社会的価値に貢献し、企業価値を創造するパーパスドリブン経営への進化

ー特別講演 遠藤俊英元金融庁長官が語る『企業価値の再定義と日本企業のこれから』今回は、パーパスドリブン経営を中心に、日本企業における改革の必要性、大切にすべきものなどについて、長らく金融行政に携わってきたKPMGジャパン遠藤俊英シニアアドバイザーに話を伺います。

パーパスドリブン経営を中心に、日本企業における改革の必要性、大切にすべきものなどについて、長らく金融行政に携わってきたKPMGジャパン遠藤俊英シニアアドバイザーに話を伺います。

SDGsの影響力が増大する中、企業に対しても社会的な存在意義を自覚した行動が期待されています。あらゆる組織や人が多様なステークホルダーとともに社会を構成しているとの認識が高まり、財務的価値のみならず社会的価値にも貢献しながら持続可能な価値を創造していくことが求められているのです。その結果、企業経営はかつてないほど複雑かつ難しいものとなっています。それゆえに、パーパスがより重要となってきます。パーパスは「なぜこの組織が存在するのか」を示すものであり、企業における一人ひとりの判断や意思決定の土台だからです。

今回は、パーパスドリブン経営を中心に、日本企業における改革の必要性、大切にすべきものなどについて、長らく金融行政に携わってこられた遠藤俊英氏にお話しをお伺いします。

※本記事は、企業のCEO、CFOなど執行の中枢を担う役員の皆様を対象として、2021年7月~8月にオンラインのオンデマンド配信をしました遠藤俊英 元金融庁長官、KPMGジャパン シニアアドバイザーによる「企業価値の再定義と日本企業のこれから」と題した特別講演を元に書き起こししています。

世界有数のグローバル企業も日本のローカル銀行も取り組むパーパスドリブン経営

最近、パーパスドリブン経営、あるいはパーパス経営ということがよく語られていますが、このパーパスを想起する時にいつも頭の中にあるのが米国ジョンソン・エンド・ジョンソン社の「我が信条(Our Credo)」 です。「我が信条」は、1943年に同社の第3代社長ロバート・ウッド・ジョンソンが作った経営理念です。

登壇者

遠藤 俊英
KPMGジャパン シニアアドバイザー

1982年東京大学法学部卒業、同年大蔵省入省。1984年英国(LSE)留学(経済学修士)、1988年広島国税局米子税務署長、1998年IMFアジア太平洋局審議役、財政局審議役を経て2002年金融庁証券取引等監視委員会特別調査課長。2005年監督局銀行第一課長、2007年総務企画局信用制度参事官を経て2008年検査局総務課長、2009年総務企画局総務課長、2010年監督局参事官、2011年監督局審議官、2013年総務企画局審議官、2014年金融庁検査局長、2015年金融庁監督局長、2018年7月金融庁長官、2020年7月金融庁顧問、2020年10月金融庁退任、2021年5月KPMG税理士法人の特別顧問、KPMGインターナショナル金融セクター及びKPMGジャパンのシニアアドバイザー就任(現任)。

この「我が信条」にはいくつかの特徴があります。第一の特徴は、順位をつけてステークホルダーを明確にしている点です。「第一の責任」は顧客。これは、患者や医者、看護師、そして母親や父親などに対する責任です。「第二の責任」は世界中で働く全社員に対して、「第三の責任」は我々が生活し、働いている地域社会、あるいは全世界の共同社会に対してです。そして、「第四の責任、そして最後の責任」に会社の株主に対する責任が出てきます。このように、ステークホルダーの中のファーストプライオリティに顧客を置いたこと。それが第二の特徴です。

また、「第三の責任」として地域社会や共同社会を強調していますが、これは今言われていわゆるCreating Shared Value(やCSV経営) に相通じるものではないかと思っています。そして、「第四の責任、そして最後の責任」の株主に関する箇所では、「将来に向けた投資がなされ、失敗は償わなければならない」「逆境の時に備えて蓄積を行わなければならない」と記述されており、長期的な視点が入っています。これも、特徴の1つではないかと思います。

このようにパーパスを明確にすることは非常に重要です。特に、自分たちにとってのステークホルダーが誰なのかを明確にし、それを会社組織として、あるいは会社の従業員として理解して、自分たちの企業活動に活かす。そのためには、組織としてパーパスをいかに具体化するか、組織としての仕掛け作りというものが必要ではないかと思います。

