法規違反を早期発見するための近道とは

新型コロナ以前よりも法規違反の未然予防が困難になることが想定されるなかで、可能な限り早期に発見するための手段について解説します。

新型コロナ以前よりも法規違反の未然予防が困難になることが想定されるなかで、可能な限り早期に発見するための手段について解説します。

「新常態時代の企業法務」第11回。テレワーク移行などの理由により、新型コロナ以前よりも法規違反の未然予防が困難になることが想定されるなかで、可能な限り早期に発見するための手段について解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

法規制違反の発生をゼロにすることをコンプライアンス(法令順守)活動の目標として掲げる企業は少ない。一方、収益へのプレッシャーに加え、テレワークへの移行による監督の不徹底により違反の未然予防は以前よりも困難になることが想定される。新常態(ニューノーマル)下のコンプライアンス対応は、完全な未然予防ができないことを念頭に、問題が大きくなる前に、可能な限り早期に発見することが肝要である。

公認不正検査士協会の2018年度版「職業上の不正と濫用に関する国民への報告書」によれば、不正発見の手段としては、「通報」が圧倒的に多い。さらに全通報の半数以上が従業員によるものである。ウィズコロナ・アフターコロナの環境下でも引き続き、通報制度の実効性を高めていくことがコンプライアンス違反を発見する近道となる。

通報制度の整備・見直しに関しては、消費者庁「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が参考になる。同ガイドラインでは、通報者の保護に関する内容に加え、通報者への対応状況の通知や制度の継続的な評価・改善といった通報制度の信頼確保、ひいては実効性向上につながる対応事項を紹介している。
さらに、同庁には「内部通報制度認証」(自己適合宣言登録制度)という制度もあり、79社が登録している(2020年9月執筆時点)。登録までしなくても、同制度の審査基準は、自社の内部通報制度を改善するための有益な視点を提供してくれるので参照されたい。
この通報制度についても、新常態に伴う変化を踏まえた対応が必須となる。有効な通報の件数は、制度自体の周知・徹底状況、通報制度の信頼度、通報による改善への期待度などに左右される。これらの要素はテレワークなどの労務環境の変化を受けた見直しの巧拙により大きく影響を受けるため、いずれの企業にとっても喫緊の課題といえる。

グローバル全体での見直しに当たっては、各国規制の検討も必須だ。米国ではサーベンス・オクスリー法やドット=フランク法で内部通報・内部告発に関する定めがある。欧州では、労働者の企業への忠実・守秘義務などと衝突し、かつナチスなどの密告の歴史が想起されることから、これまで企業の通報制度の設置には消極的であった。しかし、2019年に欧州連合(EU)公益通報者保護指令が成立するなど変化が見られ、その動向を注視する必要がある。
加えて、海外拠点の内部通報を日本本社で取り扱う場合は、EU一般データ保護規則(GDPR)や米カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)など、個人情報保護規制への対応にも注意したい。

 

主な不正発見手段の割合(世界)
通報 40%
内部監査 15%
マネジメントレビュー(経営層による確認) 13%
偶然 7%
勘定の照合 5%

(出所)公認不正検査士協会の2018年度版「職業上の不正と濫用に関する国民への報告書」を基にKPMG作成



執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 田中 義人
 

日経産業新聞 2020年9月30日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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