KPMG Ignition Tokyo内に組織された「KIT Lab」は、最新技術情報を常にモニタリングし、次世代技術のビジネスラインへの適用と商用化加速への検証を進めるR&Dチームです。セキュアコンピューティング、ナレッジプロセッシング、インテリジェントエージェント、サイエンティフィックビジュアライゼーション、スマートトランザクション、エッジコンピューティング&IoTの6つの注力分野を設定し、KPMGジャパンのDXを支援するための様々なソリューションの硏究や開発を行っています。

本稿では、KIT Labのメンバーが「ニューテクノロジーは10年後の企業経営にどのように影響するか?」を妄想・空想した内容をお伝えします。

※記事中の所属・役職などは、記事公開当時のものです。

セキュアコンピューティングは企業と外部との「コラボレーション」を後押しする

KPMG Ignition Tokyoのサービス提供領域

株式会社KPMG Ignition Tokyoが提供する6つのサービス領域

茶谷:            今日はKIT Labの中核を担うみなさんと、「10年後の企業経営」というお題で話していきたいと思います。まずはみなさんの専門領域において、10年後にその技術が企業経営に及ぼす影響がどのようなものになると見ているか、聞かせてください。

豊田:            私はセキュアコンピューティング、中でも秘密計算やブロックチェーン等がどう影響するか、考えてみました。

まず前提として、これからどんどん企業間の新しいコラボレーションが進んでいくと見ています。それというのも、この数年、企業は保有する資産を必要最低限にするという戦略を取っていますが、これがより一般化すると考えられるからです。製造業でも実際の製造はサプライヤーに任せ、いわゆるメーカーはブランドの価値を高めることに特化していく、というわけです。

そうなれば、ブランド同士のコラボレーションによってさらに価値を高めようと、各企業が自社のスコープを超えたコラボレーションをどんどん広げていきます。そうした環境では、秘密計算やブロックチェーンが必要とされると考えています。

現在、企業間のコラボレーションを行なうにあたって障壁となっているのは、プライバシー保護やデータ保護、競合相手に漏れ伝わると問題になるような守秘義務の対象となるデータを自由に共有できない、ということです。

これに対し、秘密計算の技術を用いれば、お互いの秘匿すべきデータをまるでオブラートでぐるぐる巻きにして、それを溶かないまま組み合わせて集計したり、ベンチマークの計算ができるようになります。これはエコシステムへの非常に大きな貢献となるはずです。

ブロックチェーンについては、この技術自体が非常に“反骨的”なテクノロジーであり、いわゆる中央集権的な考え方と対峙するものだと言えます。ひとつのコアに依拠するのではなく、まるでアリ一匹ずつがそれぞれ目的と役割を理解して巣を作るように集団がコーディネートされていくようなイメージです。その動きがビジネスの世界でもトレンドになろうとしていて、今後の展開がとても楽しみです。

茶谷:            秘密計算についてはサステナビリティ領域での使用が加速しそうですね。統合報告書などは自社が持っている情報だけでなく、サプライチェーンを含む他社が持っている情報や自社の従業員に関係する様々な情報をレポートに反映させることになるため、ある程度暗号化された状態で分散情報を集める必要も出てくるはずです。

管理されたスタティックな関係性がどんどん分散化され、流動性の高いプレーヤーがダイナミックに活動するような組織やビジネスであればあるほど、集約型のデータベースでは使い勝手が悪くなると見通せます。そうした場面では分散データベースとしてのブロックチェーンは非常に価値があり、今後のデジタル化の大きな柱になりそうですね。

ナレッジプロセッシングによって企業に「不連続な変化」をもたらす

茶谷:            次はナレッジプロセッシングについて。この先10年に対して、企業経営やデジタル技術領域にどのようなインパクトを与えると見ていますか?

千葉:            ナレッジプロセッシングを担当していて思うのは、定型の業務から順に自動化されていった先には企業経営や企業戦略の策定の自動化もあり得るのだろう、ということです。

例えば、航空会社のチェックインカウンターがキオスクに変わったというレベルから、最近ではクリエイティブな分野でもすでに機械学習やディープラーニングを使った自動化が進んでいます。楽曲生成や小説の文章生成も可能になっているほどです。

そうしたこともあり、企業経営や企業戦略についても、「このパターンならこう」という道筋がデータの中から見出され、提案するようなシステムが生まれてくるのではないか、と考えています。その中で人間がどういう役割を持つのか、ここが重要になってきそうですね。

