コロナ禍を踏まえた社外取締役の課題認識 - 社外取締役 アンケート調査結果 -

社外取締役が果たすべき役割及びその課題認識の変化についてのアンケート調査結果から、コロナ禍を踏まえた課題認識について考察します。

社外取締役が果たすべき役割及びその課題認識の変化についてのアンケート調査結果から、コロナ禍を踏まえた課題認識について考察します。

未だ終息の目途が立たないコロナ禍の状況下ではあるものの、新たな環境への適応の必要性が増してきている状況を踏まえ、KPMGジャパン社外取締役フォーラム会員の方を対象に、コロナ禍を起因とした社外取締役が果たすべき役割及び課題認識の変化についてアンケート調査を実施し、34%の回答を得ました。調査結果から社外取締役の課題認識について考察します。

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ハイライト

  • 取締役会のオンライン開催の導入率は95%を超え、運営体制やサポート面での対応も進んでいる一方、社外役員のみでの議論の場が不足しているとの問題提起がなされました。
  • 社外取締役の役割は大きく変わっていないとする回答が大多数を占めたものの、従来に増してコロナ禍が及ぼすビジネスへの影響の把握や企業のリスク対応力の評価を重視する社外取締役が多くなっています。
  • Afterコロナを見据えて、大多数の社外取締役が新たな事業機会や戦略の検討を強化すべきと回答しました。具体的な領域としては、半数以上の社外取締役がデジタルトランスフォーメーション(DX)、働き方改革、人材育成を挙げています。

1.コロナ禍における取締役会の運営

取締役会のオンライン開催については、96%が導入済みと回答しました。
オンライン開催に関して、4割が課題は特にないとしたものの、「セキュリティ対策の徹底」(26%)や「意見が言いづらく議論が深まりにくい」(23%)点を課題と感じる回答も一定数存在しました(図表1)。

 

図表1:社外取締役を務める企業において、コロナ禍で、取締役会の開催にオンライン(Web会議システム等)を導入しましたか。
導入された場合、取締役会のオンライン開催において課題と感じられた事項を教えてください。(複数回答)

図表1

その他の主な意見(順不同)

  • 発言が一方的となり、複数人では議論がしづらい面がある。
  • 発言の意図が伝わっているかの反応が見えず、意思疎通の不十分さを感じる時がある。
  • 秘匿性の高い内容によっては、オンライン開催は難しい。

 

また、コロナ禍における取締役会の運営やサポートについては、「特段課題はない」という回答が3分の1を超えたものの、半数近く(47%)が「社外役員のみでの議論の場の不足」を課題として挙げています。その他のコメントでも取締役会前後のインフォーマルな意見交換の場などが必要との意見が寄せられています(図表2)。
コーポレートガバナンス・コードは、取締役会における議論に積極的に貢献するとの観点から、独立社外者のみの会合などを通じて情報交換・認識共有を図ることを求めています(補充原則4-8(1))。これまで、このような取組みは、どちらかというと先進的な事例と言われてきた面がありますが、コロナ禍を契機としてオンラインで取締役会が開催されることが一般的になる中で、社外役員のみで情報交換・意見交換を行うことの重要性を認識する社外取締役も増加しているのではないかと推察されます。

 

図表2:コロナ禍以前と比較し、取締役会の運営やサポートにおいて課題と感じたことを教えてください。(複数回答)

図表2

2.コロナ禍における社外取締役の役割や取締役会の議論

(1)ビジネスへの影響の評価とリスク対応力に注目

コロナ禍においても、社外取締役の役割は「変わらない」とする回答が8割を占めました。一方で、役割が「変わった」とする社外取締役は「企業のリスク対応力の評価」や「自社ビジネスモデルの転換要否等の把握」をより求められる役割と回答しています(図表3)。


