国際競争に打ち勝つスタートアップ・エコシステム - 社会価値創造への取組み
今回は、スタートアップ・エコシステムとオープンイノベーションをキーワードとした対談になります。
今回は、スタートアップ・エコシステムとオープンイノベーションをキーワードとした対談になります。
従来の日本は、社会価値を創造するような革新的な技術やアイデアを成果に結びつける仕組みが十分ではなかった。しかし、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19という)の世界的な流行によって経済が混乱するいま、社会課題のスピーディな解決に向けて、産官学による新しい連携のあり方が求められています。今回は、スタートアップ・エコシステムとオープンイノベーションをキーワードとして、新しい産業社会を構築するために多様なエコシステム形成施策に取り組んでいる東京都 戦略政策情報推進本部 特区推進担当部長の米津雅史氏と、大学の第三の役割として「社会価値創造」を掲げる早稲田大学 オープンイノベーション戦略研究機構 副機構長・統括クリエイティブマネージャーの中谷義昭氏にお話を伺いました。
インタビュアー=阿部 博
あずさ監査法人 企業成長支援本部 インキュベーション部長 パートナー・公認会計士
産官学が連携して前進する「スター トアップ・エコシステム」の形成
- 日本政府は経済発展と社会的課題の解決を両立するため、Society5.0 を打ち出しました。大企業とベンチャー企業が相互に連携してオープンイノベーションを生じさせ、幅広い知見と経験によって社会的課題をスピーディに解決しようというものです。いまは新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)によって、この取組みもさまざまな影響を受けているかと思いますが、まずは現状のスタートアップ・エコシステムについて、米津さんからご説明いただけますでしょうか。
東京都 戦略政策情報推進本部
特区推進担当部長
米津 雅史 氏
Masafumi Yonazu
東京大学卒、旧建設省入省。外務省在ニューヨーク総領事館領事、国土交通省大臣官房人事課課長補佐、国土交通省住宅局住宅政策課企画専門官、国土交通副大臣秘書官、国土交通大臣秘書官、内閣官房内閣総務官室企画官、国土交通省総合政策局総務課企画官、内閣府政策統括官(防災)付参事官、東京都政策企画局国家戦略特区推進担当部長を歴任し、2019 年から現職。「スタートアップ・エコシステム東京コンソーシアム」の設立等に尽力。
米津 新型コロナウイルスが拡大する前から国全体としてスタートアップ・エコシステムへの取組みがなされてきましたが、スタートアップに対する投資額が十分ではないということもあり、なかなか成果に結びつけられませんでした。そこで、都市に着目し、スタートアップをインキュベートするような場を育んでいく支援策を集中して行うことにしました。それが「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」です。
そして2020年7月に、グローバル拠点と推進拠点都市が各4ヵ所選定されました。地方自治体、大学、民間組織が連携し、政府の支援のもとでグローバルに活動するスタートアップを創出・成長させていく目的のためです。
そのグローバル拠点の1つに東京都が選ばれました。「東京コンソーシアム」として、東京都心部を核に、川崎市、横浜市、和光市、つくば市、茨城県を結び、東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学などの有力大学と連携して、スタートアップの新技術・新サービスの実証フィールドをコーディネートしようという試みが、まさに始まるところです。
COVID-19の影響も受けていますが、今後の社会経済を見据えたときにイノベーションの取組みを遅らせるわけにはいきません。
スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム スタートアップ・エコシステムの形成促進、産学官によるスタートアップの創出や成長促進等の取組みを行い、192の組織が参画(2020年9月現在)。現在、「ポストコロナワーキンググループ」「大学を中心としたエコシステム拠点強化ワーキンググループ」を立ち上げるなど活動を開始しており、スタートアップ・エコシステムのさらなる発展に向け、積極的に活動している。 |
早稲田大学 オープンイノベーション戦略研究機構
副機構長・統括クリエイティブマネージャー
中谷 義昭 氏
Yoshiaki Nakatani
