LIBOR参照金融商品に係るヘッジ会計のポイント

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年12月20日特別特大号の特集「12月決算の直前対策」に「代替指標の金利決定のタイミングに要注意 LIBOR参照金融商品に係るヘッジ会計のポイント」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年12月20日特別特大号の特集「12月決算の直前対策」に「代替指標の金利決定のタイミングに要注意 LIBOR参照金融商品に係るヘッジ会計の..

この記事は、「旬刊経理情報2021年12月20日特別特大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

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ポイント

  • 2021年12月末をもって米ドルLIBORの一部を除き従来の方法によるLIBORの公表が停止されることが確定し、それに伴って金利指標の移行対応が進んでいる。
  • 実務対応報告40号は金利指標改革に伴うヘッジ会計の特例的な取扱いを定めてヘッジ会計の継続が可能となるような手当をしているため、金利指標が置き換えられても一定の条件を満たせばヘッジ会計は継続できる。
  • ただし、ヘッジ会計が継続できたとしても、代替金利指標の金利決定のタイミングが従前と変わり、利払日と決算日が一致していない場合などで、会計処理が煩雑となる可能性がある。

1.はじめに

企業会計基準委員会は、2020年9月29日、実務対応報告40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下、「本実務対応報告」という)を公表した。2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づく金利指標改革が進められるなか、ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Offered Rate。以下、「LIBOR」という)の公表の恒久的停止がいよいよ現実味を帯びてきたことを受け、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理および開示上の取扱いを明らかにするためである。

本実務対応報告は、金利指標置換えの前後で経済効果がおおむね同等となることを意図した契約条件の変更や契約の切替えを対象に、金利指標の置換前、置換時、置換後に分けて、ヘッジ会計の継続が可能となるような特例的な取扱いを定めている。

本実務対応報告は公表日以後適用可能とされており、2021年3月5日にLIBORを監督する英国金融行為規制機構(FCA)が声明を出したことで、従来の方法によるLIBORの公表停止時期が確定したことからも、該当取引がある企業はすでに本実務対応報告を適用済みと考えられる。金利指標の移行対応も進んでおり、2021年12月末のLIBOR公表停止の次の利払日から代替金利指標に置き換わり、本実務対応報告を適用して金利指標置換後の会計処理を行うことを予定する企業も多いはずである。

本実務対応報告に関してはすでに多くの解説が出されていることから、本稿では視点を変え、本実務対応報告に基づきヘッジ会計を継続する場合に留意すべき事項を解説する。

なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを申し添える。

2.LIBORの公表停止に関する動向とLIBOR置換えの進捗状況

会計処理についての解説に入る前に代替金利指標への移行の状況について簡単に触れておきたい。

(1)移行に関する現況

本実務対応報告公表時点では、2021年12月末をもってLIBORの公表が恒久的に停止されるとの見通しが示されていたにすぎなかったが、その後2021年3月5日にFCAの声明により、米ドルLIBORの一部のテナー(満期までの期間)を除き、2021年12月末をもって全通貨・テナーの恒久的公表停止(または指標性喪失)が確定した(1)。今回対象とならない米ドルLIBORのテナーについても2023年6月末には同様の状況に移行する。これを踏まえ、日本においてもLIBOR公表停止に向けた対応を進めることが重要であるとの金融庁および日本銀行の考え方が2021年3月8日には各業界団体を通じて金融機関に通知されている(2)

金融庁および日本銀行が、日本の主要金融機関における円LIBORからの移行状況の現状を把握するために2021年9月末を調査基準日として実施した簡易調査の結果(3)によると、調査の対象となった円LIBOR参照契約のうち、件数ベースで、貸出の85.1%、債券(調達)の51.6%、デリバティブの99.1%がすでにフォールバック(4)条項導入済みであり、移行対応が急ピッチで進められていることがうかがわれる。

