パターン別に整理 グループ通算制度への移行等に係る税効果会計のポイント

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年12月20日特別増大号の特集「12月決算の直前対策」に「パターン別に整理 グループ通算制度への移行等に係る税効果会計のポイント」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年12月20日特別増大号の特集「12月決算の直前対策」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「旬刊経理情報2021年12月20日特別増大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • グループ通算制度への移行には、連結納税制度からグループ通算制度への移行をはじめ多様なパターンが想定され、それぞれ検討すべき今後の決算への影響が異なる。
  • 実務対応報告39号および42号の適用関係の整理が必要となる。

 

はじめに

2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律8号)において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとされた。グループ通算制度は、2022年4月1日以後に開始する事業年度から適用される。

本章では、12月決算会社におけるグループ通算制度等への移行に係る会計処理および開示上の留意点をパターン別に解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

お問合せ

グループ通算制度の概要

連結納税制度が企業グループ全体を1つの納税単位とする制度であるのに対して、グループ通算制度は、企業グループ内での損益通算等の調整を可能としながら、企業グループ内の各法人を納税単位とする制度である。これにより、損益通算等のメリットを享受しながら、連結納税制度と比べて事務負担の軽減を図ることが可能とされている。

グループ通算制度の適用には承認が必要となるが、連結納税制度の承認はグループ通算制度の承認とみなされるため、連結納税制度を適用している会社は、所定の手続を行わなければ自動的にグループ通算制度に移行することになる。また、2022年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日までにグループ通算制度へ移行しない旨の届出書(以下、「届出書」という)を提出することにより、単体納税制度に移行することも可能である。

なお、単体納税制度を適用している会社が、グループ通算制度へ移行する前に連結納税制度に移行し、税法上の経過措置を利用してグループ通算制度に移行することで、親会社の欠損金を企業グループ内で控除可能な欠損金として利用できるといったメリットがあることから、実務上はいったん連結納税制度を適用する会社も見受けられる。

制度の移行期においては、主に次のような移行パターンが想定される。

  • パターンa:連結納税制度からグループ通算制度に移行する会社
  • パターンb:単体納税制度から連結納税制度への移行を経た後にグループ通算制度に移行する会社
  • パターンc:単体納税制度からグループ通算制度に移行する会社
  • パターンd:連結納税制度から単体納税制度に移行する会社

実務対応報告39号および42号の概要と適用関係

税効果会計を適用するにあたっては、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づいて計算を行う必要があるが、企業会計基準委員会より、実務対応報告39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下、「実務対応報告39号」という)が公表され、2020年3月31日以後、実務対応報告5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(以下、「実務対応報告5号」という)および実務対応報告7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下、あわせて「実務対応報告5号等」という)に関する必要な改廃が行われるまでの間は、改正前の税法の規定に基づくことができる特例的な取扱いが定められた。

その後、2021年8月12日、実務対応報告42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、「実務対応報告42号」という)が公表され、グループ通算制度を適用する場合における法人税および地方法人税ならびに税効果会計の会計処理および開示の取扱いが定められた。実務対応報告42号は、グループ通算制度を適用する企業および連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の財務諸表に適用され、原則として2022年4月1日以後に開始する事業年度から適用される。

実務対応報告5号等および実務対応報告39号は、実務対応報告42号の適用により、これらを適用する企業が存在しなくなった段階で廃止するとされている。そのため、原則として2022年4月1日以後に開始する事業年度からは、グループ通算制度を前提とした税効果会計が適用されることとなる。

移行のパターンと影響の概要

実務対応報告42号では、基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理および開示を除き、連結納税制度における実務対応報告5号等の会計処理および開示に関する取扱いが踏襲されている。そのため、連結納税制度からグループ通算制度に移行する会社(パターン a)では、税制の変更による影響を除き、会計処理上の影響は限定的となることが予想される。

一方で、それ以外の会社(パターン b c d)においては、異なる取扱いの適用となるため、早い段階で論点の検討が必要と考えられる。

グループ通算制度への移行にあたっての会計処理および開示上の留意点

1.税制の変更による主な影響

グループ通算制度は、連結納税制度と同様、損益通算等のメリットを享受し得る制度であるが、損益通算等のしくみや、グループ通算制度の適用開始に伴う取扱い(時価評価、繰越欠損金の切捨て、含み損等の損金算入または損益通算の制限)、グループ通算制度からの離脱に伴う取扱い(時価評価、投資簿価修正)など、連結納税制度とは税務上の取扱いに相違がある。税法上の経過措置により、たとえば、連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合にはグループ通算制度の適用開始に伴う取扱いが適用されないといった、移行のパターンの違いによる影響の差はあるものの、連結納税制度からの税制の変更に伴う影響により、税金や税効果会計に影響が生じる可能性が考えられる。