1978年3月早稲田大学大学院理工学研究科 修士課程修了(電気工学専攻)、同年4 月三菱電機株式会社に入社。電力・産業システム事業所公共部長、同副事業所長(兼)品質保証推進部長、神戸製作所副所長、受配電システム製作所長、役員理事・系統変電システム製作所長、常務執行役・電力・産業システム事業本部長などを経て、2014年4月専務執行役・電子システム事業本部長に就任。この間、スマートグリッド事業や宇宙利用自動運転技術等の新事業創出に貢献。また、電力技術世界会議であるCIGREの日本国内委員会副委員長を務め、大学・電力会社・産業界の立場を超えた議論の取りまとめに取り組んだ。2018年9月より現職。
-東京コンソーシアムには早稲田大学も参加されていますが、それとは別に、独自の取組みとして、2018 年10月にオープンイノベーション戦略研究機構を立ち上げられています。早稲田大学がオープンイノベーション戦略研究機構を立ち上げた背景とはどのようなものなのでしょうか。
中谷 オープンイノベーション戦略研究機構は、2018年度に文部科学省の「オープンイノベーション機構の整備事業」に早稲田大学が採択されたことで発足しました。日本の場合、企業と大学の共同研究の多くは、企業の開発担当者と大学の教員の一対一の関係から成り立っています。個人の付き合いから始まっていることから研究の規模は小さく、1件当たりの研究費が100万円前後という案件が半数近くを占めています。対して、海外の共同研究は複数の教員が参加するプロジェクト型で、1件当たりの研究費は日本の10倍くらいになります。米津さんがおっしゃったように、投資額が全然違うわけです。そうした背景から、産学連携のあり方は以前から議論されてきました。
それを受けて、文部科学省が「オープンイノベーション研究機構の整備事業」を起こしました。この年に採択された大学は全部で8 大学でした。我々が文部科学省から受けたミッションは、第1に共同研究の相手が民間企業であること。日本の民間企業の大学への投資額が海外に比べ甚だ低いことが背景にあります。第2に共同研究対象が競争領域で、企業の競争力強化や差別化に資するものであること。これは、公的資金の研究はほとんどが協調領域であり、研究終了後の事業化や社会実装されるルートが明確でないことが多いからではないでしょうか。第3は組織対組織であること。先ほども申し上げたように、従来の個人対個人では研究規模が小さく、続かないからです。研究もそうですし、事業の永続性という意味でも続きません。
-なぜ、永続性が担保されないのでしょうか。
中谷 背景に少子高齢化があります。学生も働き手も少なくなるということは、つまり企業の研究キャパシティが狭まるということです。従来、日本の大企業の多くは自前主義で、自分たちで研究開発部門を持ち、クローズドに競争力を高めてきました。それはそれで日本の企業は発展し、「技術立国日本」、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の一時代を築きました。
しかし、いまはプレイヤーが多様化し、グローバル化、モノからコトへの製品価値変化等を背景に開発スピードが加速しているのに加え、少子高齢化や社会構造の変化で、企業の研究開発キャパシティの強化どころか維持が危うくなってきます。何も変わらなければ日本企業のイノベーション能力は低下を続けるということです。このような変化の激しい社会環境で、従来の自前主義だけで研究開発をしていていいのか、持続性が担保できるのかという懸念があります。これからは、完全自前主義から脱却し、事業創生や課題解決までオープンなイノベーションキャパシティを取り入れるべきでしょう。その必要性に、企業や産業界全体も気がついていると思います。
-おっしゃるとおりです。KPMGにも、2019年11月にインキュベーション部ができたのですが、その経緯はまさしく中谷先生がおっしゃったように、世の中の変化にあります。これまでの日本は、海外に比べて民間からの投資が少ないですし、どちらかというと大企業中心の世界でした。その状況が明らかに変わってきています。たとえば、いまの学生は既存の企業ではなく、ベンチャーに入る方も増えてきました。若くて優秀な人材が30歳くらいで会社を作り、数十億もの資金調達をしています。こうした流れを受けて、今後は社会の構造が変わっていくはずです。
そこでKPMGでは、社会価値を創造できる企業、革新的な技術やアイデアを有する企業、若い経営者たちを発掘して支援していこうと、インキュベーション部を立ち上げました。
大学の中立性が、オープンイノベーション実現のキーとなる
-歴史を振り返ると、イノベーションの担い手は個人の発明家から大企業の研究所へ、そしてアカデミアとベンチャーへと交代してきました。しかし、産官学による共同研究は、1980年代のバブル前でも盛んに行われていましたよね。