ここでは、もう1つ事例をご紹介します。さきほどのジョンソン・エンド・ジョンソン社はグローバル企業ですが、仕掛けづくりに対して長年にわたり議論している相手方として、ローカルな金融機関であるので、今度は国内の金融機関です。今回はローカルですが、  石川県の北國銀行 をご紹介します。この銀行は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を単に戦略に活用するだけでなく、テクノロジーを1つのテコとして人や組織を変革し、地域社会をより良い方向に変革し続けようとしています。

銀行そのものをデジタルで根本的に変え、パーパスを組織に徹底するために、同行は社風として、議論する組織風土、コラボレーションやデリゲーションを前提としたアジャイル型の組織を目指すとしています。そして、価値観や変革のエンジンとして顧客主義やカスタマージャーニー、人材、IT・デジタル化を挙げています。さらにその土台として、支援型リーダーシップや1on1ミーティングなどを活用した人事考課、協力しながら学習する組織ということを意識した業績評価の必要性を明記しています。ポイントは、すべての活動の前提として、職場環境の心理的安全性の確保が重要であるとしていることです。

パーパスは、その企業の存在意義を示すものとして営みに反映されなければならない

次に、パーパス経営について述べさせていただきたいと思います。 パーパス、バリュー、ミッション、ビジョンと、これまでもさまざまな概念が述べられてきましたが、パーパスはその中の一番上位の概念だと思っています。「なぜこの組織が存在するのか」 という、その存在意義を問うものです。また、パーパスが書かれたものをパーパスステートメントと言いますが、ここには 最低限、(1)企業の存在意義、(2)社会的な責任と自社の経済的な成果の獲得の調和に向けた施策、(3)長期的な価値向上に大きく影響するステークホルダーの特定、(4)ステークホルダーを特定した理由等についての明確な説明、(5)長期的戦略と持続的な価値向上を実現するための(資源配分の見極めにあたり、取締役が有意と考える)時間軸の認識、この5点を書くべきだと考えます。

この中で最も重要なのが(1)の「企業の存在意義」です。これは当然として(3)も重要です。典型例なのが、さきほどご紹介したジョンソン・エンド・ジョンソン社の「我が信条」です。また、(5)は長期的な時間軸の認識、設定を必要とするということで、大切ではないかと思います。

そして、パーパスステートメントについて誰が記すべきか。要するに、誰が作るのかということですが、これは当然ですが、取締役会 です。取締役会は企業のUltimate Authorityであり、企業の利益を代表し、これを作るための存在です。そのため、CEOの在任期間や、その企業のビジネスサイクルを超越した長期的視点を持つ必要があります。一方、どこに記すべき かはあまり重要ではありません。それよりも、取締役会の総意であること。これが何よりも重要です。

パーパスを実行に移す際に重要な点は、さきほどの北國銀行のようにシンプルかつ明確でなければならないことです。図表1にパーパスを実装するためのSCOREフレームワーク を示しますが、今の「シンプルかつ明確」が一番上のSIMPLIFYです。2つ目のCONNECTとは、パーパスが組織の戦略やキャピタルアロケーションに落とし込まれているということ。3つ目のOWNと5つ目のEXEMPLIFYはよく似た話で、オーナーシップを持つということと、上と下とのコミュニケーションやナラティブな戦略を通じてパーパスをチーム全員が意義あるものとして認識しているということです。日本語で言えば「腹落ちする」ですね。パーパスがより具体的なものとして、自分の行動として「こういうことをすべき」「こういうことはやったほうがいい」となること、自社のパーパスであるということを、社員一人ひとりが腹落ちしていることが重要ではないかと思います。そして4つ目のREWARDは、パーパス達成の進捗状況を測定するシステムを構築することです。測定というとよくKPIの話かと思われますが、そうではありません。単なる数字を期待したKPIではなく、また財務成果だけでもなく、非財務的成果も反映した形で社員、企業人一人ひとりの行動に反映するということです。非財務的なインセンティブと結び付けられることが重要であると思っています。

パーパスを実装するためのSCOREフレームワーク

パーパスを実装するためのSCOREフレームワーク

出典:Enacting Purpose Initiative (EPI) “Enaction purpose in modern corporation – A framework for boards of directors” 2020

