ライフサイエンス業界は変化し続けています。各企業は、規制要件の相次ぐ変更や患者データの使用制限の可能性、支払者との関係の変化、グローバル市場での激しい競争、ならびに、製品価値を証明する価格設定に対する圧力への対応に直面しています。これらの変化のすべてが、リスクとチャンスの両方をもたらしており、リスクとチャンスの要因の微妙な境界線を見極めることが重要です。

ポイント

  • ライフサイエンス業界のさまざまな変化はチャンスをもたらす一方でリスクももたらしており、そのリスクに適切な対応を行わない場合、評判の毀損や法定上の罰金、刑事責任などを被る可能性がある。
  • ライフサイエンス企業が考慮すべき10のリスク領域においては、その領域の政治的・制度的な監視や、各規制により厳格に実行されており、ライフサイエンス企業は無数の課題に直面しています。

価格設定

各国政府は、医療費の削減に関する大きな圧力に晒されています。医薬品の価格設定に関する政治的・制度的な監視は、米国では依然として厳格に実行されており、EUや中国などの市場では価格設定リスクが高まっています。規制当局は、便乗値上げや専門医薬品の価格設定、クーポンおよび支援制度を常に監視し、継続的に精査しています。米国政府の価格設定制度は、技術的に高度で、かつ、本質的に複雑であるだけではなく、期待値が変化し続けており、当局の指針が不明瞭なことも多く、時には矛盾も生じています。また、取引のデータセットは拡大し続けており、計算の正確性に対する期待も高くなっています。

患者支援制度

患者支援制度(PSP)は、その焦点をアドヒアランス(服薬の遵守)から、給付金の確認、保険相談、訴訟支援、予約の調整とリマインダー、経済的支援(無料または割引薬)、疾病に関する教育とリソース、患者のカウンセリング、患者への調査、報酬制度および医薬品補給の再確認など、その他のサービスへと拡大しました。一方で、患者や患者データ、それに関連する意思決定プロセスへ接触する機会が増えることによって、潜在的なデータの不正使用やコンプライアンス違反の可能性が発生しています。各企業が慎重に対処しない場合は、反キックバック法や政府の価格設定規制に違反するリスクを冒すことになってしまいます。

一般データ保護規制

新興技術とビッグデータは、患者データの保護とデータプライバシーに係る適切なガバナンスモデルの適用について、課題とリスクをもたらしています。これらのリスクに対応するために、EUでは状況を大きく変化させる規制として「一般データ保護規則(GDPR)」が導入されました。GDPRは、企業がEUで事業を展開し、商品またはサービスをEU域内の居住者に提供し、その行動をモニタリングしている場合に適用されるため、グローバルに事業を展開している多くのライフサイエンス企業に適用されます。企業がそのルールを導入する際には、自社がクラウドやコグニティブ、IoTなどの新興技術によって個人データを収集し調査する可能性があるかなど、さまざまなGDPR特有の課題に直面することになるでしょう。

サードパーティ

多くの場合、ライフサイエンス企業には、創薬・開発、製造・供給、販売・マーケティング、ならびに運用・経営サポートなど、何千ものサードパーティに依存している機能があります。複数の機能にわたり、かつ、膨大な数であるため、サードパーティについて把握することが難しくなっています。適切にリスクを評価し、サードパーティのコンプライアンスをモニタリングできない場合、企業は評判の毀損や事業の中断、経済的な損失、法定上の罰金のほか、ひどい場合には刑事責任も被ることになります。

贈収賄および汚職防止

国際的な規制協力の実効性が増したことにより、贈収賄および汚職防止(ABC)に係る法制化と施行が世界中で増え続けています。贈収賄および汚職は、製品の開発、販売およびマーケティング、製造ならびに物流といったライフサイクルを通じて、政府関係者への依存という規制業界の特徴に起因する、ライフサイエンス業界の主要なリスク領域となっています。企業は、収賄防止に関する潜在的な問題を積極的に特定し、適時に改善策に着手する強固なコンプライアンスプログラムを整備している姿勢を示すことが重要です。このコンプライアンスプログラムには、経営層からのサポートや明確なポリシー、トレーニング、モニタリングを組み込む必要があります。