(2)代替金利指標の検討状況

また、LIBORに代わり得る代替金利指標についても各国で検討が進んでおり、本邦における検討体「日本円金利指標に関する検討委員会(以下、「検討委員会」という)」では、円LIBORの代替金利指標の主な選択肢として、オーバーナイト・リスク・フリー・レート(TONA)やターム物リスク・フリー・レート(TORF)が支持されている(図表1参照)。このうち、検討委員会において推奨された貸出における代替金利指標は、第1順位がTORF、第2順位がTONAとなっている(5)。一方、デリバティブについては、標準的な契約における代替金利指標はTONAとなっている(6)

図表1 日本円LIBORの代替金利指標

図表1 日本円LIBORの代替金利指標

(出所)「LIBORの恒久的な公表停止に備えた対応について」(全銀協2021年4月改訂版)を参考に筆者作成

(3)金利指標置換後の取扱いの再確認

本実務対応報告で設けられた措置の一部は2023年3月31日以前に終了する事業年度までとする時限的なものとなっている。この点、本実務対応報告公表時には、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いとして、約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認することとしていた(本実務対応報告53項)。前述のようなLIBORの公表停止時期の確定や移行対応の進捗状況などを踏まえ、2021年10月25日の企業会計基準委員会において、本実務対応報告に関する審議が開始されている。

ASBJ事務局による審議資料では、米ドルLIBORの一部テナーについては公表停止日が2023年6月30日まで延期されたため、本実務対応報告の特例的な取扱いの期限(2023年3月31日)を超えて米ドルLIBORを参照するケースが残る可能性があることなどが論点として挙げられている。この点について、本実務対応報告の背景となった考え方を維持する観点などから、特例的な取扱いの期限(2023年3月31日)を1年間、延長する方向で検討が行われている。

(1)“FCA announcement on future cessation and loss of representativeness of the LIBOR benchmarks

(2)「LIBORの公表停止時期の公表及びシンセティック円LIBOR構築に関連する意図表明を受けての今後の対応について
(3)「円LIBOR利用状況簡易調査結果概要」(2021年11月公表)
(4)フォールバックとは、LIBOR参照の既存契約について、LIBORの恒久的な公表停止後に参照する金利(フォールバック・レート)を、契約当事者間で公表停止前にあらかじめ合意しておく対応方法である。
(5)「『日本円金利指標の適切な選択と利用等に関する市中協議(第2回)』取りまとめ報告書」(2020年11月公表)
(6)ISDA(International Swap and Derivatives Association(国際スワップ・デリバティブズ協会))が定めるひな型契約書であるISDAマスター契約に準拠するデリバティブでは、円LIBORのフォールバック・レートはTONAとされている。

3.金利指標置換後の留意事項

円LIBORの代替金利指標としては、TONAやTORFが検討委員会で支持されており、図表1のとおり金利決定のタイミングに相違がある。金利決定のタイミングには前決めと後決めがあり、利息計算方法は図表2のとおりである。円LIBORは金利決定のタイミングが前決めであったが、金利決定のタイミングが後決めの金利指標に置き換えられた場合、経過利息の計算などで実務上の問題が生じ得る。

図表2 前決め金利と後決め金利

図表2 前決め金利と後決め金利

(出所)筆者作成

(1)ヘッジ対象とヘッジ手段で異なる金利指標に置き換えられる場合

前記「LIBORの公表停止に関する動向とLIBOR置換の進捗状況」でみたように、検討委員会において推奨された貸出における代替金利指標は第1順位がTORFである一方、デリバティブについては、標準的な契約における代替金利指標はTONAとなっている。そのため、一般事業会社において、ヘッジ対象である借入金はTORF、ヘッジ手段であるデリバティブはTONAに置き換えられるケースも発生しうる。

