コンプライアンス違反を想定したシミュレーションで不正発生に備える
不正発生時を想定したシミュレーションの重要性と、発覚直後の対応プロセスとなる「初動対応」と「事態収拾」について解説します。
不正発生時を想定したシミュレーションの重要性と、発覚直後の対応プロセスとなる「初動対応」と「事態収拾」について解説します。
「新常態時代の企業法務」第13回。不正発覚時の混乱を防ぐため、違反を想定したシミュレーションで備えることが重要です。今回は、発覚後の対応プロセスとして「初動対応」と「事態収拾」について解説します。本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合により若干の補足を加えて掲載しています。
新型コロナウイルス感染症(COVID19)の影響で不正は増える兆しがあるものの、不正発生への備えができている日本企業は極めて少ない。発生を想定することへの抵抗感など理由を1つに絞るのは難しいが、海外企業と比べてこの違いは大きい。
不正発生に備えて準備することで得られる便益は数億円、場合によっては数十億円以上に上る。1つには自浄作用・危機回復力を持たないとの批判、ひいては訴訟を起こされるリスクの低減が挙げられる。さらに、当局への自主申告・協力により大幅な罰金の減額や訴追の見送りを受けられる制度の活用につながる。日本でも2018年6月から日本版司法取引制度が導入され、実際に企業として起訴を免れたケースも現れている。
不正発生に備えるには、具体的なコンプライアンス(法令順守)違反を想定したシミュレーションが有効だ。不正発覚後の混乱のなか、次々と発生する複数の不慣れなタスクを部門横断的にスピード感を持って処理する必要があるが、その場で考えて適切に対応することは極めて難易度が高い。シミュレーションを通じて、企業として求められる対応をあらかじめ洗い出し、関係部門や手順を特定しておくことでそうした混乱を防ぐことができる。
不正対応は発覚直後の「初動対応」フェーズと、その後の「事態収拾」フェーズに分けられる。
初動対応フェーズは、対応チームの立ち上げにより、当該不正対応の成否が大きく左右されるため、特に心を砕く必要がある。このチームは不正により派生的に生じる問題や、広報・IR(投資家向け広報)、事業継続活動などの対応事項の網羅的な整理など、特殊なスキル・経験を要する。このため、社内外から適切な専門性を有するメンバーを集め、また適切な権限者をリーダーとして選定し、プロジェクトマネジメントを徹底する必要がある。
事態収拾フェーズでは、特にどのタイミングで、どのような内容を当局、取引先、株主、従業員などの各ステークホルダー(利害関係者)に報告・共有するかの判断が難しくなる。ステークホルダーに対して信頼性のある情報を提供するために十分な調査をする必要がある一方、迅速に情報開示をする必要もある。また、報告の順序も、これを誤ってしまった場合には、かえって問題を複雑化させかねないため、あらかじめ検討しておくことが肝要である。
自主申告・協力による刑罰の減免制度
米国FCPA企業執行方針 | 違反行為の自主申告、捜査への全面協力、適時かつ適切な是正措置で原則として訴追を免れる |
各国の独占禁止法・競争法 | 自ら関与したカルテルについて、自主的に報告した場合、課徴金が減免される |
日本版司法取引 | 他人の刑事事件の捜査・公判への協力と引き換えに、自らの事件を不起訴または軽い求刑に |
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 鈴木 皓太
日経産業新聞 2020年10月2日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。