次に、日本企業への示唆をお話します。最も重要なことは、パーパスを与えられた目的ではなく、「自らの目的」と認識することです。そのパーパスはさきほども申しましたように、企業のUltimate Authorityである取締役全員の署名によって作られるべきです。それは、取締役会には執行での展開を監督する責任があるからです。そして、存在意義というのは経済的価値だけでなく、社会的価値の実現も推進しなければいけません。

少し技術的なことになりますが、さまざまな報告書にパーパスを盛り込み、企業として一貫性のある説明につなげるようにする必要もあります。たとえば、中間報告などは「〇〇を実現するために我々がどういうことをやったのか」という「〇〇のための報告書」という位置付けで作成することが重要ではないかと思います。

また、「三方よし」と「ステークホルダー資本主義」の共通点と相違点を見極める必要もあります。2019年にアメリカのビジネスラウンドテーブルでステークホルダー資本主義が登場したとき、日本企業からは「昔から三方よしでやっている」という声が非常にたくさん上がりました。しかし、アメリカのステークホルダー資本主義と日本の三方よしは本当に同じだろうかと、当時、私は強い違和感を覚えました。日本企業はステークホルダー全体をバランスよくケアしようとしますが、そうやって「三方よし」という言葉に甘えているのではないかと。そうではなく、物事の順序をきちんとつけ、それぞれのステークホルダーのことを徹底的に考え、彼らのために何ができるのか。自分たちが何を行うのかを明確にし、それを着実に実行していくことが求められるのだと思います。

最後に、もう少し事例をご紹介しましょう。今度はスイスに本社があるネスレ社です。同社のパーパスは、「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」。それを実現するために、ネスレではCreating Shared Value、つまり、共通価値の創造を行っています。自分たちの重要なステークホルダーとして従業員、コミュニティ、株主、社会、環境を位置付けており、それらへの価値を創造することによって、長期的な成功を目指しています。

日本にも、組織としての存在価値を明確化して、それを維持・発展させるために大きな仕組みを作っている事例があります。伊勢神宮最大の神事である式年遷宮です。ご存知のように、式年遷宮は20年に一度宮処を改めて、社殿や装束、宝などすべてを新しくして大御神に新宮へお還りいただく伝統行事で、常若(いつまでも若々しい)を実現するために、1300年以上にわたり繰り返されてきました。この20年という時間軸は、必要な資材の調達、すなわち樹が育ち、木材の入手までに必要な時間を踏まえたものです。日本の文化、風土に根付いており、さらに循環系に配慮した負荷がかからない仕組みとなっており、グローバルに誇れるサステナビリティの事例と言えるでしょう。

これを経営に言い換えれば、組織にとって価値となる一番大切なものが明確に意識されており、それを基に維持・発展に適切な時間軸によって最適なサプライチェーンが構築されているということになります。

顧客本位の経営には、心理的安全性の確保が必要となる

パーパス、ステークホルダーの特定という中で顧客の話が出ましたが、私は金融庁時代、金融機関に対して顧客本意の業務運営ということを常に言ってきました。日本の金融機関は収益が圧迫されているということもあり、パーパス、ステークホルダーを意識するよりも、つい自社の収益のことを考えてしまう傾向があります。お客様のことを考えるというのが利他であれば、利己、つまり自分のことを考えてしまうのです。そのような対応は少し改めるべきではないかということで、金融庁時代には「顧客本位の業務運営」ということをいろいろと言ってきました。ただ、そういうことを言いながらも、「顧客本意の業務運営とは一体なんだろう」と、私自身考えてもいました。いろいろな資料を参考にし、自分なりに納得できる説明をしている本が2冊ほどありますので、ここでご紹介します。1冊は『逆説の法則』です(西成活裕著、2017年、新潮社)。著者の西成先生はこの本で、自分のことを考えるのは利己、お客様のことを考えるのは利他で、この2つは相反する概念だけれども紙一重であると言います。だから、経営を行う場合には少しだけ利己よりも利他を多くする。51:49で少しだけ利他が勝つ。

登壇者

オンラインイベントの様子

それが商売の鉄則であると述べています。また、企業経営では長期と短期をバランスよく併せ持ち、儲けを追うだけでなく社会的責任を持つこと、さらに永続性が重要だとも書いています。そして、その参考になるのは自然だというのです。自然は「準最適」「そこそこ」の世界であり、こういう「準最適」「そこそこ」の効率性こそ、変化に対して強いと言っています。