中谷 私が総合メーカーに入社したのは1978年ですが、その当時は産官学というよりも、自前主義が主流だったような気がします。とにかく競争力をつけるのだということで仕事をしていましたね。
-現場はそうだったかもしれません。ただ企業の外から見ると、当時は官が音頭を取って、旗を振っていたように見えていたかもしれません。
中谷 おそらくですが、どこかで止まっていたのでしょう。さまざまな、官庁主導のオールジャパン型のプロジェクトがあったと思いますが、よく見るとどこかで止まっていて、なかなか成果にたどり着いていなかったのではないでしょうか。その原因を突き詰めてPDCAを回さなければ、プロジェクトは先に進みませんからね。
-80年代の流れは、バブル崩壊も受けてか途絶えてしまいました。いま、COVID-19によって、せっかく盛り上がってきたオープンイノベーションの機運がまたもや落ち込み始めているように感じます。前回と同じようなことにならないようにするためには、どうすべきだと思いますか。
中谷 これは私の想像ですが、前のときはエコシステムになりきれていなかったのだと思います。社会環境や法規制、そうしたものをクリアしないで、ただやりたいことのアドバルーンを揚げていた。しかし、本当に産官学のエコシステムを回すのであれば、それらの社会環境の壁を突破する必要があります。そのためには、中立性を持った人が旗振り役になるべきなのですが、おそらく、そういう役割を持った存在がいなかったのではないでしょうか。
通常、企業は「あの会社と組んで協業したい」と思っても、そう簡単には言いだせないし、うまく進みません。たとえ法規制をクリアできたとしても、社内外のリスク回避を考慮しすぎたり、お互いの利害関係が先立ってしまい進まなくなるからです。
その点で大学は「中立性」を有しています。その立場で個々の企業では対応しにくい協調領域創出から競争領域への接続や異業種連携までもアカデミア主導でできることがあれば取り組んでみようと思っています。現在、大学主導のコンソーシアム設立や活動を複数進めているところです。実際、企業の方と話していても、そういう希望をされる企業は多いです。
-東京都はいかがでしょうか。オープンイノベーションの火を絶やさないためには、官としてどのような取組みをすべきだと思いますか。
米津 いくつかの側面があります。中谷先生がおっしゃったように、大学側でも独自に全学でインキュベーションを支えるような仕組みが整ってきていますし、そういう仕組みを持つ大学も増えてきています。ですが、体制的に未整備、あるいは整備段階という大学も、まだまだたくさんあります。1つは、そうした大学に対して仕組みづくりを国と連携しながら支援していくことです。
また東京都は、多様なプレイヤーを顔が見えるような形でゆるやかに結びつけられないかと考えています。地域の課題解決には、まさに大学がキーとなってくるはずです。大学と、それから地域の開発を担うような数多くの複数の業種の方々が、これからいろいろな課題解決をするために、どういうネタを持ってきて、どうやって進めていくのか。いま、そうした地域の課題に即するような枠組みが、少しずついろいろなところでできつつあります。しかし、多様なプレイヤーを結びつけることは、1人がやることでも、できることでもありません。それを東京都が担い、具体的なものとして発展していければと思います。
時代に即した価値創造の方法を追求し、技術や人材を一層活かす工夫を
- 近年、ベンチャー企業と大企業の関係が対等になってきたように感じます。従来であれば、ベンチャーは自分たちの研究に没頭し、大企業がそのベンチャーの技術を利用するという役回りでしたが、それが変わってきたように思えます。若くても起業でき、資金調達が容易となったことで、必ずしも大企業と組まなくてもビジネスを進められるというように、起業家の意識が変わってきたのです。こうした流れに対して企業も変わるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
中谷 ベンチャーとの付き合い方においては、海外の企業に比べて、日本の企業は事前に子細に分析をし計画を立てることに多くの時間をかけます。その結果、計画を断念することも多いと聞きます。要は、慎重に、失敗しないことが前提の意思決定をするわけです。開発で言えば「ウォーターフォール型」、インキュベーションの世界では「コーゼーション型」といいますが、これは失敗を許さない世界です。
日本の大企業は従来ウォーターフォール型が当たり前のプロセスであり、それはそれで日本企業の堅実なる経営に大いに貢献してきたと思います。しかし、インキュベーションということを考えたときには、このようなやり方だけでは先に進みません。