 KIT Lab メンバー

KIT Lab メンバー

やはり、コンピューターがカバーできないこと、例えば「前例がないもの」や統計情報に基づいて考えて答えが出せない「直感に頼る判断が必要な場面」は、様々なアナロジーを使える人間の方が得意なのだと思います。「こういうパターンってひょっとして過去にもあったかも」というような、機械が思い浮かばない発想は人間ならではだと言えます。

茶谷:            今、作曲AIの話が出てきましたが、私はあれにちょっと“不満”を感じています。例えば、モーツァルトの曲のデータも含めて学習させてモーツァルトのような楽曲を生み出す、というのは“編集作業”だと感じます。モーツァルトが生まれる前の時代にできた楽曲を学習して、それでもモーツァルトのような曲が生まれたなら、それは初めてクリエイティブだと思うのです。これは、モネやピカソの絵画しかり、何かのスポーツから派生したスポーツしかり、です。

この楽曲や絵画などがクリエイトされる過程には機械学習のブレイクスルーがあるように思います。

千葉:            確かに、モーツァルトであれば、形式ばった古典派に窮屈さを感じた人がロマン派を生み出したという過程や、決まり切ったものに飽きて新たな何かを生み出した、というのが面白さであり、現状ではやはり人間の方が得意としているところですよね。

茶谷:            ある意味での異常変化というか、不連続な変化をAIが作る、というのは面白いでしょうし、それが起こることを楽しみにしています。千葉さんの担当であるKIT Labのナレッジプロセッシングから出るといいな、と期待しています。

インテリジェントエージェントは「社会における企業のあり方」を変える

豊田

KIT Lab Secure Computing ・Intelligent Agent リードディレクター 豊田 雅丈

茶谷:            次はインテリジェントエージェントについての話も聞いてみたいと思います。豊田さんの担当領域ですね。

豊田:            KIT Labのインテリジェントエージェント領域では、ある特定の分野において集約された情報知識をもとに、人間との自然な対話を可能とする知的感覚を有するエージェントの研究を行なっています。すでにチャットボットがコールセンターに実装されているので、もう身近なテクノロジーです。

では、次は何が出てくるかというと、やはりアバターではないでしょうか。やはりアバターのような人間の顔で応対してくれると安心するものです。文字でのコミュニケーションを超えたより速いコミュニケーションが次のステージになると思います。文章を書かなくてもアバターがすべてを汲み取ってすぐに応答する、という動きはすでに起き始めています。

それが実装されるのが2〜3年後だとすると、10年も経てばデジタルツインな仮想空間に自分のレプリカである“デジタルme”を登場させ、自分の代わりに仕事をしてもらう、というパラダイムが起きるのではないか、と想像しています。

完全にそうはならなくとも、仮想空間と現実空間とのフュージョンが相当に加速していき、働き方ひいては社会における企業のあり方が変化していくと考えています。特に、コロナ禍や在宅でのテレワークが生産性を向上させたという事実は、そうした動きを後押しするはずです。

そのような環境では、先ほど話したセキュアコンピューティングによる秘密計算や暗号化の技術で情報のやり取りを活発化させ、企業のコラボレーションを促したり、情報により交換価値を見出すマーケットが形成されていくのではないかと思っています。

茶谷:            インテリジェントエージェントについて考えた時、人間よりも明らかに優れていると思うことがいくつかあります。

一番に思い浮かぶのは「へこたれないで挑戦し続ける」ということです。電源供給さえし続ければ、精神的に強い負担を感じることもない、というのは特筆すべき点でしょう。このことは様々な社会課題、例えばソーシャルメディアをはじめとするweb上のネガテイブなコンテンツのスクリーニングなど、「人間がやらない方がいい作業」を代替できる可能性に繋がるのではないかと見ています。

もうひとつは、選択的にモノを忘れることができる、という点です。特定の知識だけを抜いて、再インストールしたりリブートすることによって、新しい記憶体系に書き換えることができるため、例えば監査や税務に関する法令の変化に対応しやすく、「来年の4月1日から適用される」というようなあるタイミングで切り替わる事柄にも対応し、間違えることがありません。

そう考えると、監査や会計の業務をコンピューターがサポートすることも実現可能ですね。

サイエンティフィックビジュアライゼーションによって企業は「より精緻な予測」が可能に

茶谷:            サイエンティフィックビジュアライゼーションの領域も変化に富んでいます。これが企業経営に与えるインパクトは広範囲になりそうですね。

千葉:            そうですね。私が普段考えているのは2つの点です。

ひとつ目に挙げられるのは没入感です。最近、大画面やVR、ARといった様々なディスプレイが使われるようになっており、今後も没入感が高いディスプレイは開発されていくでしょう。それをどのように企業経営の場で活用してくか、興味があります。