もう1冊は、ホールフーズというアメリカのスーパーマーケットを創業したジョン・マッキーが書いた『世界でいちばん大切にしたい会社(CONSIOUS CAPITALISM)』(野田稔解説、鈴木立哉訳、2014年、翔泳社)です。この本では、顧客について述べた部分が2つあります。ピーター・ドラッガーとアマゾンのジェフ・ベゾスによる指摘で、顧客は創造するものだけれども、同時にその存在は意識されにくいというものです。そこで、顧客の存在を意識させるために、ベゾスは会議に誰も座っていない椅子を用意させるようにしたそうです。これを読んで、ステークホルダーの中で第一に顧客を位置付けるという行為にとどまらず、常に顧客目線で見なければならないことを意識するために、ベゾスは会議で空の椅子を置くという手法を編み出したのではないかと、私は解釈しました。
それでは、顧客を第一に考える顧客本位の経営をしていくにはどうしたらいいのでしょうか。それは、経営理念を組織に徹底させることです。このテーマについて、実は金融庁時代に金融機関とよく議論しました。その際に用いたのが「心理的安全性の確保を意識した経営陣による闊達な議論」という概念図です(図表2参照)。これはいかにして、経営陣が作る明確な経営理念を現場に落とし込むかを示したものです。

心理的安全性の確保を意識した経営陣による闊達な議論

心理的安全性の確保を意識した経営陣による闊達な議論

こうした議論を行ったのは、経営理念を掲げながらも、現場に対してノルマ至上主義や心理的プレッシャー、不明確な指示を押し付けている実態があるからです。これでは、理念と行動が矛盾しています。そうではなく、現場の自主性や自立性を尊重し、経営理念をより具体的な形で、つまり腹落ちしたものとして現場が動けるようにすることが大切なのです。そういう中で現場が気づき得た考え方やアイデアを上と共有できるようにすべきですし、顧客視点の改善についても、下から上へのコミュニケーションとして行うべきではないかと考えます。こうした動きを支えるために必要とされるものがあります。それは「心理的安全性」です。どのような立場の社員でも、自分の気持ちや考えを気兼ねなく発言できる環境を作るべきということで、このタイトルなのです。

金融庁と金融機関の間もそうですが、金融機関と企業や顧客の間にも、心理的安全性は必要です。そして、こうした社風、経営を支えるのが、取締役会等によるガバナンスです。株式会社においてガバナンスは戦略の方向性を示し、実行的な規律付けを担います。ですから、適切な経営、パーパスドリブン経営を行うには、取締役会の役割が非常に重要なのです。

東京証券取引所の市場区分とコーポレートガバナンス・コード改革を、パーパスドリブン経営推進のきっかけに

2022年4月に東京証券取引所の市場区分が変わります。従来の「市場第一部」「市場第二部」「マザーズ」「JASDAQ」の4つの区分を、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つに再編成されることになっています。各市場のコンセプトの明確化とシンプルな基準の適用を目指してコーポレートガバナンス・コードを改革、それを基に新規上場基準と上場維持基準の原則共通化を図るのが目的です。私は、この市場区分の見直しは非常にいい機会だと思っています。それは、企業はパーパスをもう一度見直して、自分たちにとって大切なステークホルダーはいったい誰なのかということを改めて考えるべきだと思っているからです。この市場区分の見直しに関して、今まで通りグローバルな企業として持続可能性を確保しよう、海外の投資家もステークホルダーに数え、より高いガバナンスや収益を求めようとしている企業は、おそらくプライム市場に残りたいという話になるでしょう。

登壇者

オンラインイベントの様子

一方、自分たちにとって大切なステークホルダーは顧客であり、地域の共同体であるということならばスタンダード市場へ、という形になるかもしれません。コーポレートガバナンス・コードの基本的なところは押さえつつ、自分たちにとって大切なステークホルダーに対してコントリビュートしていこう、貢献していこう、という考え方も経営としてあると思います。

場合によっては、もっと狭まった、限定された株主に対して奉仕しようということであれば、上場をやめるという経営戦略ももちろんあります。今回のこの市場区分の見直しというのは、そういう意味で、経営をもう一度考える非常に重要な機会だと思っています。コーポレートガバナンス・コードの改革についてですが、もともとコーポレートガバナンス・コードは3年に一度、時代の要請に応じて修正することになっています。直近では2021年6月に改訂されました。皆さんもご存知のように、コーポレートガバナンス・コードは5つの基本原則があり、その下に原則、その下に技術的なことも含む40あまりの補充原則という三層構造になっています。今回の改訂でも、基本原則は不変です。

