法務・コンプライアンス体制に役立つTOMの活用とは

在宅勤務を前提とした新たな働き方に向け、組織を効果的に変えていくためのTOMの手法について解説します。

在宅勤務を前提とした新たな働き方に向け、組織を効果的に変えていくためのTOMの手法について解説します。

「新常態時代の企業法務」第3回。今回は、在宅勤務を前提とした新たな働き方に向け、新しい法務・コンプライアンス体制を築くために役立つターゲットオペレーティングモデル(TOM)の手法について解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

検討・準備不足でテレワークを始めてしまい、思うように成果を上げられない企業も目立つ。在宅勤務を前提とした社内の新しい法務・コンプライアンス(法令順守)体制を築くには、その前にテレワーク下でも会社組織が機動的に動くように変えていく必要がある。今回は組織の改革・刷新に向けたポイントを紹介する。

組織の改革に使えるのが「ターゲットオペレーティングモデル(TOM)」という手法である。変化の速い環境下で企業の新たなビジョンを実現可能な目標に落とし込みながら、トップダウンで組織を変えていく方法論だ。テレワークではコミュニケーションの質・量が低下することが多く、全体像の再設計が重要となる。この改善にTOMが応用できる。

TOMの活用にあたっては、目標の具体化が最も重要なステップとなる。目標とはたとえば「押印業務のための出社を、次年度開始時までに70%無くす」といったようなものだ。具体的な目標はそれを実現するための業務・人員・体制・IT(情報技術)インフラを検討するすべての基本指針となり、成果を検証する指標ともなる。
しかし、多くの企業でこうした目標が不明確であるがゆえに、決裁者や関係部署の説得などで錯綜し成果を説明しきれない状況となっている。目標を具体的に描くことで既存業務の無駄を測る尺度を明確化でき、必要な改善の当否の判断も容易となる。複数の目標を定める場合も目標間の関連性・優先順位を整理しておくことが必要だ。また、検討が進まない場合は目標設定まで遡ることで効果的に検討を進められることが多い。
改革を確実に進めるには、目標を繰り返し周知し、旗振り役として改革を推進する事務局を設置することも望ましい。目標に同意しても慣れ親しんだ業務やシステムの変更に対して抵抗感を覚えるメンバーが出てくることは当然であり、それらのメンバーに根気強く対応していかねばならない。

改革自体が目的化し、新技術の導入にこだわるケースもある。しかし、新技術は業務変更を伴うため抵抗に遭いやすく、導入されても使用されない例も多い。そんな時は目標に立ち返り、新技術の運用を含む業務ルールの設計と周知を徹底することが大切だ。さらにデータによる検証を繰り返すことで改革・改善の効果を明文化し、改革をステップアップさせていく地道な取組みが求められる。

ターゲットオペレーティングモデルの流れ

(1)目標の明確化

(2)目標達成に必要な業務配置

(3)業務運営に必要な人員配置・体制/ITインフラ整備

(4)各種業務の実施

(5)振り返り・改善

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 藤田 丞

日経産業新聞 2020年9月17日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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