もうひとつはデータのリアルタイム性についてです。例えば、アップルウォッチを用いれば自分の健康状態をリアルタイムに測定し、把握できます。これを時々刻々と変わる企業の経営状態の把握に応用すれば、四半期ベースでまとめられる財務諸表が現在抱えているタイムラグの問題を解決できるかもしれません。また、そのデータを財務諸表としてだけでなく、多角的にVRデバイスを使いながら見られれば、様々なインサイトが得られると期待できます。

千葉

KIT Lab Knowledge Processing・ Scientific Visualization・Edge Computing & IoT シニアマネージャー 千葉 直樹

茶谷:            その発想の延長線上には、ある企業のデジタルツインを作ってシミュレーターに乗せて成長の様子を観察する、ということもあると思います。今までは売り上げや利益といったある意味で抽象化された情報だけで企業成長をシミュレーションしていましたが、より精緻な予測ができるようになると見ています。

これまでも発想としてはあったものの、いよいよそれが実現できるだけのデータ空間や計算能力が持てるようになったので、例えば経営会議の場ではいくつかのシナリオに対する未来予想を見ながら意思決定に役立てることもできそうですね。

ただ、シミュレーターには注意すべき点があって、モックアップが単に等倍であっても、同じ雰囲気の中で見えなければ見るべきものが見えない、ということにもなりかねません。ビジュアライゼーションは非常に重宝されていますが、実際の物流やビジネスの動きをビジュアライズして見られるようにならなければ経営指標は見出せないと考えます。そして、それに資するビジュアライズのためにはデータが不可欠であり、それを集めるにはブロックチェーンによる改ざん防止や秘密計算、暗号化の技術も欠かせないと見ています。

豊田:            やっぱりRubbish In, Rubbish Out(意味のないデータは意味のない結果にしかならない) ですからね。

千葉:            そうしたこれまでにない複雑で高度なビジュアライズを可能にするデバイスも急激な進化の過程にあります。この切り口からも、ビジュアライゼーションの世界は変わっていくだろうと見ています。

スマートトランザクションが「リアルタイム経営」を実現する

宮部

KIT Lab Smart Transaction シニアサイエンティスト 宮部 俊吾

茶谷:            では、スマートトランザクションが今後10年に与える影響についても話を聞いてみましょう。宮部さん、いかがでしょうか?

宮部:            2つ、重要な鍵があると思っています。ひとつはレギュレーションです。現在は監査法人や銀行などがデータを厳重に保管しており、シェアすることはできませんが、近年の金融犯罪や不正会計を見ていると、あるデータベース内でひとつの会社の取引データを見ていても疑わしい取引の動きを見つけられないケースが多くなっています。

だからこそ、セキュアコンピューティングの領域の技術を用いてデータを相互にシェアし、透明性を担保できる環境を整える必要があると考えます。そのためには難しいことではありますが、レギュレーションの改正は不可避でしょう。おそらく10年後くらいには問題がクリアされ、リアルタイムでの不正検知なども可能になると見ています。

もうひとつはやはり技術的な部分で、私が担当している量子コンピューティングの領域ではQビット数がどんどん上がっているので、10年後にはパラダイムを変えるようなコンピューティングのプラットフォームを使って、極めてセキュアな状態でリアルタイムに監査ができるようになるのではないかと思っています。

茶谷:            リアルタイム性が出てくると、今のように期が締まってから監査や税務が入る、という姿も変わるでしょう。期が締まった瞬間にそれらが完了している、ということも可能になりそうですね。

宮部:            そうですね。また、それを行なうプロセス自体も変わると考えます。誰かがデータを集めて監査や税務の担当者に渡す、という流れから、リアルタイムにアップロードされたデータを見ながら対応する、というようになるでしょう。そうなると、やはり経営プロセスもどんどん変わってくるはずです。

ただ、技術は加速度的に進んでいくのですが、レギュレーションがそれと同様に変化するかどうか? この点は今後のチャレンジだと感じています。

エッジコンピューティングとIoTは「会社のオートマチック性」を高める

茶谷:            では、最後の柱であるエッジコンピューティングとIoTについて。これが企業経営に与える影響も大きいと思うのですが、千葉さんはどのように見ていますか?

