「コロナ時代のBCP」第10回。テクノロジーの進化により、民間企業の社会的役割は大きくなりつつあります。民間企業と国や自治体が連携して自然災害や感染症などに備えることが重要です。今回は、デジタル技術を活用した防災対策について解説します。
本連載は、日経産業新聞(2021年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
 

テクノロジーの進化を受け、民間企業の社会的役割が大きくなっている。全国で進むスマートシティの取組みもその1つだ。内閣府による「スーパーシティ構想」では自治体と企業がデータを連携し、市民生活の質を高めることを目指している。スマートシティで市民生活のベースとなる安全安心をどう確保するか。BCP(事業継続計画)という一企業の取組みにとどまらず、民間企業と国や自治体が連携して自然災害や感染症などに備える必要がある。

公開情報をもとにKPMGが集計したところ、全国で184を超えるスマートシティ計画が策定、推進されている(2021年4月執筆時点)。うち、防災関連の領域を含むものは全体の18%と、スマートシティの重要な要素となっている。
これらの内容をみると、多くの計画で「レジリエンス(回復力)」「データ」「広域連携」がキーワードとなっている。ところが実際はセンサーを活用した水位検知、アプリ・メールなどを通じた住民への情報提供など、従来の防災情報発信をデジタル化する取組みにとどまっているものが多い。

最新のデジタル技術を活用した新しいソリューション(解決策)を導入した事例もあるものの、想定をこえる激甚災害発生時にその機能を十分には発揮できないケースも増えている。導入の前提やシミュレーションが適切でなかったのか、投資内容・規模が適切でなかったのかは別として、いわゆるビッグデータを含む精緻で多様なデータに基づく検討と、適切な投資が行われていれば、これらの事態を回避できた可能性がある。
防災ソリューションは主として大規模な自然災害を想定したものが多い。また、2020年以前に計画されたものが多く、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような事態は想定していない。このため、コロナ禍が収束しないうちに、大規模な災害、広域での災害が発生した場合には、十分には機能を発揮できない可能性が考えられる。

では、どうすればよいのか。たとえば、密を避ける避難計画と避難誘導・避難所の確保、新型コロナ患者と災害傷病者の混在に対応できる柔軟な医療体制の構築・運用などの追加対策が求められる。その結果さらなる投資も必要になる。

以上を考慮すれば、防災面でも今後一段とスマートシティの基盤となるデータの利活用が重要性を増す。まずは高機能カメラやセンサーなどによるデータ収集、収集したデータやデジタル地図情報の人工知能(AI)による解析、それを基にしたたとえば地震であれば「100年に一度の揺れ」といった災害に関する適切な前提の設定、リスクを考慮した精緻なシミュレーションなどが重要となる。

そうした詳細な解析を踏まえ、災害時だけでなく、平時の都市機能の維持管理、防犯・医療、交通管理にも役立つ防災対策を立案。最大どんな被害が起きうるかを想定したうえで、必要なエリアに過剰でない適切な額の投資がなされるよう、スマートシティに取り組む企業と国・自治体が協力して意思決定することが急務である。
 

デジタルを活用した防災対策例

平常時 状況の監視、災害時のシミュレーション・予測、ハザード(災害)情報の提供など
災害時初動 逃げ遅れの検知、被害状況の把握、災害状況の通知、避難・誘導の指示など
復旧・復興 避難状況や物資備蓄情報などの管理、復旧状況の通知、避難所・被災者の支援など

執筆者

KPMGコンサルティング パートナー 馬場 功一

日経産業新聞 2021年4月30日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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