そこで出てきたのが「アジャイル型」、インキュベーションの世界でいう「エフェクチュエーション型」です。失敗して、そこから学び、もう1度トライすることを繰り返し、スピードと連携を重視する。つまり失敗を許す多産多死の世界です。海外のインキュベーションの多くの成功事例はこのようなプロセスを踏み生まれてきました。全部をエフェクチュエーション型でとは言いませんが、日本の企業もアジャイル型やエフェクチュエーション型の考え方を学び、イノベーションに取り入れるべきです。
米津 日本の大企業は圧倒的に高い技術を持っていますし、資金も豊富です。人材の質も非常に高い。しかし、外から見ると、イノベーションのためのイノベーションという感じがします。そのため、一部の大企業では、新規事業部的な部署が旗を振っても、それがコアの事業に本当に刺さる取組みになっていないように見えます。
スタートアップとの付き合い方でも、双発的な取組みが刺さるような形にするためにはもう一工夫する必要があるでしょうし、人材についてもベンチャーが大企業に求めることは多くあります。さまざまなルールがあるなかで、大企業の知見や知恵を新しい芽に活かせないか、工夫をすべきでしょう。
スタートアップへのインキュベーションでさらなる成果へ繋げる
-東京都は、調査会社Startup Genomeが今年6月に発表した「Global Startup Ecosystem Ranking 2020」でベルリンや深圳、シンガポールなどを抑え、初めて15位にランクインしました。急浮上したという感じがしますが、ここまでランクを上げることができた理由について、どのように分析されているでしょうか。
米津 ここ数年の変化だと捉えています。いまの部署に来て2年くらいになりますが、当時の東京は、ランキングではまったくの圏外でした。サンフランシスコやボストンなどに比べて起業の数自体が少ないですし、投資額も小さかったからです。
これだけでしたら想定内ですが、それよりもショックだったことがあります。それは、東京を含めた日本の都市の状況が世界的に知られていなかったことです。世界的な指標をつかさどる機関や他の都市の方から、統計データなどがオープンになっていないためにランキングのしようがないと指摘されたのです。世界に向けた発信とか、ファクトの説明といったところが少なかったのではないか。そう反省し、プロセスを改善してきました。
一方で、早稲田大学のような先進的な大学や、KPMGのようなインキュベーションを加速する能力を持った企業の取組みが、COVID-19によるパンデミックの前から進んでいました。そうした取組みが徐々に実を結んできたことも大きいと考えています。
圏外から15位にランクインできたのは、そうしたことの結果でしょう。しかし、東京という都市のポテンシャルを考えたとき、15位で満足すべきではありません。我々としては、さらにランクアップさせるためにもう一工夫、二工夫していかなければならないと認識しています。
中谷 GDP3位の国の首都がランキング15位というのは、確かにまだまだ上位に行くポテンシャルがあると思います。おそらく3位くらいまでの実力はあるのではないかと思っています。東京は企業、情報、人材が集中しており、国内外のアクセス優位性もあります。コロナ禍で地域分散の議論が沸いていますが、現状ではイノベーション創出には世界有数の環境ではないでしょうか。
ご存知のとおり早稲田大学は東京都新宿区にあります。そうしたポテンシャルの高いエリアに大学があるというのは、1つの強みと言えます。研究所をつくるにしても、当然ですが新宿の真ん中に作れますし、インキュベーターを周りに集めれば、バレー構想に近い活動もできます。そういう意味では、早稲田大学は恵まれた場所にあるといえるでしょう。それをどううまく回していくかというのが、今後の我々の課題です。
-昔も今も変わらないかもしれませんが、ある時代のある人が頑張ってやってきて、結果に繋げてきたと思います。それでも、まだ日本は15位。さらにランクを上げるには、大学からベンチャー企業が出てきて知識や成功体験を積み上げていき、次の会社へ、また次の会社へと循環させるエコシステムを作っていかなければなりません。
そのために必要なのはやはり人材、それもCEOやCFOなど、会社の経営にかかわる人材です。アントレプレナー教育で知識を授け、そうした人材が集まることによって起業するような環境をつくっていくことが大事ではないかと思います。
よりオープンで迅速なイノベーショ ンのためのエコシステムを目指して
-それでは、スタートアップ・エコシステム、あるいはオープンイノベーションを構築するにあたっての課題と、それに対する取組みについてお聞かせください。