図表3:コロナ禍において、社外取締役の役割は変わりましたか。
役割が変わられた場合、より役割として求められるようになったものを教えてください。

図表3

取締役会の議論に関して、社外取締役が注目した点として「ビジネスへの影響の把握や具体的な対応策」が80%と最も高い回答となっています(図表4)。程度の差こそあれ、コロナ禍にあって従来のビジネスの延長線だけでは経営戦略の遂行が難しい中、「ビジネスへの影響の把握」と「リスク対応力の評価」は実質的に同義であり、社外取締役の役割の変化についての認識に差があったとして、社外取締役が本質的に果たすべき役割について認識の差異はなかったのではないかと推察できます。
また、社外取締役が着目する他のポイントとしては「リモートワーク等の働き方の変革」(69%)、「感染予防策など、顧客・従業員の安全確保」(64%)が挙げられました。多くの企業は、感染予防策とともに、リモートワークなどの働き方改革への対応を迫られ「人」に対する注目度が高まったと言われますが、これらの対応は、顧客・従業員という「人」を第一に考えたことに他なりません。


図表4:コロナ禍における取締役会での議論で、社外取締役として注目した点について教えてください。(複数回答)

図表4

その他の主な意見(順不同)

  • 経営陣の社員に対するメッセージの明確化・簡素化
  • コロナ禍を言い訳としていないか?という視点
  • コミュニケーション
  • 副業・兼業の検討の促進

(2)Afterコロナに向けては成長への事業戦略の議論を重要視

Afterコロナに向けた取締役会の議論に関しては、4分の3以上(77%)の社外取締役が「新たな事業機会や戦略の検討」を強化すべきと回答しました(図表5)。多くの企業がコロナ禍を契機として自社の社会における存在意義(パーパス)を再定義・再確認することに取組んでいますが、Afterコロナにおいても持続的に企業価値を向上させていくために、自社のパーパスに沿った成長戦略の検討と実行の後押しを行うことが社外取締役としても重要視していると考えられます。
取締役会において強化すべき他のテーマとしては「DXの推進のための投資」、「働き方改革」、「人材育成投資」を挙げる社外取締役が多くみられました。一方、「ESG/SDGs対応」は全体の3分の1の回答にとどまりました。ESG/SDGsそれ自体を目的化して対応するというよりは新たな事業機会の追求やDX投資、人材投資を推進していくことが結果的にESG/SDGsの課題解決に直結するのではないかと考える社外取締役も多いのではないかと推察されます。


図表5:Afterコロナを想定して、社外取締役として、今後取締役会での議論で強化すべきと考える点を教えてください。(複数回答)

図表5

なお、社外取締役としてAfterコロナを見据えた中長期的な経営戦略の議論を促しているかという問いに対しては、「既に執行サイドが議論に着手済み」の41%を除くと、「社外取締役として議論を促している」「今後議論を促していく予定」が合わせて55%となりました(図表6)。社外取締役が中長期的な目線での議論を促していくことで、中長期的な企業価値向上に向けた取組みが進展していくことが期待されます。


図表6:社外取締役として、Afterコロナを見据えた中長期的な視点での経営戦略の議論を促していますか。

図表6

3.まとめ

今回のコロナ危機は、これまでどの企業も経験したことのないもので、日本企業も厳しい状況に置かれていますが、このような「有事」において、対症療法に終始するのではなく、中長期的な視点から、事業機会・経営戦略を議論していくことが、その後の企業の成長や成否を左右することは言うまでもありません。企業はまさに中長期的な影響を伴う重要な決断を迫られているのです。
社外取締役は、コロナ禍においては、ビジネスへの影響の評価とリスク対応力について着目し、Afterコロナに向けては、コロナ禍がもたらしたあるいは加速させた環境変化を踏まえて、新たな成長のための戦略について取締役会で議論することを重要視しています。
経済産業省「社外取締役の在り方に関する実務指針」でも、「社外取締役は、社内のしがらみにとらわれない立場で、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考えることを心掛けるべきである」(心得2)と求めています。不確実性の高いAfterコロナの時代において、社外取締役の役割発揮への期待は、より一層膨らんでいます。

執筆者

あずさ監査法人
コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス(CoE)
宗形 隆司