ここで、5つの基本原則を振り返ってみましょう。第一に「株主の権利・平等性の確保」、2番目が「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」です。コーポレートガバナンス・コード上では、株主以外のステークホルダーとして従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会を挙げ、彼らとの適切な協議、協働が進められるべきであると述べています。3つ目「適切な情報開示と透明性の確保」には、財務情報とともに経営課題、リスクやガバナンスにかかる情報などの非財務情報が重要だということを、4つ目「取締役会等の責務」には、取締役会、いわゆるボードの責務が述べられています。取締役会というのは、受託者責任、説明責任を踏まえて、企業戦略等の大きな方向性、リスクテイクを支える環境整備、それから実効性の高い監督を行うということですから、モニタリング・ボードとしての役割をきちんと踏まえなければならないとともに、経営をサポートするための役割も持つべきではないかということを言っています。最後は「株主との対話」です。上場会社というのは、株主との間で建設的な対話を行うべきであるということを述べています。

次に、今回の改訂のポイントについてです。ポイントは、大きく分けて「取締役会の機能発揮」「企業の中核人材の多様性の確保」「サステナビリティを巡る課題への取組み」「これら以外の主な課題」の4つあります。これらのうち、私は「取締役会の機能発揮」と「企業の中核人材の多様性の確保」「サステナビリティを巡る課題への取組み」が非常に重要だと思っています。

「取締役会の機能発揮」とは、独立社外取締役をどの程度確保するのかということです。それは、プライム市場では独立社外取締役を3分の1以上選任するということを求めているからです。ただ、独立社外取締役が取締役会の中の何%を占めるかというのは形式的な話にすぎません。パーパスを追求して、適切な議論でガバナンスをきかせた企業にしようとするならば、取締役会には多様な人材を入れる必要があります。ですから、ここでいう独立社外取締役とはコーポレートガバナンス・コードで設定された目標を達成するためのものではなく、それを超えて、何のためにより多くの独立社外取締役に取締役会に入ってもらって議論を求めるのか、ということを考えていくべきではないかと思います。

そして「企業の中核人材の多様性の確保」とは、執行側、つまり管理職における多様性の確保を指しています。具体的には、女性、外国人、中途採用者の登用を考えるべきということです。今の時代、企業経営をしていくにはさまざまな顧客、さまざまなセクターの需要を的確に把握する必要があります。そういった社会の流れ、社会の動きを執行側が感度よく把握できなければ、経営はずれていってしまうでしょう。適切な経営判断を担保するためには、管理職における多様性の確保が求められるのです。これは実態として、日本企業では役職が上がるほど女性の割合が低くなるというデータがあるからです。これも、単に数字として外形を整えればいいという話ではありません。ビジネスが世の中の流れに遅れないようにする、あるいは世の中の流れをむしろリードするような形でビジネスをしていくために、執行役の中のダイバーシティを十分確保しなければいけないということです。そういう問題意識に基づいて、企業の中核人材の多様性を確保していくということが重要ではないかというふうに思います。

組織を1つにするための土台となる、「綺麗事」のパーパスを追求する

今日は、パーパスを中心にお話させていただきました。パーパスは非常に重要ですが、その反面、やや綺麗事に聞こえます。組織の人に言わせると、「パーパスは綺麗事だから」と社員が白けてしまい、同じ方向性を向いて頑張っていこう、お客様に対する価値を上げていこうという活動にならないそうです。

でも、私は、綺麗事でいいと思っています。その、一見綺麗事に聞こえるパーパスを、自分がどういう活動をすることがこのパーパスの具体化につながるのかということを常に考えながら活動する。そういう企業の人たちと話をしていると、これはなかなかすごい会社だなと思うのです。それは、やはりパーパスが起点になっているからです。確かに、パーパスは一見綺麗事に見えるかもしれません。でも、生真面目にその綺麗事のパーパスを追求していくことがきっと重要なのです。

そのパーパスですが、ストーリーで伝えることが重要です。朝の朝礼で100回唱えても、言葉だけではパーパスは腹落ちしません。だから、「このパーパスを、こういう形で、お客様との間にこういうストーリーを生み出しました」が必要なのです。そうすると、シェアしようという動きにつながります。具体的にわかる、具体的に腹落ちするストーリーというのは、パーパスというものを理解させていく、普及させていくために重要ではないかと思います。