2.実務対応報告42号における会計処理および開示の取扱い

実務対応報第42号では、注記事項に例外はあるものの、たとえば、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順や企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(実務対応報告42号11項~17項)等、基本的な方針として、連結納税制度における実務対応報告5号等の会計処理および開示に関する取扱いが踏襲されている。

3.実務対応報告42号の適用時期並びに適用時の取扱いおよび経過措置

(1)適用時期
実務対応報告42号は、2022年4月1日以後に開始する事業年度(12月決算の場合は2023年12月期)の期首から適用されるが、2022年3月31日以後に終了する事業年度(12月決算の場合は2022年12月期)の期末から早期適用することが認められている(実務対応報告42号31項)。早期適用の場合、十分な周知期間を確保することや、年度内における首尾一貫性を確保することから、四半期会計期間からの早期適用は認められていない。

(2)実務対応報告42号の適用初年度以外の通常の適用時の取扱い
グループ通算制度を新たに適用する場合には、グループ通算制度の適用の承認があった日または承認があったものとみなされた日の前日を含む事業年度(四半期会計期間を含む)から、翌年度よりグループ通算制度を適用するものとして、税効果会計を適用するとされている(実務対応報告42号21項)。なお、この場合も、グループ通算制度を適用する直前事業年度における法人税等の額は従来の制度に基づいて計上することとなる。

(3)経過措置
連結納税制度を適用している会社がグループ通算制度に移行する場合(パターンa b)においては、税制の変更による影響と実務対応報告42号の適用による会計方針の変更による影響があると考えられるが、実務対応報告42号が、実務対応報告5号等の会計上の取扱いを踏襲しており、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当するものの、会計方針の変更によって重要な影響は生じないと考えられることから、会計方針の変更による影響はないものとみなすこととされている(実務対応報告42号32項(1))。

なお、実務対応報告39号の特例的な取扱い(実務対応報告39号3項)を採用している場合、税制の変更による影響は実務対応報告42号の適用によって考慮することになる。そのため、実務対応報告42号の適用時において、税制の変更による影響を損益(あるいはその他の包括利益または評価・換算差額等)として計上することとなる。

単体納税制度を適用している会社がグループ通算制度に移行する場合(パターンc)、グループ通算制度への移行が行われる年度においては一定の準備期間を要すると考えられることから、実務対応報告42号の適用初年度以外の通常の適用時の取扱いの定めによらず、実務対応報告42号の原則適用および早期適用の定めに従うこととされている(実務対応報告42号32項(2))。

連結納税制度を適用している会社が単体納税制度に移行する場合(パターンd)、届出書を提出した日の属する会計期間(四半期会計期間を含む)から、2022年4月1日以後最初に開始する事業年度より単体納税制度を適用するものとして税効果会計を適用することとされている(実務対応報告42号33項)。

主な移行のパターンと会計処理および開示上の影響

1.主な移行のパターンと影響のイメージ

グループ通算制度の適用にあたって想定される主な移行のパターンと、それに伴う2021年および2022年12月期の会計上の影響は図表1のとおりと考えられる。また、税金および税効果会計に関する従来の取扱いと実務対応報告42号の適用関係については図表2のとおりと考えられる。

図表1 主な移行パターンと2021年および2022年12月期の会計上の影響

パターン別に整理 グループ通算制度への移行等に係る税効果会計のポイント_図表1

図表2 税金および税効果会計に関する従来の取扱いと実務対応報告42号の適用関係

パターン別に整理 グループ通算制度への移行等に係る税効果会計のポイント_図表2

2.2021年12月期における会計処理および開示上の影響

12月決算の場合、グループ通算制度が適用される時期は2023年12月期以後となるため、2021年12月期においては従来どおりの会計処理および開示が継続されるケースが多いと想定されるが、グループ通算制度の適用開始前に連結納税制度を導入するケース(パターンb)では影響の検討が必要となる。そのため、以下の2021年12月期における会計処理および開示上の影響については、パターンbについてのみ言及する。

(1)会計処理上の影響
2021年12月期において連結納税の承認を受け、2022年1月1日より連結納税制度を適用する会社は、実務対応報告5号Q12-2に基づき、2021年12月期において、連結納税の承認日の属する四半期会計期間から、2022年12期より連結納税制度を適用するものとして税効果会計を適用することが必要となる。

なお、グループ通算制度への移行およびグループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度の見直しが行われた項目については、実務対応報告39号に従って改正前の税法の規定に基づいて税効果会計を適用することができる。

