価値報告財団が統合的思考に関する原則のプロトタイプを公表
VRFが統合的思考に関する原則のプロトタイプを公表。長期的な価値創造に焦点を当て、取締役会や経営者による統合的思考の実践を促します。
VRFが統合的思考に関する原則のプロトタイプを公表。長期的な価値創造に焦点を当て、取締役会や経営者による統合的思考の実践を促します。
目次
価値報告財団が統合的思考に関する原則のプロトタイプを公表
2021年12月7日、価値報告財団(Value Reporting Foundation、 以下「VRF」)は統合的思考に関する原則のプロトタイプ 2021(Integrated Thinking Principle Prototype 2021、 以下「統合的思考に関する原則」)を公表しました。
統合的思考に関する原則の概要
統合的思考に関する原則は、企業とその主要なステークホルダーへの長期的な価値創造に焦点を当てた経営哲学を示すものとされており、そのため、取締役会、経営陣、上級管理職に参照されることを念頭に置いています。
ここでは、戦略の実行や長期的な価値創造の方法を説明する企業独自のメカニズムであるビジネスモデルを中核要素に据えており、それを取り巻く要素として、パーパス、戦略、リスクと機会、カルチャー、ガバナンス、パフォーマンスを挙げ、これらを6つの原則として取りまとめています。
統合的思考に関する原則の特徴
6つの各原則は、レベル1から3の3段階構成となっており、各レベルの想定する対象者を明示しています。レベル1は取締役会やCEOが統合的思考の組織への組込み状況を評価する際に参照するものを想定しています。レベル2と3は上級管理職向けとなっており、レベル2ではレベル1よりさらに踏み込んだ統合的思考実装の度合いを、レベル3ではプロセスレベルでの統合的思考の実装状況を評価する際に参照できるものとなっています。
統合的思考に関する原則は、VRFの国際統合報告フレームワークに根差したものであり、また6つの原則は、TCFD提言や、今後、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が策定する基準の構造と合致しているため、原則の適用から報告まで、整合的なアプローチで取り組むことが可能となっています。
統合的思考に関する原則 レベル1 - The principles
レベル1では、6つの原則ごとに、統合的思考が組織にどの程度効果的かつ有意義に組込まれているかを評価するための質問を提示しています。
レベル1 - 対象:取締役会、CEO、その他CFOなどのCxO |
パーパス | 私たちは、いかに独自の方法で社会のニーズに貢献しているか、そして我々はなぜ存在するのか。 |
戦略 | 私たちはどのようにして財政的収益を獲得しつつ、好機をつかみ、リスクを軽減し、製品やサービスを通じた顧客ニーズ充足のために利用できるリソースを最大化しているか。 |
リスクと機会 | 外部環境がビジネスモデル、オペレーション、戦略に与える影響をどのように評価しているか。逆に、ビジネスモデル、オペレーション、戦略が外部環境に与える影響をどう評価しているか。 |
カルチャー | 主要なステークホルダーをどのように特定しているか、それらのステークホルダーの信頼を獲得し、私たちのコアバリューを通してアクションに繋げるカルチャーをどのように醸成しているか。 |
ガバナンス | 取締役会は、企業とその主要なステークホルダーの価値創造にどのように示唆深い貢献をしているか。組織構造、部門横断的なチーム編成、意思決定プロセス、そしてリスクと機会の管理プロセスが、戦略の実行をどう支援しているか。 |
パフォーマンス | 投資家のために生み出した企業価値と、他の主要なステークホルダーのために生み出した価値をどのように測定し、コミュニケーションしているか。 |
統合的思考に関する原則 レベル2 - Assessment
レベル2では、6つの各原則について、レベル1の質問をさらに深めた内容を提示しています。 これらを参照することにより、組織における統合的思考の度合いが評価できるとされています。また、これらの内容に基づいた定期的な評価の実施が想定されています。
レベル2 - 対象:上級管理職 |
パーパス |
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戦略 |
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リスクと機会 |
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カルチャー |
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ガバナンス |
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パフォーマンス |
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統合的思考に関する原則 レベル3 - Operationalizing the Principles
レベル3は、レベル2をさらにドリルダウンした、統合的思考のプロセスレベルのメソドロジーであると位置付けられています。レベル3の深度で6つの各原則を実装・運用するには、複数の年月を要することが想定されているため、統合的思考の実装や運用の状況を年次で評価し、将来に向けた展開を検討する際のソースとして活用されることが期待されています。
レベル3 - 対象:上級管理職 |
パーパス |
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戦略 |
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リスクと機会 |
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カルチャー |
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ガバナンス |
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パフォーマンス |
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統合的思考に関する原則を利用することの意義
VRFは、統合的思考に関する原則を利用することの意義として、長期にわたる価値創造や、戦略の遂行、強固なコーポレートガバナンス、企業カルチャー、ひいてはパーパスの実現に不可欠な要素を理解し、必要なアクションへと繋げられることなどを挙げています。これにより、組織の意思決定が、価値創造により密接に結びつくものになり得るともされています。また、年次の統合報告プロセスと併せたアプローチを通じ、年間を通じて統合的思考を組織に組み込むことができるとも述べています。
今後の動き
統合的思考に関する原則は、2022年上半期の間、VRFのウェブサイトからダウンロード可能となっており、フィードバックも受け付けています。また、VRFは、2022年の第2四半期に、統合的思考に関する原則を最終化すると同時に、それらを補足し、組織の日常的なプロセスに組み込むための詳細なガイドを提供する予定であるとしています。
統合的思考に関する原則は、これまで統合報告フレームワークで触れられていた統合的思考が具体的にどのようなものであるかの理解を促すとともに、統合的思考を実践すべき主体が取締役会や経営層であることが改めて強調されたものとなっていると思われます。したがって、統合報告に取組む過程で、取締役会や経営層の積極的な関与を促し、より具体的なアクションに繋げるにあたって、大いに参考になるものと考えられます。
VRFによる今後の統合的思考に関する原則の最終化とガイダンスの提供が、各企業や組織における各原則の実践を促し、統合的思考と統合報告の好循環が、企業やステークホルダーにとっての価値向上に繋げられることが期待されます。
執筆者
KPMG サステナブルバリュー・ジャパン
有限責任あずさ監査法人
シニアマネジャー 橋本 純佳