この場合にヘッジ会計の適用を中止または終了し、損益を認識しなければならないのかという懸念に対処するため、本実務対応報告は、一定の条件のもとで、ただちにヘッジ会計の中止または終了をせずに、ヘッジ会計の適用を継続することができる等の、特例的な取扱いを定めている。そのため、当該条件を満たす場合には、LIBORから代替金利指標への置換えによりヘッジ対象とヘッジ手段で異なる金利指標を参照することになったとしても、ヘッジ会計を継続することができる。しかし、参照する金利指標が置き換えられたことにより、ヘッジ対象とヘッジ手段の条件が同一ではなくなるなどの影響が生じ、ヘッジ会計を継続した場合に留意すべき事項も生じると考えられる。

たとえば、変動金利の借入金に係る利息支払額の変動をヘッジするために金利スワップを締結し、金利スワップの特例処理を行っていたとする。特にヘッジ対象とヘッジ手段に関する条件が同一であるようなケースでは、借入金からの変動金利(払い)と金利スワップの変動金利(受け)は相殺されることから、両者を一体として、金利スワップの固定金利(払い)を利息条件とする固定金利借入金とみなし、あたかも固定金利の借入金の利息計算を行うかのように借入金の残高に固定金利を乗じて、未払利息計上額を算定して会計処理していたかもしれない。しかし、金利指標改革によりヘッジ対象とヘッジ手段で異なる金利指標に置き換えられた場合には、変動金利の借入金に係る利息支払額と金利スワップにより受け取る変動金利の金額が完全には一致しないため、本実務対応報告の特例的な取扱いを適用して金利スワップの特例処理は継続できたとしても、従前のように借入金の残高に金利スワップ固定金利を乗じただけでは未払利息計上額を正しく算定できない。

これが具体的にどのような仕訳に影響するのか、金利スワップの特例処理に関する数値例(事例)を用いて確認する。

(事例)金利スワップの特例処理
〔前提条件〕
X1年7月1日に期間5年、6か月LIBORプラス0.5%で100,000の変動借入を行った。変動金利を固定金利に変換するため、6か月ごとにLIBORプラス0.5%の変動金利を受け取り、2%の固定金利を支払う、期間5年、想定元本100,000のスワップ契約を同日に締結した。借入金および金利スワップの利息は、いずれも後払いで6月30日と12月31日に支払われる。決算日は、3月31日である。また、それぞれの金利計算期間に適用されるLIBORは次のとおりであり、6か月ごとにリセットされて次の6か月に適用される金利水準が決定される(金利決定のタイミングは前決め)。

金利計算期間 LIBOR
X1年7月1日~X1年12月31日 1.25%
X2年1月1日~X2年6月30日 1.62%

上記の金利スワップおよび対象となっている借入金については、金利スワップの想定元本と借入金の元本金額が同一であり、金利の受払条件および満期も全く同一であることから、会社は金利スワップの特例処理を適用している。

金利指標改革に伴い、X2年7月1日より、変動借入が参照する金利はLIBORプラス0.5%からTORFプラス0.6%に変更された。一方、金利スワップはTONAプラス0.55%の変動金利を受け取り、2%の固定金利を支払う契約に変更された。いずれも、契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われたものとして、本実務対応報告の特例的な取扱いの適用対象と認められたものとする。

それぞれの金利計算期間に適用されるTORF及びTONAは次のとおりである。TORFの支払金利は6か月ごとにリセットされて次の6か月に適用される金利水準が決定される(金利決定のタイミングは前決め)。一方、TONAの支払金利は参照期間で日々少しずつ確定し、最終的な受払額が確定するのは金利計算期間の最後である(金利決定のタイミングは後決め)。そのため、TONAの金利は金利計算期間の最終日以後に通知される。

金利計算期間 TORF TONA
X2年7月1日~X2年12月31日 1.5% 2.2%
X3年1月1日~X3年6月30日 2.0%  1.7%


また、金利スワップについて、X3年3月31日時点で、今後発生するキャッシュ・フロー受払いの全額の割引現在価値をもって計算された公正価値(ダーティ・プライス)は123であり、既経過の期間に対応する利息受払いを除外して計算した値(クリーン・プライス)は73であったとする。