千葉:            エッジコンピューティングとIoTでは、ネットワークもエッジデバイスも両方が進化すると見ています。そうなると、それぞれのケイパビリティが広がる中でどうバランスを取るのか、という問題になってくると思います。

どこで何を計算してどう配置するのがシステムにとって最もコスト効率が良いか、あるいはパフォーマンスに好影響となるのか、実際にやってみないと分からないことも多々あります。今までできなかったようなことができるようになる、というケースはあると見ています。

この10年でも様々な実証実験が行なわれてきましたが、今日ではデバイスリッチでネットワークに繋ぐことも、超低コストでネットに繋ぐことも実現しています。これからは「構想を描いて、実際に使ってみて…」、というのを繰り返すことになるでしょう。そして、10年後には意識しないところで色々なものが使われるようになると考えます。

茶谷

株式会社KPMG Ignition Tokyo 代表取締役社長兼CEO、KPMGジャパンCDO 茶谷 公之

茶谷:            例えば、海外では街中に監視カメラが設置され、犯罪抑止や犯人の早期逮捕に繋げるように画像データを活用するケースがあります。そうしたデバイスも以前はリモコンで操作していましたが、最近ではソフトウェアを介してデバイス上で完結できるようになりました。やはりデバイスがどんどん豊富になってきているから、それを使ったアプリケーションもより広まっていると感じます。

ただ、多くの人がセンシングデバイスを持ち始め、警察権力の仕事だったことを“担える”ようになったことで、映像やデータそのものの正当性が問題視されるようにもなっています。いわゆるフェイクを作ることはそれほど難しいことではないですからね。そのあたりは今後の課題だと感じます。

一方、最近のデバイスはBluetoothを活用してコントロールできるようになっているので、いちいちスイッチを押す、という行為を踏まなくてもよくなっています。これが進化すると、会社全体がもっとオートマチックになっていくのかもしれないですね。

6つの技術領域の次は「モビリティーとロボティクス」

タン

KIT Lab Lab Engineering シニアマネージャー マウン・タン

茶谷:            マウン・タンには、6つの技術領域の様々な要素を構成するエンジニアリングを担当してもらっています。その立場から見たとき、10年後の企業経営はどうなっていると思いますか?

タン:            10年後には、テクノロジーは増え続けるデータ量の観点からさらに進歩すると見ています。では、それをどう商用化していくか? KIT Labのフレームワークは、商用化のための研究開発を形作っているもので、パイプラインのようなものです。これによって柔軟かつ簡単に実験できるようになれば、異なるテクノロジー同士を組み合わせることができ、最も適したソリューションや、EIモデル(感情知能)の予測可能性レベルを特定することができます。

データに関しては、どのようにデータの新しさを見つけるか、そして、どのデータが活用でき、価値を生み出すのか? という問題が挙げられます。我々には6つの技術領域がありますが、異なるテクノロジー同士を組み合わせて新たなプロダクトを作ることができるのか? という問いに向き合うことになります。おそらく、これらのテクノロジーを繋げる“何か”があれば可能でしょう。いかに異なるサービスを組み合わせて新しいものやイノベーションを生み出せるかということです。

茶谷:            では、エンジニアの観点から6つの技術領域を見て、7つ目のテクノロジーを加えるとしたら何がいいと思いますか?

タン:            千葉さんも指摘されていましたが、10年後にはAIと人間が一緒に働くような、バーチャルで没入感のある環境が当たり前になると考えています。そうした中で必要とされる新たな技術は、消費者の行動を理解し、学んでいくというものがいいのではないでしょうか?以前はHuman Computing Interaction(HCI)と呼ばれていたものですが、もっとヒューマンインテリジェントなテクノロジーが相互作用するようなものだと思います。それは面白い領域になるはずです。

茶谷:            なるほど。私の考えでは、モビリティーとロボティクスが7つ目の領域にマッチすると見ています。今の6つの領域を考えた時にはまだ時期尚早だと思いましたが、次の段階では可能だと思います。例えば、監査人が実証性確認のためにフィジカルに目録や不動産の存在を調べなければならない場合がありますが、その現場にロボットが代行して調べる、という活用方法についての研究と開発です。

タン:            良いポイントですね。ロボットをリモート監査に応用するのはもちろん、彼らにカメラやペンを持たせてオフィスを歩かせたり、アバターやエージェントを入れて、オフィスにいる人に聞き取りをしてもいいし、情報を集めてきて監査人に渡すこともできますね。興味深い活用方法だと思います。