サイバーセキュリティの脅威

を辿っています。ライフサイエンス企業は結果として壊滅的な影響(例:知的財産の損失、治験内容を裏付けるデータ品質の低下)を被る可能性があるため、油断することはとても危険であると認識するべきです。国家的な組織がサイバー攻撃の攻撃元である可能性が高い現在においては※1、知的財産や研究開発データへの注目が強まっており、イノベーションを促進することを目的に、他社との提携関係やデータ交換を促進しているライフサイエンスのような業界は、危機に晒されています。

※1 2017 KPMG/Forbes Insights Cyber-Security Survey

ソーシャルメディアとデジタルマーケティング

FDAは2014年、インタラクティブなメディアのプラットフォームに投稿してシェアされた市販後の販促資料に関するFDAへの提出方法に影響を及ぼす要求事項など、ソーシャルメディアの利用に関する製造業者向けのガイドラインを公表しました※2。このガイドラインは、コミュニケーションのチャネルや文字数の制限に関わらず、医薬品情報は真実に基づき明白な方法で表示されるという期待を強化するものになっています。さらに、このガイドラインは、インターネット(例:ブログ、ソーシャルメディア)に投稿された誤った情報の修正についても示しています。これらの課題のすべては、オンラインコミュニケーションをサポートする運用プロセスにおいて考慮される必要があります。

※2 2014 FDA Draft Guidance for Industry: Internet/Social Media Platforms.

シリアライゼーション

ライフサイエンス企業は、サプライチェーンに対する世界的なシリアライゼーション(製品に対する個別のシリアル番号の割当て)規制に取り組んでいます。これらの規制は、サプライチェーン全体の製品の完全性に関して高まる懸念、偽造リスク、不正請求の抑制に対するニーズに応えるものです。シリアライゼーション規制の適用に向けて、各国特有の準備状況やマスターデータ管理、包材の変更管理、国内の梱包拠点と契約製造業者の準備状況、ならびに、達成後の法令遵守の持続可能性など、ライフサイエンス企業に複雑な課題が生じています。適切な措置を講じず、米国における医薬品サプライチェーン安全保障法(DSCSA)などの要件を遵守できない場合、サプライチェーンの混乱や財務上の損失、評判の毀損につながる可能性があります。

オピオイド

2015年、米国史上最悪の薬物危機と見なされるオピオイド(麻薬性鎮痛薬)の蔓延は、それ以降も、50歳未満の米国人の薬物過剰摂取という主な死因となっており、またそのうち3分の2がオピオイドによるものです※3。製造業者や卸売業者、販売業者は、ますます監視下に置かれ、無責任なマーケティング活動や市場への過剰供給に対応できなかったことに対する訴訟の可能性に直面しています。

※3 American Society of Addiction Medicine report.

会計基準

2018年から、新収益基準の導入とともに新しい会計基準が次々と導入されています。新基準は、高度な専門性を必要とし、期待を大幅に変えるものです。また、明確なガイダンスがないため、経営者による解釈と判断を多いに要します。新収益認識基準は、多種多様な顧客との契約上の取決め、とりわけライフサイエンス企業にとっては特に重要なライセンスと提携関係が課題となっています。新しいリース会計規則は、借り手に対し、リース料をオペレーティングリースではなく貸借対照表に認識するよう規定しています。この新しい基準によって、残存リース債務を反映する使用権資産とリース負債を貸借対照表上にグロスアップする必要があります。企業は、各期に必要な償却とともにすべてのリースを追跡するシステムが必要になるでしょう。またライフサイエンス企業におけるコンプライアンスコストは過去10年間にわたり巨額な投資をしている一方、複数のコンプライアンス機能により、重複及び非効率な部分が多くあります。効率的・持続可能な投資利益率を最大化すべく、コンプライアンスの保証の機能と活動範囲が、運用上のシナジーと機会に繋がるよう、より適切に全体像を捉えることがその第一歩となります。
 

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