ジョブ型雇用を機能させるための「成果」の定義

雇用制度の見直しにより注目されているジョブ型雇用について、成果と報酬を紐付ける際に重要となる測定指標にも触れながら解説します。

雇用制度の見直しにより注目されているジョブ型雇用について、成果と報酬を紐付ける際に重要となる測定指標にも触れながら解説します。

「新常態時代の企業法務」第16回。テレワークの普及により、今後多くの企業での導入が予想されているジョブ型雇用について、成果と報酬を紐付ける際に重要となる測定指標にも触れながら解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

テレワークの普及によりジョブ型雇用に注目が集まっている。各員の職務を明確にし、成果に応じて報酬を決定するジョブ型雇用を機能させるためには、成果と報酬を紐付ける人事評価制度の設計が肝となる。一方、そもそも法務・コンプライアンス(法令順守)業務の「成果」を定義できている企業は少ない。
また、メンバーシップ型雇用がとられてきた日本では、全社共通の人事評価制度が採用されており、法務・コンプライアンス部門に特化した評価項目は設定されてこなかった。事業部門とは異なり、法務・コンプライアンス部門は直接的に売り上げ・利益を生み出す部門ではないため、その特性を踏まえた成果の設定、さらに、その測定指標となる評価項目を再検討する必要がある。
組織としての成果を定めきれない法務・コンプライアンス部門は、部門内での検討に時間を使いすぎる傾向にある。社内クライアントである経営陣や事業部門と繰り返し対話し、求められる役割について両者の認識を合わせる取組みが不可欠だ。

主な成果の測定指標として、次の3つが挙げられる。組織の最終的な目標の達成状況を表すKGI(主要目標達成指標)、達成に決定的な影響を及ぼす要因を示すCSF(重要成功要因)、それらと連動した最終目標に向けた個別の取組みの成果を表すKPI(主要業績評価指標)である。
たとえば、「コンプライアンスリスクの未然防止」を成果として設定するのであれば、「同リスクに関する役職員の認知度」をKGIの1つに定め、そのテーマに関連する研修の満足度をKPIとして設定し、そのモニタリングなどを通じてCSFを特定していく。
KGIやCSFは日常的な測定が難しく、各員の人事評価項目としてはKPIが活用しやすい。ただ、KPIの目標が極端に高すぎたり低すぎたりすると、無駄な取組みになりかねない。適切で効果的な目標を設定するための留意点をまとめた「SMARTの法則」と呼ぶ手法があるので、KPIでもぜひ参考にしたい。
なお、そのKPIが、役職員の望ましい行動を誘引するか慎重に検討する必要がある。過多で複雑なKPIは業務活動・評価の優先順位付けを困難にし、逆に単一でシンプルなKPIは偏向した行動を招き中長期的な視点に立った行動を難しくする恐れがある。

コロナ禍を受けた新常態(ニューノーマル)時代では、事業環境が急激なスピードで変化することが想定される。繰り返し見直される組織として目指す成果を、部門内に迅速かつ確実に浸透させ、正しい方向に組織を導いていくためのツールとして人事評価をとらえなおしていくことが法務部門にも求められている。
 

SMARTの法則

明確性(Specific) 誰にとっても明確であること
測定可能性(Measurable) 客観的に測定可能であること
達成可能性(Achievable) 現実的に達成可能であること
関連性(Relevant) 組織の目的や戦略と関連すること
時限性(Time-bound) 明確な期限を設定すること

執筆者

KPMGコンサルティング
コンサルタント 藤田 丞

日経産業新聞 2020年10月7日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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