法律業務改善を図るためのALSPとリーガルテックの併用

リーガルテックとALSPを併用した法務業務の改善への取組みについて、欧米企業を例に解説します。

リーガルテックとALSPを併用した法務業務の改善への取組みについて、欧米企業を例に解説します。

「新常態時代の企業法務」第15回。欧米では、リーガルテック領域への投資とともに、ALSPという外部業者へ委託する仕組みが整っています。ALSPとリーガルテックを併用した法務業務の改善への取組みを解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

法務をIT(情報技術)で効率化する「リーガルテック」領域への多額の投資が続く米国や欧州では、「オルタナティブ・リーガル・サービス・プロバイダー(ALSP)」の発展・伸長も著しい。ALSPとは、法務コンプライアンス(法令順守)関連サービスを提供する、法律事務所ではない事業者全般を指す。
弁護士法で弁護士以外の法律業務が禁止される日本に比べ、欧米では法改正で、法律業務に関する規制が一定程度緩和されている。法改正とは、米国各州の倫理規則改正や英国のオルタナティブ・ビジネス・ストラクチャー制度などだ。こうした緩和により、訴訟・調査支援や法律文書レビュー(確認作業)など標準化・定型化された業務をALSPが比較的安価で受託できる仕組みが整っている。

欧米企業では、リーガルテックとALSPを併用し、法務業務の改善を進める傾向にある。各業務のコストと質、将来にわたっての資産となるノウハウの蓄積といった観点から、リーガルテックを活用して内製化すべき業務とALSPなどにアウトソースすべき業務を峻別する手順とその判断基準を設定している。リーガルテック導入に当たっては、効果的にツールを使いこなすために必要なトレーニングに要する期間・コストを含めて投資対効果を分析するなど、徹底的に検討している。

こうしたリーガルテックやALSPの選定・導入の支援、財務分析を含む定期的な評価の実施、業務プロセスの見直しなどを主務とする人員として、欧米では「リーガル・オペレーションズ・マネジャー」といった専門家の採用も一般的となりつつある。世界最大級の企業内弁護士団体「アソシエーション・オブ・コーポレート・カウンセル(ACC)」が2019年に実施した調査によると、同団体に所属する法務部門において「リーガル・オペレーションズ・マネジャー」などの専門家の数は平均3.1人に上っている。

日本でもジョブ型雇用の導入やコロナ禍の景気減速を受けて、人材の流動化が活発となることが見込まれ、法務部門でもリーガルテックのみならず、ALSPの活用を含めて人員の変動に柔軟に変動できる仕組みを整備することが求められる。また、手つかずとなっていることも多い海外拠点の法務・コンプライアンス機能を底上げする手段としてALSPを起用することも一案である。

ALSPが提供する業務例

法務関連業務 契約書の作成・管理・レビュー
コンプライアンス関連業務 社内規則の順守状況の確認・監査・モニタリング
知的財産関連業務 特許関連調査・申請書作成

執筆者

KPMGコンサルティング
コンサルタント 中畑 良丞

日経産業新聞 2020年10月6日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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