グローバル企業が対応すべきコンプライアンステーマとは?
新型コロナの感染拡大により、大きく変容するコンプライアンスについて、グローバル企業が対応すべきテーマを3つに分けて解説します。
新型コロナの感染拡大により、大きく変容するコンプライアンスについて、グローバル企業が対応すべきテーマを3つに分けて解説します。
「新常態時代の企業法務」第5回。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、変容するコンプライアンスに対し、グローバル企業が迅速に対応するために必要なテーマを3つに分けて解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
新型コロナウイルスの感染拡大により、グローバル企業が対応すべきコンプライアンス(法令順守)のテーマも変容しつつある。第1に、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)への対応が挙げられる。このテーマは年々重要性が増すと共に、コロナ禍を受けて、市民の健康や暮らしへの貢献や、労働安全衛生などの「S」の要素が改めて見直されているためだ。
たとえば、コロナ禍で収入源を断たれた人々への通信費や家賃の免除、住宅ローン利息の減免などは欧米企業間でESGテーマとして注視されている。また、新型コロナウイルス感染防止のための安全衛生管理や、感染した従業員への待遇などについても社会から厳しい目が向けられている。
コンプライアンス対応の巧拙は、機関投資家の投資判断に影響を与える。そうした対応を誤れば企業の印象が悪化する一方、いち早く取り組めば企業イメージが上がり、資金調達もスムーズになる。法規制はもとより、機関投資家などの各ステークホルダー(利害関係者)からの要求事項をも踏まえたESGやSDGsへの対応を検討する必要がある。
主な地域・国のESG投資額
国・地域 | 2016年 | 2018年 |
---|---|---|
欧州 | 12兆400億ドル | 14兆750億ドル |
米国 | 8兆7230億ドル | 11兆9950億ドル |
日本 | 4740億ドル | 2兆1800億ドル |
カナダ | 1兆860億ドル | 1兆6990億ドル |
オーストラリア・ニュージーランド | 5160億ドル | 7340億ドル |
合計 | 22兆8380億ドル | 30兆6830億ドル |
第2に、米中関係の緊迫化に関連する規制対応が挙げられる。両国間の対立は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を巡る論争などにより一層厳しくなっている。米国による華為技術(ファーウェイ)向け輸出規制などが強化され、外国企業に影響を与えている。グローバル企業の間で米中貿易摩擦などを背景にサプライチェーン(供給網)改革に向けた動きが見られるが、急速に変化する米国や中国の規制強化を踏まえ、新たに対応すべき規制の洗い出しとその対応を検討する必要がある。
第3に、海外業務のモニタリングの問題が挙げられる。海外工場や関連会社については現地調査を伴うコンプライアンス状況の監査が難しい環境にある。社内文書のペーパーレス化はもとより、基本業務へのモニタリングをデータ分析により高度化・効率化する意義が一層高まっている。
日本企業は国内対応に気をとられ、国際的なコンプライアンスリスクを捕捉できていないケースが散見される。リスクの影響度や低減策の機能状況などを踏まえて、リスクを整理したうえで優先順位を付け、対応を進めなければ、大きな損失にもつながりかねない。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 新堀 光城
※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。
日経産業新聞 2020年9月22日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。