コロナ禍にこそ留意すべき贈収賄規制とは
景気後退期に留意が必要となる贈収賄規制について、贈賄事案を紹介するとともにリスクを低減するための取組みについて解説します。
景気後退期に留意が必要となる贈収賄規制について、贈賄事案を紹介するとともにリスクを低減するための取組みについて解説します。
「新常態時代の企業法務」第6回。景気後退が想定されるコロナ禍において留意が必要となる贈収賄規制について、贈賄事案を紹介するとともにリスクを低減するための取組みについて解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
リーマンショック以上の景気後退が想定されるコロナ禍の世界では、特に贈収賄規制に留意が必要だ。景気刺激策としての優遇税制や補助金獲得に絡んだ賄賂が生じやすくなるからだ。実際、2008年に起きたリーマンショックの後、数百億円以上の制裁金が課されることもある米国の贈収賄規制で、摘発件数が史上最多を2年続けて更新した。
公務員に対して直接、金銭などを提供する典型的な贈賄行為は、摘発リスクが高く公務員側からも敬遠されるため減少傾向にあり、エージェント(仲介者)などの第三者を経由するケースが多い。しかし当然ながら、第三者を経由することで贈賄の責任を免れるわけではない。また、中国やシンガポールでは、民間企業やその従業員に対する不正な利益供与についても、いわゆる「商業賄賂」として処罰対象となり得ることに注意が欠かせない。
また、米国や英国と関わりがあれば、日本企業による米国・英国以外の国での贈収賄でも、米国や英国の贈収賄規制が適用される。米国では2020年1月、16ヵ国での贈賄疑惑を巡る捜査決着のため、過去最大となる約20億ドル(約2100億円)の罰金を支払う事案が起きた。英国では2017年1月、複数国での贈賄疑惑に関し、約5億ポンド(約680億円)を支払うこととなった事案も発生している。
贈収賄規制に関係するリスクを低減する近道は、米国・英国などの当局のガイドラインを踏まえたコンプライアンス(法令順守)体制を構築することだ。そうした体制を築いておけば、リスクの発生を防止する効果はもちろん、ガイドラインの順守を証明することや調査に積極的に協力することなどにより、万一、贈収賄が発生しても、制裁金の免除・軽減につながる可能性がある。
最新のガイドラインは2020年7月の「改訂版米国FCPA(海外腐敗行為防止法)リソースガイド」である。「不正行為の調査、分析および救済」が追加された点に注目したい。日本企業は「起こしてはいけない法規制違反は、起こらない」ものとして、違反発生時への備えをないがしろにしがちだ。しかし、違反の未然予防と早期発見に加え、発生時の適切な対処の3つの取組みのバランスに配慮しながら検討することがグローバルスタンダードであり、コンプライアンス疲れを防ぎ、取組みを効果的なものとする肝となる。
贈収賄防止に有効な視点 |
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経営層のコミットメント(関与) リスクアセスメント(影響評価) 第三者に対するデューデリジェンス(価値・リスク評価)の実施 効果的な人事制度と懲罰基準の策定 内部通報制度の設置と内部調査の実施 <新規>不正行為の調査、分析および救済 |
(出所)「米国FCPAリソースガイド」を基にKPMG作成
執筆者
KPMGコンサルティング
コンサルタント 季 旻
※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。
日経産業新聞 2020年9月23日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。