米津 課題はいくつかありますが、今回の議論に即して言えば、具体的な成果として、どういう形で目に見えるものを出していけるかが課題と言えます。たとえば、研究がPoC(実証実験)にとどまり、なかなか実装に結びつかないことは課題です。これを解決するには、やはり一対一の関係ではなく、業種を超えた取組みとして骨太なものにしていくことが必要だと考えています。
東京コンソーシアムは、東京都だけで取り組むのではなく、周辺地域を結ぶ形をとっています。たとえば、PoCを実施するにしても、1つの地域だけではなかなか完結できません。PoCは環境データを得るために、実験する地域を変えて何度も行うものだからです。地域を変えるたびに各地域での規制やプロセスをクリアしなければならず、行政の許諾を得なければならないため、時間と手間がかかり、時期を逃してしまう可能性があります。
そこで、その手続をワンストップにすることで、スピードアップを図りたいと思っています。たとえば、1つの手続によって各地での実験を可能にする。あるいは企業側の目的のための適地を探す。そうしたことに対して、連携した枠組みのなかで提案していければと思っています。
また、東京コンソーシアムではポストコロナの環境での産官学の新しい形を見据えて、それぞれの立場でどう変わっていくべきかという議論もはじまっています。
中谷 冒頭にお話ししたように、組織対組織型に変えていくことだと考えます。そのために当機構は、企業からニーズを引き出す活動と、共同研究をプロジェクト型で進めるための活動、この2つに注力しています。
まず、企業からニーズを引き出す活動です。経営ビジョンに向かって立ち止まることなく変化をしていこうとする姿勢は、我々にも伝わってきます。
そこで、何をやりたいのか、ニーズは何か、ウォンツは何かを問いかけたとき、「今やりたいのはこれです」と答えられる企業は意外に少ないものです。そこで、受け皿となる大学として、早稲田大学では本当のニーズ、ウォンツを引き出すための支援をしています。これは有償で、研究体制、研究テーマを決めるプレ・ラボラトリという活動です。企業の技術者、早稲田大学の研究者、リサーチ・アドミニストレーター(URA)、クリエイティブマネージャーなどとのディスカッションを通し、企業が本当に求めている研究テーマと体制を絞り込むのが目的です。
2つ目は、共同研究をプロジェクト型で進めるための活動です。海外有名大学のオープンイノベーションへの取り組み方は組織対組織型が主流であり、社会実装拠点としてエコシステムの中心になっています。
社会課題や新事業創生を真正面から捉えたとき、大学側はその課題に対して役立つ研究シーズで答えなければならない。ですが、そうした研究シーズは1つの課題に対して1つのシーズとは限らず、複数のシーズが必要と考えるのが自然です。であるならば、複数の教員がプロジェクト型で共同研究を進めるのが組織対組織型のあるべき姿だと思っています。我々は大学側でそれを実行しています。
なお、プロジェクト型で研究を進めるのならば、コーディネーターが必要になります。企業であれば、プロジェクトには必ずプロジェクトマネージャーがいますよね。
しかし、大学には、コーディネートという考え方が定着しているか疑問です。理由は単純で、一対一の共同研究では必要がなかったからです。そのコーディネーター機能をどうするのか、そのマネジメントも当機構は担っています。今後は、大学として企業との付き合いを一層深め、社会課題の解決に資するような研究課題を、組織対組織型で進めていきたいと考えています。
-貴重なご意見を聞かせていただき、ありがとうございます。東京を日本の、そして世界のエコシステム都市にするためには、規制が多すぎるように思います。これを解決していくには、経団連も含めた企業、大学、官公庁この三者が本当の意味で1つになっていく必要があるのではないでしょうか。大企業には蓄積された技術や資金がありますし、大学発ベンチャーには革新的なアイデアを有する企業もあります。それらを活かしつつ、常日頃からヒト・モノ・カネをお互いに交流させることができれば、withコロナでも社会価値を創造していき、日本を発展させていけるのではないかと思います。
インタビュアー
監査法人に入社して以来、金融商品取引法監査・会社法監査をはじめ、株式上場支援業務、デューデリジェンス業務などに従事。現在は監査業務のほかに、企業成長支援本部インキュベーション部長として大学発ベンチャーへのサポートやオープンイノベーションのイベントを推進。著書に「株式公開の実務Q&A」(共著、第一法規)、「株式総会の運営と決議」(共著、第一法規)、「有価証券届出書等におけるリスク情報の完全分析」(共著、中央経済社)。