〔会計処理〕
特例処理により、金利スワップの受払の純額が借入金の利息に加減される。

利払日においては、実際の現金授受額に基づいて仕訳を行えばよいが、経過利息の算定が必要となる決算日の仕訳には、金利指標置換による影響が生じる。そのため、金利指標置換前後の決算日の仕訳を比較してみることとする。

(1)X2年3月31日(金利指標置換前の決算日)

(借方) (貸方)
支払利息 530 未払利息*1 530
未収利息 30 支払利息*2 30

借入金の支払利息及びスワップの変動利息に適用される金利は1.62%+0.5%=2.12%である。

*1 借入金未払利息:100,000×2.12%×3/12=530
*2 スワップ契約純支払額:100,000×(2.00%-2.12%)×3/12=△30

X2年1月1日からX2年3月31日までの支払利息の合計(スワップ契約の純受払額をネット後)は500となり、これはスワップ契約により借入金利息を2%の固定金利で算定した金額(100,000×2.00%×3/12=500)と同一となる。

(2)X3年3月31日(決算日)

(借方) (貸方)
支払利息 650 未払利息*1 650
未収利息 50 支払利息*2 50

借入金の支払利息に適用される金利は2.0%+0.6%=2.6%である。

スワップの変動利息に適用される金利は金利計算期間が終わるまで通知されないため、クリーン・プライスとダーティ・プライスの差額として既経過の期間に対応する金利スワップの受払の純額を算定する。

*1  借入金未払利息:100,000×2.6%×3/12=650
*2 スワップ契約純支払額:73(クリーン・プライス)-123(ダーティ・プライス)=△50

X3年1月1日からX3年3月31日までの支払利息の合計(スワップ契約の純受払額をネット後)は600となり、これはスワップ契約により借入金利息を2%の固定金利で算定した金額(100,000×2.00%×3/12=500)と異なる。

そのため、経過利息の計算は、単純に2%の固定金利であるかのようにみなして算定することはできず、借入金と金利スワップ契約のそれぞれの経過利息額を算定する必要がある。この数値例では、金利スワップについて、X3年3月31日時点におけるクリーン・プライスとダーティ・プライスが前提条件として与えられているが、これらは必ずしも金融機関から通知されるものではない。そのため、決算時にこれらの金額が入手できるか、できない場合に既経過の期間に対応する金利スワップの受払の純額をどのように算定するか、あらかじめ確認しておくことが望ましいと考えられる。

(2)借入金単独での処理

ここまでは、ヘッジ対象である借入金はTORF、ヘッジ手段であるデリバティブはTONAに置き換えられるケースをみてきたが、金利決定のタイミングが後決めの場合の経過利息の問題は借入金がTONAの場合にも発生する。デリバティブもTONAに置き換えられて特例処理を適用している限りは、借入金からの変動金利(払い)とデリバティブの変動金利(受け)との相殺が生じ経過利息の計算についての上記のような懸念は生じないであろう。一方で、借入金単独での処理にフォーカスすると、金利決定のタイミングが後決めとなる金利指標を参照している場合、経過利息として計上すべき金額を正しく算定するためには、決算日直前の金利支払日以降の毎日の金利を把握して日々の金利を積み上げて計算しなければならない。しかし、計算方法にもよるものの日々の1日当たり利息額を単純に加算するわけではなく金利計算は煩雑になるうえ、そもそも計算を行うためのデータを金融機関はともかく事業会社は持っていないことも考えられる。

本実務対応報告は、ヘッジ会計の適用を継続できるようにするための特例的な取扱いを定めているが、ヘッジ会計を適用していない場合であっても置換後の金利指標に係る金利決定のタイミングが後決めの場合には、このような実務上の問題があるということには注意する必要がある。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
マネジャー 公認会計士
新開 朋春(しんがい ともはる)

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