を一緒に伝送する光電力伝送技術ですが、これを実現するには高効率のレーザーが必要となります。現段階ではまだ効率は低いものの、GaN技術でその課題を克服したところです。

今回デモしたのは電力だけを送り込むところまでですが、最終的にはデータ転送しながら給電もできるようにしたいと思っています。光でデータも電力も伝送できれば、シンプル化、軽量化できますよね。商品化はまだこれからですが、自動車や航空機への応用など、CESではKSLD社で実現できる可能性を示せたと思っています。

-社会課題の解決に資することに新規事業開発として取り組むとのことですが、多種多様な社会課題のなかからどのように解決すべき課題を集め、選択されているのでしょうか。

濵野:我々の本部は、おおまかな分野別に事業開発プロジェクトをいくつか抱えています。それらの組織が取り組むテーマについては、「何らかの社会課題の解決に資するテーマであること」を着手要件にしています。 テーマの集め方には、あらかじめ方向性を定めてチームとして考えさせるトップダウンの仕組みと、従業員の公募による新規事業アイデアスタートアッププログラム(以下、スタートアップ制度という)というボトムアップの仕組みがあります。スタートアップ制度は、当初は募集時期を決めてテーマを集めていましたが、3年目からは通年募集にして、随時相談に近い形で精査しています。また、どのようにアイデア出しをするのかといったイノベーション創出の教育にも力を入れています。

-制度として恒常的に継続していくということですね。スタートアップ制度のテーマ採択では、何を重視されているのでしょうか。

濵野:どのような社会課題を解決するのかが明確になっているかを重視しています。ただ、スタートアップ制度の場合、起案者の比較的身近なところで感じ取った社会課題をテーマに設定していることが多いですから、より社会課題起点になっているように思います。

テーマの採択でも、既存事業との関連性よりも、課題解決に臨む提案者の思い入れの部分に重きを置いています。ちょうど第1期が事業化をしようという前段階にまで進んでいますが、その1つにアレルギーフリーの記念日用ごちそうキット「matoil(マトイル)」があります。先日、谷本も含めてみんなで会食をしたのですが、卵や小麦を使わなくても美味しいのです。私にはアレルギーがないのであまりそういう問題意識がなかったのですが、社内のアンケートによると、京セラには7世帯に1世帯くらいの割合で家族にアレルギーの方がいます。他の家族はみんな美味しいものを食べているのに、その人だけ食べられない。そうした状況を解決したいということで始まったのが「matoil(マトイル)」です。この取組みによって、本業ではあまりお付き合いのなかった業界とのつながりもできました。各自が培ってきた技術をフルに活用して、大きな社会課題解決に向けて取り組んでいきます。

スピード感のある事業開発のため、強い思いを持ち、フィロソフィを理解するリーダーに任せる

-新規事業開発は、優位に動かすためにスピード感が必要なこともあります。しかし、組織は大きくなればなるほど、承認が複雑化する傾向があります。濵野さんは、新規事業開発に求めるスピード感はどのようなものだとお考えでしょうか。

濵野:技術革新のスピードがさらに増している昨今、スピード感は新規事業開発において非常に重要な要素だと思っています。では、どのようにスピードアップするかです。事業内容によって違ってきますが、循環する、回転するということを打ち出していこうと思うと、我々の手元に留まるのはやはり2年から3年がせいぜいではないかと思っています。それ以上の期間になると、定着組織のようになってしまい、新規とは言い難いものになりますし、流動性と言いつつ囲っているような感覚が強くなってくるような気がします。

-そのスピード感で新規事業開発をするのは、既存の事業部では難しいのでしょうか。

濵野:京セラの場合、既存の事業部で新規事業開発を進めようとすると、承認体制や審査のゲートが確立されていて少し煩雑になる傾向があります。特に、初期から多くの人がステップ審査に関わると、皆それぞれの視点からいろいろと指摘してきます。対処しなければいけない課題が山のように出てきて、それに対応している間に時間が過ぎてしまう。その結果、タイミングを失するということも少なくありません。短期間で勝負をつけようと思うならば、思い切ってやる必要があります。

私自身は道を示して後は任せるという考え方で、多少のアドバイスはしますが、特に意見することなく任せて進めてもらうようにしています。成功するにしても失敗するにしても、とにかくPoCまで進め、早く結果を出す。その方がトータルで見ると、会社の損失も少ないように思えるからです。特に昨今は、そのような傾向が強くなってきているように感じています。ただ、ダラダラとならないように、ゴールのイメージはしっかり持ってもらうようにはしていますね。それが結果的にはスピードアップにつながるのではないかと思っています。

-それは、スタートアップ制度も同じなのでしょうか。

濵野:スタートアップ制度は、アイデアそのものが私たち幹部の常識の外にあります。ですから、「京セラフィロソフィに合致しているか」とか、「人間として正しいことか」というレベルの大枠でコメントはしますが、具体的な事業アプローチには基本的に口出ししませんし、また口出しさせないようにしています。

テーマを担うリーダーに対しても、京セラの価値観をよく理解しているかどうかを重視しますから、いきなり外部の人を連れてきて事業を始めるというやり方もしていません。ただ、スタートアップ制度でも、事業の大義名分を明確にして純粋な思いで事業開発を進めていると、共感する方々が集まってくるものです。たとえば、大学で研究に携わっていた人が入社したり、他の企業で同じようなスタートアップで活動されているチームから協業のご提案をいただいたりというケースが日々増えています。そういう方々が結果として将来、事業を率いていかれるということはあろうかと思います。

-稲盛氏には、いろいろな人を巻き込んで、京セラをここまで大きくしてきたようなイメージが私にはあります。それも、新規事業開発のリーダーとして重要な資質なのでしょうか。

濵野:そうです。やはり、ある程度の人望も必要です。事業を立ち上げるのは難しいですからね。リーダーというのは人間性も必要だし、スキルも必要だし、度胸も必要です。そのすべてを満たす人はそれほどたくさんいないかもしれませんが、スキルもあり、人望もあるけど、ちょっとだけ度胸が足りないというような人がいれば、その人に経験を積んでもらう場としてうまく機能するといいと思っています。

スタートアップ制度は、どちらかといえば、事業一つひとつの成功というよりも、そこでよい経験を積んでもらうことに主眼を置いています。社員一人ひとりの成長に期待して手掛けたようなものです。

-その成長の下敷きとしてフィロソフィの理解が必要なのですね。

濵野:京セラフィロソフィというのはよくできていて、あらゆることがどこかには記載されています。京セラのリーダーには、時代背景に合わせてクローズアップするフィロソフィのポイントをいかにうまく組み合わせられるかが求められているのだと思います。

-ありがとうございました。

対談

インタビュアー

紀平 聡志 あずさ監査法人 パートナー(写真右)
齋尾 浩一朗 KPMGあずさサステナビリティ パートナー(写真左)