(2)開示上の影響
追加的に開示する必要があると認めた場合には、2022年12期より連結納税制度を適用するものとして税効果会計を適用している旨を注記することが考えられる。
また、実務対応報告39号に基づき特例的な取扱いを適用する場合には、その旨を注記することが必要となる(実務対応報告39号第4項)。具体的な記載箇所等の定めはないが、財務会計基準機構(以下、「FASF」という)が「有価証券報告書の作成要領」において重要な会計方針としての記載を例示しており、これにならった事例が多く見受けられる。

なお、連結納税制度の導入に関する注記については、追加情報に記載する事例が多く見受けられるが、実務対応報告39号の適用に関する注記とあわせて記載する場合には、たとえば、いずれも重要な会計方針として記載するなど、記載箇所の平仄を合わせる実務上の対応が考えられる。

そのほか、未適用の会計基準等に関する注記として、実務対応報告42号に関する記載の要否を検討することも必要となる(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」22-2項)。

3.2022年12月期における会計処理および開示上の影響

(1)2023年1月1日よりグループ通算制度を適用する会社(パターンa b c)

(イ)会計処理上の影響
2023年1月1日よりグループ通算制度を適用する場合であって、実務対応報告42号を原則適用する場合は、2022年12月期においても従来の会計処理を継続し、実務対応報告42号を早期適用する場合は、2022年12月期の期末において、次のような影響を勘案のうえ、2023年12月期よりグループ通算制度を適用するものとして税効果会計を適用することが必要となる。

まず、連結納税制度を適用している会社がグループ通算制度に移行する場合(パターンa b)、連結納税制度における欠損金額がグループ通算制度における欠損金額とみなされるとともに、グループ通算制度の適用開始に伴う取扱い(時価評価、繰越欠損金の切捨て、含み損等の損金算入または損益通算の制限)は適用されないことから、損益通算等のしくみや投資簿価修正に係る取扱いなどの税制の変更による影響を除き、将来減算一時差異および繰越欠損金から生じる繰延税金資産の回収可能性への影響は限定的と考えられる。

次に、単体納税制度を適用している会社がグループ通算制度に移行する場合(パターンc)であって、グループ通算制度の適用開始に伴い、時価評価が必要な場合や繰越欠損金が切捨てられるような場合には、グループ通算制度の適用開始に伴う取扱いにより、将来減算一時差異および繰越欠損金から生じる繰延税金資産の回収可能性に影響が生じる可能性がある。

(ロ)開示上の影響
2023年1月1日にグループ通算制度を適用する会社(パターンa b c)であって、実務対応報告42号を原則適用する場合については、2022年12月期において、未適用の会計基準等に関する注記として、実務対応報告42号に関する記載の要否を検討することが必要となる。
一方、実務対応報告42号を早期適用する場合については、2022年12月期の期末において、実務対応報告42号に従って2023年12月期よりグループ通算制度を適用するものとして税効果会計を適用している旨を注記することが必要となる。具体的な記載箇所等の定めはない。なお、連結納税制度からグループ通算制度に移行する会社の場合(パターンa b)、会計方針の変更による影響はないものとみなされることから、会計方針の変更に関する注記は不要とされている。

2023年1月1日にグループ通算制度を適用する会社のうち、2022年12月期に連結納税制度を適用することとした会社(パターンb)については、実務対応報告5号Q17 A2に示された考え方に基づき、連結納税制度の適用に関する注記を記載することが適当と考えられる。具体的な記載箇所等の定めはないが、重要な会計方針として記載されている事例が多く見受けられ、FASFの「有価証券報告書の作成要領」でも同様の記載が例示されている。

(2)2023年1月1日より連結納税制度から単体納税制度へ移行する会社(パターンd)

(イ)会計処理上の影響
連結納税制度から単体納税制度へ移行する場合、税法上、連結納税での連結欠損金個別帰属額や連結納税の適用開始および加入時に行われた資産の時価評価は単体納税制度に引き継がれることとされているが、損益通算等の税務メリットを失うことから、将来減算一時差異および繰越欠損金から生じる繰延税金資産の回収可能性が低下する可能性がある。このような影響を勘案のうえ、2022年12月期において、届出書の提出後、2023年12月期より単体納税制度を適用するものとして税効果会計を適用することが必要となる。

(ロ)開示上の影響
追加的に開示する必要があると認めた場合には、2022年12月期において、2023年12月期より単体納税制度を適用するものとして税効果会計を適用している旨を注記することが考えられる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
シニアマネジャー 公認会計士
藤田 晃士(ふじた こうじ)

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