ポイント
- ヘルスケア・ライフサイエンス分野の2021年の投資計画とバリュエーションは好調であることが確実視される。
- 2021年以降、ヘルスケアやライフサイエンスの企業は、業界やサブセクターのパラメーターを超えたところでも、新たな現実が形作られていくなかで中心的な役割を果たすことができる。
- 組織がどの程度の進化と革新を継続できるかが、成功の主な要因であると同時に、価値ある投資機会の指標でもある。
はじめに:コロナ禍の1年を振り返る
パンデミックにより引き起こされた大規模な経済的・社会的混乱にもかかわらず、2020年には同業界の企業の多くがほかの経済部門をしのぐ業績を達成しています。また複数のサブセクターの企業が、前例のない勢いを取引市場で維持しました。未曾有の混乱期にあった2020年の取引市場は、比較的小規模で独創的な取引に向かう傾向があったものの、依然として活発であったことは注目に値します。
2020年米国大統領選挙でジョセフ・バイデン氏が大統領に就任しました。KPMGでは、保険料の増加による医療費負担適正化法(Affordable Care Act; ACA)の強化や、メディケイドを拡大する州への追加的インセンティブの提供など、ヘルスケアおよびライフサイエンス政策に関するさまざまな優先課題が議題として検討されると見込んでいますが、それらが超党派の支持を取り付けることができるかどうかは現時点では未知数です。バイデン政権は利用可能なありとあらゆる行政権限を駆使し、議会の決議なしに達成できるさまざまな医療・保健政策の優先課題を推進していくと考えられます。
エグゼクティブサマリー
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が今後もヘルスケア・ライフサイエンス分野において主な懸念・重要事項であり続けることは明らかですが、その影響はサブセクターごとに異なります。
KPMGの調査では、医療機関の回答者の71%がCOVID-19を2020年の取引に係る活動に影響を与える2大要因の1つに挙げており、また53%が2021年も引き続き重要な要因になると予想しています。一方で、ヘルスケアIT分野やリスクベースの内科診療所は、感染拡大による負の影響をさほど受けていないため、これらサブセクターの資産の多くは追い風を受けている状況です。同時に全世界のライフサイエンス部門は、世界がコロナ禍を乗り越えていくために中心的な役割を果たし続けています。
2020年には、COVID-19関連の製品やサービスに軸足を移した企業が急速に回復し、現在では「平常どおり」の企業よりも、高い関心を投資家から集めています。
2020年、ヘルスケア・ライフサイエンス分野における取引の状況はサブセクターごとに異なりましたが、ほとんどすべてのサブセクターでは、年初に計画していたよりも多くの取引が発生しました。2020年から2021年にかけて多くのサブセクターで評価額の上昇が予想され、KPMGによる分析および2021年のヘルスケア・ライフサイエンス分野の投資見通し調査からも、2021年には取引に係る活動が活発になり、業績の改善も顕著になる兆候が数多くあります。
サブセクター分析
本レポートでは、経済的回復とレジリエンスの観点から見た企業の状況と、これら企業がイノベーションと変革に注力している度合いをもとに、KPMGが重視する10のサブセクターを3つのカテゴリーに分類しました。
イノベーションと継続的な変革における高度なレジリエンスと技術
- バイオ医薬品
- ヘルスケアIT
- リスクベースの内科診療所
ヘルスケアIT企業、バイオ医薬品メーカー、リスクベースの内科診療所が、変化を続ける患者のニーズへの対応力において示してきたイノベーションは注目に値します。これは、経済的混乱を目の前にしてのレジリエンスのみならず、投資への関心の高まりや投資活動の活発化を確実にするものです。
変化に対するレジリエンスは相当に高く、ビジネス変革の潜在力あり
- 行動保健
- バイオ医薬品受託事業・診断検査サービス事業
- 診断機器メーカー
- 専門医診療所
- 在宅医療とホスピス
診断研究所と診断機器メーカーは、2020年にCOVID-19関連の製品とサービスの提供に軸足を移しました。バイオ医薬品を事業とする組織、行動衛生に携わる組織、専門医診療所、在宅医療・ホスピスの提供者は、この公衆衛生の危機によって、待ち望まれていた構造改革を前進させる機会を手にしています。その多くは、遠隔医療技術の普及拡大で勢いを得ました。これらのサブセクターで極めて強力な資産を見つけるのはやや複雑な作業となりますが、多数の投資機会が潜在的なターゲット全般にわたって存在します。
経済の混乱によりレジリエンスが試されており、イノベーションの促進と新たな成長分野の開拓が必要
- 医療機器
- 病院・医療制度
医療機器メーカーと病院はコロナ禍で患者数が減少したことにより、特に待機的処置に関して大きな課題を抱えることとなりました。重課税資産は、事業が買収されなければ存続できない可能性があります。同時に、高齢化と、これらサブセクターの企業が新たな成長の道を見出す能力により、全般的な回復が確実になり、投資家は一時的に価格が下落した強固な資産をターゲットとする機会を得られると考えられます。