茶谷:            すでにカメラをつけたドローンを使った監査ができないか、というリクエストがくることもあります。ロボットであれば、何度も現地へ赴いて調査が必要な場所に“自主的に”動くことができるはずです。

タン:            そうなれば、我々のロボットは監査人の相棒的存在になりますね。内部監査でミーティングや会話に参加して情報を集めることも可能かもしれません。

10年後の企業経営の姿は「妄想」からはじまる

茶谷:            KIT Labでは、先進デジタル技術の融合もひとつのテーマになっています。そこで、領域を横断して10年後のテクノロジーがどう企業経営を変えるか、というアイディアも聞いてみたいと思います。みなさん、いかがでしょうか?

宮部:            私のもともとの専門分野で、第一原理計算というものがあります。扱える原子の数は少なく、正確な答えを出せるのはハイドロゲンアトムくらいだと言われています。しかし、量子コンピューティングが進化すれば、複雑なタンパク質などでも計算可能になるかもしれません。そうなれば、将来的にはヒトの全身の構成物質も計算可能になると考えられます。この考え方を少し広げてみると、世界のシミュレーションもできるかもしれませんし、いわゆる企業DNAも計算可能になるかもしれません。

茶谷:            そうなれば、量子コンピューティングを使って「この会社とこの会社のDNAを掛け合わせたらもの凄く面白いDNAができる」ということも分かるかもしれませんね!

KIT Lab メンバー

KIT Lab メンバー

現状では、エキスパートたちが事業ポートフォリオの補完性などをもとにM&Aの助言を行なっていますが、それより深い部分でM&A後のベネフィットを評価できそうな気がします。もしかすると、会社のDNAだけではなく、環境や従業員の情報も掛け合わせて「合併後のハーモナイゼーションはどうなるのか?」を見ることも可能になるかもしれません。

そのようなマッチングを行なうM&Aサービスは、コンピューターでしかできないため、参入障壁も低くはないと考えられます。 

豊田:            私は自分の領域からは外れますが、人間の五感のうち嗅覚や触覚に関するテクノロジーの進化に注目しています。特に嗅覚はそれを刺激されると昔起こった出来事が思い起こされる、という場合があります。その反応を生かしてビジネスのアプリケーションを作るとしたら、「紙の臭いでその調書や書類が偽物かどうか判別できる」というものは、面白いと思います。

また、一度ぜひ試してみたいこととして、「他の人が考えるアルゴリズムを借りてみる」というものがあります。自分の意識を持ちながら、千葉さんや茶谷さんの思考を体験してみる、というわけです。

茶谷:            それはSFや日本のアニメのテーマによく見られるものですね。

豊田:            実装するとなるとプライバシーなど様々な面でコンプライアンスの課題がありますが、大変興味があります。

茶谷:            「教育の未来」についても興味があります。今後、STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)が中心になると、記憶する対象が変わってくるでしょう。よりファンダメンタルな原則や基本公式がどう形成されていったのかが重要で、歴史的に重要なイベントの年号を記憶すること自体にはあまり価値がなくなると見ています。むしろ、そのようなイベントがなぜ起こったのか、ということに重きが置かれるでしょう。歴史観や大局観を学ぶ機会も出てくるように思います。

豊田:            そうした過去の出来事のパターンを多角的に解析して再び繰り返さないようにする、という振る舞いもあり得るでしょう。ただ、起こり得るけれどまだ起こってないこと、例えば起こっていない不正をどう防止するのか、というのはやはり方法論が気になりますね。

茶谷:            不正などが起きやすいシチュエーションについてはある程度の知識として記録されていますが、デジタル化された知識として残っているものは一部でしかないと想像できます。手口が事細かにパブリックになっているケースはほとんどないため、アクセス可能なデータはそう多くなさそうです。

しかし、それが予防や防止に結びつく“宝の山”かもしれません。そうした意味では、先ほど宮部さんが指摘したように、各監査法人や銀行が個別にデータを持っていることが本当に社会にとって利益なのか、という議論も出てくるでしょう。お互い暗号化して開示し合うことができた方が社会全体にとってのベネフィットが大きいかもしれません。

話は尽きませんが、このような空想や妄想を繰り返すことは「今後やるべきこと」を見つける機会になりますね。ぜひ、こうした議論を重ね、また、プロフェッショナルの知見も融合させて、今までにないチャレンジを続けていきましょう。

※所属・役職は取材当時のものです。

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