海外M&Aを成功させるための3つのポイント

海外M&Aについて、日本企業にとって難易度が高い理由と今後成功させるために欠かせないとされるIT活用について解説します。

海外M&Aについて、日本企業にとって難易度が高い理由と今後成功させるために欠かせないとされるIT活用について解説します。

「新常態時代の企業法務」第8回。日本企業にとって難易度が高いとされる海外M&Aについて、失敗が相次いでしまう理由や成功させるために不可欠なIT活用のポイントについて解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、足元のM&A(合併・買収)件数は減少しているものの、リーマン・ショック後のように、手元資金の厚い日本企業が買収価格を低く抑えられる不況期に積極的に検討することも予想される。ただ、日本企業によるM&Aは失敗も目立ち、注意が必要だ。
日本企業によるM&Aは特に海外案件について失敗が相次ぎ、経済産業省が2017年に「我が国企業による海外M&A研究会」を設置するまでに至った。その後も状況はあまり改善されておらず、経産省が2019年にまとめた「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」では、十分な監督や経営統合を行い、シナジーを実現して企業価値向上につなげることは「日本企業にとって特に難易度が高い」と指摘している。

ではどこに問題点があり、どうすればよいのであろうか。法務・コンプライアンス(法令順守)面では、少なくない日本企業が、デューデリジェンス(価値・リスク評価)や契約交渉、PMI(買収後の統合作業)などの個別プロセスに関係した業務を弁護士などの外部専門家や一部のベテラン社員に大きく依存していることが挙げられる。そうした企業では、組織的にノウハウや専門スキルを蓄積できておらず、実行力の低下につながっている。

 

この問題に気づいた一部企業が進めているのが、ITの活用だ。その1つが「マターマネジメントシステム」と呼ぶ案件管理システムである。法務案件で誰がどの業務にどれくらい時間をかけているか、どんな審査・コメントをしたかなどの情報を一元管理でき、複数部門横断で進める業務の管理に効果を発揮する。
また、訴訟発生時などに確認が必要となった際、これまでなら蓄積・管理されずに散逸していたような経緯・コミュニケーションに関する情報のとりまとめや検索・抽出にも使うことができる。業務プロセスを回す中で蓄積したデータを活用し、暗黙知をノウハウ化する取り組みと言える。
また、契約書についてもテクノロジーが活用できる。人工知能(AI)による完璧なレビュー(確認作業)はまだ難しいものの、継続的な順守が求められる条項やリスクにつながりやすい条項の抽出、複数契約間での比較・分析などをするデジタルツールは海外では複数の事業者がすでに提供しており、契約レビューや起案の支援ツールとして活用され始めている。日本でも日本語対応に向けた改修・開発が進んでいる。

テクノロジー導入を一足飛びに進めることは難しいものの、M&Aの成否は企業の先行きを大きく左右し、実行力の強化は競争優位性に大きく影響するため、早期の検討開始が必要である。

海外M&Aを成功させる3つのポイント

M&A戦略ストーリーの構想力 中長期の「目指すべき姿」の実現に向けた道筋との整合性
海外M&Aの実行力 選定・調査、契約交渉、PMI(統合作業)など個別プロセスの実行
グローバル経営力 グループ一丸となった成長に向けたガバナンス(企業統治)

(出所)経産省「我が国企業による海外M&A研究会」報告書を基にKPMG作成

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター 水戸 貴之
 

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

日経産業新聞 2020年9月25日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
 

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